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449.幼女〜ニーアside
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「ニーアさん、お願いします!
グレインビル嬢に合わせて下さい!」
厨房を借りて軽食の準備をしていると、この教会の聖女とやらが悲劇に浸りながらやってきた。
耳と尻尾は相変わらずベールで隠している。
無類のケモミミ、ケモ尻尾好きのお嬢様がいる時こそ、是非隠して欲しい。
何なら、切り捨ててくれても良いのに。
「お嬢様は現在所在不明です」
そう思いながらも、淡々と答える。
それにしても、神官や聖女候補だけでなく、元からこの厨房にいた、数少ない料理人達まで見当たらなくなっている。
教会に所属する神官や聖女候補だけなら、総入れ替えする為に数を減らしたとしても、頷ける。
けれど料理人達までとは……。
「そ、んな……」
「何故、今更探すのです?
既にお嬢様は約束を果たされました」
囚われの身となっていたコッヘル=ネルシスは、お嬢様がこの教会に来る事を条件に解放するというのが当初の話だった。
予想通り、お嬢様がここを訪れても、一向にそうなる気配がなく、結局はあの不遜な教皇一派をやりこめて連れてこさせたのは、お嬢様。
本来ならそれを交渉すべきなのは、この国の第3王子やこのポンコツ聖女ておるべきなのに。
「そ、それならニーアさん、私の代わり……」
「嫌です。
私の1番はお嬢様です」
ご都合主義が未だに板についている、ポンコツ聖女の言葉を遮ってすげなく答えた。
「まだ最後まで……」
「ネルシス令息に治癒魔法を施せ、でしょう。
お断りです」
「ど、どうし……」
「既にお嬢様が理由をお話しになったかと」
お嬢様ははっきりと宣言していたのに、全く言葉が届いていないようだ。
『できないはずがないでしょう?
上位神官がどう言おうと、君達はそれなりの立場と、権力がある。
少なくとも他国の貴族令嬢である私ができて、君達ができない理由はない。
それにニーアは元々攻撃魔法が得意で、治癒魔法は不得意だもの。
あれ以上魔力を消費させて、もしかして私の身を危うくさせたい?
ニーアはただの侍女じゃない。
護衛も兼ねた侍女だって、説明してあったけど?
ニーアとベルヌがいるからこそ、私はここに来たのに、今からでも帰ろうか?』
本当に、このポンコツ聖女は、どこまで考えが至らないのか。
これでは彼を喪ってからも、本来の責任の在りどころが自分だと気づかず、気づいても認めず、責任転嫁して、自己防衛に走ってしまいそうだ。
お嬢様……普段ならこのような自覚のない者はすぐに見切りをつけて関わりを断つのに、何故?
少しずつ食欲が失せてきた主のイタチ仕様の食事の為に、根菜類をすりおろし始める。
おろし金に押しつける野菜への力が、いつもより入る。
今は白くて細長い躯体となった、主への想いが止まらない。
『君はどうしたい?』
ふと、お嬢様と出会ってすぐの、あの日の出来事を思い出す。
私達にかけられた、本来なら解呪などできない類の、ある魔法。
古代魔法と呼ばれるその魔法のせいで、私達はずっと見えない鎖に縛りつけられていた。
それを特別な方法で解呪したのが、紫暗の目をした幼女。
そう尋ねた幼女が、在りし日のお嬢様。
全てが終わり、冷静になってから気づいた。
冷静になるのには、随分かかったけれど。
あの時、感情を忘れたかのように無表情だった幼女は、自身の体を襲う激痛に苛まれながらも、必死に堪えていた。
少し咳こんだ後、口元を拭った袖には、血がついていたのを、震えながら小さな手で、そっと隠していた。
双子の姉の骸を掻き抱いて、嗚咽する私は、あの時はただただ、絶望するだけ。
もちろん会ってそう時間が経っていなかった幼女の事など、気に留めるはずもない。
だからその時は、幼女の問いに何も答えられなかった。
そんな私に、幼女__お嬢様は言葉を続けた。
『強くなりたいなら、そうなる方法を教えてあげる。
ただ無気力に生きたいなら、生活費くらいは援助する。
その子の後を追って死にたいなら、そうしてあげる』
まだ少し拙い喋り方をするような幼女が告げたとは思えない、そんな内容だった。
グレインビル嬢に合わせて下さい!」
厨房を借りて軽食の準備をしていると、この教会の聖女とやらが悲劇に浸りながらやってきた。
耳と尻尾は相変わらずベールで隠している。
無類のケモミミ、ケモ尻尾好きのお嬢様がいる時こそ、是非隠して欲しい。
何なら、切り捨ててくれても良いのに。
「お嬢様は現在所在不明です」
そう思いながらも、淡々と答える。
それにしても、神官や聖女候補だけでなく、元からこの厨房にいた、数少ない料理人達まで見当たらなくなっている。
教会に所属する神官や聖女候補だけなら、総入れ替えする為に数を減らしたとしても、頷ける。
けれど料理人達までとは……。
「そ、んな……」
「何故、今更探すのです?
