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33.不徳者を好む性質

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「おたおたおたおた……」
「おた?」

 大きな体躯となった子猫ちゃんに何かを舐め取られている破落戸は私に向かって手を伸ばしながら言葉にならない言葉を話しますが、何が言いたいのかわからず首を傾げてしまいます。

 必死にこちらへ手を伸ばしているのですが、押し倒されているせいか動く事はできなさそうです。

「あわわわわわ……」

 もう1人は腰砕けになって床に座りこみ、こちらも言葉にならずにズリズリと不器用な後退り。
殆ど後ろに下がれておりません。

 あ、子猫ちゃんが動きました。

「ングッ、ゴホ、ギャ……」

 腰砕けの後ろに回って襟を噛み、引きずって起き上がれずにいた破落戸の隣に転がします。

「「フグッ」」

 まあ、仲良く蛙が潰れたような声が……。

 子猫ちゃんが仰向けに並んだ2人の腹にドカッと寝転がったので仕方ありません。
非力な後宮に住まう軟弱な女子達には中々の苦行かもしれませんね。

 再びのヒイィィィとか、ギャアァァァとか騒ぐ耳にキンとくる悲鳴もなんのその。
今度は代わる代わるザリュザリュして何かを舐め取っては堪能し始めました。

 あら?
舐めれば舐めるほど体が大きくなっていませんか?

 それに何でしょうね、この状況は?
思わず考えこんでしまいます。

「……ふむ、ごゆっくり~」

 しかし考えてもわからないものはわかりません。
何より私には無縁の者達に加え、勝手に宮に立ち入った破落戸達なので放置で良いでしょう。

 そのまま脇をすり抜けようとしましたが……。

「お助け下さいまし!」

 先に押し倒された立場が上と豪語していたほうにガシッと足を掴まれてしまいました。

「まあ、何故?」
「み、見ておわかりになりませんか!」
「全く?」
「お、襲われているのですよ!」
「何に?」

 きっと大くなっていく子猫ちゃんは彼女達に見えていませんよね?

「姿の見えない何かにです!」
「話になりませんね。
良いですか?
お前達は私が何者であるのか確認もせず、貴妃の宮に無断で立ち入り、礼を取る事も、ましてや名乗りもせずに文を手渡すでもなく押しつけたのですよ?
それも妾の嬪が妻たる貴妃の予定も聞かず、よりによって翌日の茶会に来いとは、これ、いかに?
その上勝手に騒ぎ、突然埃まみれの床に寝そべり助けてとは、これ、いかに?」
「そ、それは……」
「その髪と瞳の色からしても、仕える女官がいない事からしても、滴雫ディーシャ貴妃じゃない!
それに嬪とはいえ生家の爵位はシュー家の方が上!
それも正式にフォン家の後ろ盾のある巧玲チャオリン様の方が立場は上よ!」

 口ごもるファンと呼ばれていた破落戸とは対象的に吠えますね。

「本気で申しているの?
もう一度言うわ。
ここは貴妃の宮、お前達は無断侵入した上に、この宮で主に無礼を働いているのよ?」

 次は敬語を取り払い、少し口調を変えて話します。
何だか少し前の皇貴妃の女官達に話した時のようですね。

「だから何?!
さっさと助け……」
「止めて!」

__パチン!

「な、た、叩いた?!
何する……」

__パチン!

 まあ、見事な平手打ち。
もちろんお見舞いしたのはファンと呼ばれていた破落戸です。

 もっとも寝転がりながらなので大した威力ではなかったでしょう。

「ふざけないで!
連座なんてごめんよ!
申し訳ございません!
貴妃様!
どうか、どうかお許し下さいまし!
あんたも謝りなさいよ!
え、ギャ!」

 お仲間が何かを言う前に怒鳴り散らして、というよりも恐怖で半狂乱に近いようですが、ある意味正しい判断です。
もしやあの時のやり取りを聞いていたのかもしれませんね。

 破落戸から下女には格上げしておきましょう。

 下女がそう言うと子猫ちゃんが興味を失ったかのように謝罪した方を解放し、後ろ足で私の足元に蹴り飛ばしました。

 もう要らないと言いたそうですね。
きっと美味しくなくなったのでしょう。

「なっ、何で?!
私も……くっ、やっぱり動けない?!
何でよ?!」

__ザリュ、ザリュ、ザリュ。

「ひぎゃああああ!
何でぇぇぇ!!!!」

 何故と叫ばれても、ねえ?
やはり子猫ちゃんは私の知るある妖に性質が似ております。

 確かかの妖は初代の清国では四凶と呼ばれる霊獣の内の一体で、不徳者を好む性質を持っていたはず。
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