秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

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454.白い霞〜ティキーside

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「「「……」」」

 美人の獣人以外、息切れを起こす私達。
魔力を消費し過ぎたんだと思う。

 私達は、ただ見つめ合う。
立っていられなくて、王子も私も、膝立ちになる。
呼吸を整えて、呼びかけようとした時、私と王子の手を片方ずつ、それぞれ握るのは、冷えた手。

 弱々しい力。
けれど、僅かな温もりを感じて、それだけが救いに思えた。

 コッへ様の目元が幾らか弛む。
申し訳無さそうに、白濁して、見えていない目を少しだけ伏せる。

「駄目だ……コッへ……諦めるな。
頼む、から」

 きっと付き合いが長いから、王子には彼の無言の行動が、何を意味するかわかっている。
王子の瞳に、涙が浮かび、流れる。

 私の中の時間が……とてもゆっくりと流れているかのようで、感情が麻痺したみたいに、どうして王子が泣いているのか、理解できない。

 ふと、少しだけ握られた手に力を感じる。

「コッへ……様?」

 あ・り・が・と・う。

 声はなくて、唇だけで小さく紡がれた言葉。

「あの、コッへ様?
ねえ、どうして目を閉じるんです?」
「駄目だ、コッへ!
目を開けろ!
聞こえているだろう!
くそ!」

 王子が再び回復魔法をかけ始めた。

「ぼうっとするな!
早く治癒魔法をかけるのだ!
ティキー!」

 王子の叫びに、ハッとして魔法を発動して……。
けれど手応えが感じられない。

 ふと、コッへ様の体から薄く、白いかすみが漂い始めた事に気づく。

 コレは……古い魔素。
コレじゃない、違う、要らない。

 古い魔素って何?
要らないって、何を?

 知らないのに、知っている感覚が、気持ち悪い。

「ティキー!
早く!」

 再び名前を叫ばれて、慌てて魔法を発動させる。
そうしながら、王子の目には見えていないのだと、直感する。

 魔法の手応えはやっぱり無くて、まるで亡くなった人に魔法を使っているみたい。
どうして?
コッへ様は、まだ生きている。
目を閉じて、眠っ
ただけなのに。

 更に集中して、魔力を練り上げて魔法をかけ続ける。
その間も、霞は増えて、私の手に絡んで、食いこんでくる?

 痛い……凄く。

 そう思った時よ。

 ドクドクと、心臓が急に悲鳴を上げ始める。
ガンガンと殴られたかのように、酷い頭痛に見舞われる。
ポタポタと、頬を伝って、シーツにシミを作るのは、冷や汗。

 王子もきっとそう。
握られた手をしっかりと握り返して、駄目だ、帰ってこいって叫びながら、冷や汗をかいている。

 霞は私の手を離れ、王子の方へ漂い、目的を失ったかのように、天井へ移動したのを、何となく見ていた。

 やがて、呼吸が……空気が肺に入ってこない感覚に陥る。
ハクハクと、息をしているのに、上手く息が吸いこめない。

 耳鳴りもしてきて、とうとう膝立ちにすらなれなくなって、床に座りこむ。

 それでも握った手は離したくなくて、離すものかと、倒れこむのだけは、気力で耐える。

「はぁ、はぁ、コッへ……まだだ……まだ……」
「コッへ、さ、ま……はぁ……ゴホッゴホッ……はぁ」

 ほうほうの体で、話しかけるけれど、頭の片隅は冷えていく。

 彼はきっともう、目を開けてくれない。

「うっ……ふっ……うっ、うっ……」

 ベッドを挟んだ向こうからは、すすり泣く声が聞こえた。

 どうして泣いているの?

 感覚が、どんどん鈍くなっていく。

「どう、して……泣いて……だって……まだ……まだ……」

 違う。
わかってる。
わかって……いる、の。

 私の想うあの人は……死んだ。

「あ……」

 声が掠れる。
元々冷たかった手は、力なくダラリとしていて、更に冷えていく。

「あ、ああ……あああああ!」

 喉から舌に、血の味が広がって、それでも叫ばずにはいられない!

 隣からも、自分からも、叫びのような、品のない慟哭が聞こえてくる。

 目の前は、真っ白になってきて、耳も水中にいるように聞こえなくなる。

「魔力枯渇だ。
そろそろ君達が危ない」

 そう言って、大きな耳の獣人は回復魔法を……そう、回復魔法をかけた。

「ど、して……使えたんじゃない!
回復魔法を使えたのに、どうして!」

 白い霞が再び辺りを漂い始めた、それを掴む。

 そう、知っている。
コレは要らない。
コレがあったから、愛しいあの人は……死んだ。

 無意識のような意識は、コレのせいで死んだと言う。

 けれど私という意識は……。

 黒い感情が、膨れて、膨れて、膨れて……憎くて、憎くて、憎くて……。

「ティキー、待つのだ」

 回復したとはいえ、立ち上がれない王子は、こちらへ張って進む。

「この……人殺しー!!!!」

 そうして私以外に見えていない、白い霞をこの獣人へ……投げた。
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