既にお嬢様は約束を果たされました」
囚われの身となっていたコッヘル=ネルシスは、お嬢様がこの教会に来る事を条件に解放するというのが当初の話だった。
予想通り、お嬢様がここを訪れても、一向にそうなる気配がなく、結局はあの不遜な教皇一派をやりこめて連れてこさせたのは、お嬢様。
本来ならそれを交渉すべきなのは、この国の第3王子やこのポンコツ聖女ておるべきなのに。
「そ、それならニーアさん、私の代わり……」
「嫌です。
私の1番はお嬢様です」
ご都合主義が未だに板についている、ポンコツ聖女の言葉を遮ってすげなく答えた。
「まだ最後まで……」
「ネルシス令息に治癒魔法を施せ、でしょう。
お断りです」
「ど、どうし……」
「既にお嬢様が理由をお話しになったかと」
お嬢様ははっきりと宣言していたのに、全く言葉が届いていないようだ。
『できないはずがないでしょう?
上位神官がどう言おうと、君達はそれなりの立場と、権力がある。
少なくとも他国の貴族令嬢である私ができて、君達ができない理由はない。
それにニーアは元々攻撃魔法が得意で、治癒魔法は不得意だもの。
あれ以上魔力を消費させて、もしかして私の身を危うくさせたい?
ニーアはただの侍女じゃない。
護衛も兼ねた侍女だって、説明してあったけど?
ニーアとベルヌがいるからこそ、私はここに来たのに、今からでも帰ろうか?』
本当に、このポンコツ聖女は、どこまで考えが至らないのか。
これでは彼を喪ってからも、本来の責任の在りどころが自分だと気づかず、気づいても認めず、責任転嫁して、自己防衛に走ってしまいそうだ。
お嬢様……普段ならこのような自覚のない者はすぐに見切りをつけて関わりを断つのに、何故?
少しずつ食欲が失せてきた主のイタチ仕様の食事の為に、根菜類をすりおろし始める。
おろし金に押しつける野菜への力が、いつもより入る。
今は白くて細長い躯体となった、主への想いが止まらない。
『君はどうしたい?』
ふと、お嬢様と出会ってすぐの、あの日の出来事を思い出す。
私達にかけられた、本来なら解呪などできない類の、ある魔法。
古代魔法と呼ばれるその魔法のせいで、私達はずっと見えない鎖に縛りつけられていた。
それを特別な方法で解呪したのが、紫暗の目をした幼女。
そう尋ねた幼女が、在りし日のお嬢様。
全てが終わり、冷静になってから気づいた。
冷静になるのには、随分かかったけれど。
あの時、感情を忘れたかのように無表情だった幼女は、自身の体を襲う激痛に苛まれながらも、必死に堪えていた。
少し咳こんだ後、口元を拭った袖には、血がついていたのを、震えながら小さな手で、そっと隠していた。
双子の姉の骸を掻き抱いて、嗚咽する私は、あの時はただただ、絶望するだけ。
もちろん会ってそう時間が経っていなかった幼女の事など、気に留めるはずもない。
だからその時は、幼女の問いに何も答えられなかった。
そんな私に、幼女__お嬢様は言葉を続けた。
『強くなりたいなら、そうなる方法を教えてあげる。
ただ無気力に生きたいなら、生活費くらいは援助する。
その子の後を追って死にたいなら、そうしてあげる』
まだ少し拙い喋り方をするような幼女が告げたとは思えない、そんな内容だった。
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