太夫→傾国の娼妓からの、やり手爺→今世は悪妃の称号ご拝命〜数打ち妃は悪女の巣窟(後宮)を謳歌する

嵐華子

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3.

58.性悪貴妃〜牡丹宮筆頭女官side

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玉翠ユースイ様?!」

 パリンと何かが割れる音がして部屋へ行くと長年仕える主が割れた花瓶を床に落とし、王花とも言われ、この宮の象徴花たる早咲きの牡丹が下に散らばっていた。

「何でもないわ、杏鈴シンリン
少しぼうっとして手を滑らせてしまっただけ」

 向けられた憂いを含む微笑みは儚げで、我が主は何とも美しい。

「すぐに片づけさせます。
夜も更けました故に、お休み下さいまし」

 控える女官に指示してまずは寝台へとお連れする。

 先程までいらした主の夫君と何を話されたのか知らないが、いつもは夜に訪れればそのまま朝まで時間を共にするが、今日は帰られたようだ。

 幼き頃より見守ってきた、この優しく張り詰めた主の心が傷ついているのを肌で感じて何故放って帰られたのかと恨めしく思う。

「また、あの貴妃が何かしたのですか」

 あの入宮したばかりの性悪貴妃は頭が回る。
もしやと思い当たり尋ねれば、麗美なかんばせが翳る。

 ギリリと歯を噛み締め、握った拳が戦慄くも、平静を保って掛布を肩までお掛けする。

「陛下のご寵愛は唯一の妻君たる我が主の物です」
「……そうね。
けれど私に皇貴妃という立場は……いえ、もう休むわ」
「……はい」

 頷いて歯がゆさに叫びたくなりながらも部屋を出て筆頭女官として与えられた私室へ向かう。

 今朝の水仙宮の一件でこの宮から女官が何名か消えた。
恐らく他の宮の者も連座で消えたが、全てあの貴妃のせいだ。

 もちろんこれには仕事を放棄した女官達や、あの場で不相応ながらも貴妃という身分を得た性悪娘に楯突き破落戸呼ばわりまでされていたあの愚か者も悪いが、所属先がこの宮の者であったばかりに主の立場が悪くなった。
他の宮の貴妃への面目も潰れてしまった事だろう。
しかも追放となる女官達から違約金や慰謝料をせしめた。

 自室の座布団を手にして床に打ちつけて憂さを晴らす。

 名実共に妻君たる我が主の夫君を皆の前で自らの夫であると公言までした上に、皇貴妃の揚げ足をとる貴妃がどこにいる?!
丞相も丞相だ!
陛下の幼馴染ではないのか?!
皆の面前で主の責を声高々に宣うとは!

 何度打ちつけてもこみ上げる怒りが治まらない。

 それに調度品を盗難?!
廃宮に仮にも貴妃なる者が入るなどと誰が信じる?!
あのような所に置くのはもったいないからと気を使って私達が手間賃として貰ってやったのに!
だから本当に入るかどうかわからぬ貴妃の為に女官も一応の手配をしてやったし、多少態度が悪くともあの女官が宮へと案内してくれたと感謝すべきであろう!
後ろ盾が弱い上に生家の爵位も低いのに、分不相応にも後宮に土足で踏み入るなどするから悪いのだと何故思えぬのか!

 ボスン、ボスンと床に何度も打ちつける。

 なのにそれも全て見越して仕組むなどと、何様か!!!!
貴金属全てが一点物で製造番号まで……挙げ句宝石の形は職人により絵にして残してある?!
バラして使ったとて検分すればわかる事を暗に告げた時のあの憎らしいしたり顔!

 最後は気に入らねば持参金を引き上げると口にして脅すにしても、まさかそれが国家予算並み?!
何故辺境の田舎娘がそんなにも納められる?!

 興奮と普段まともに運動もせぬからか、肩で息をしてしまう。
しかし幾らか怒りが冷めてきた。

 嘘かと思いつつもこの宮の女官達から預かっていた貴金属をよく見れば、小さな番号が刻印されていた。
そしてある大商会の特別な客の物にのみ使われる特殊な墨を使った紋も……。

 あの紋があれば商会の製作者はその品が万が一盗難にあっても追跡できると聞いた事がある。
それはあの商会独自のもので門外不出らしいが、故にその商品は高額。
そしてそれ故にその紋の付いた商品を購入できるのは、姿を知る者がほとんどいない商会長と縁のある者だけ。

 皇貴妃もかつてその商品を頼もうとした事があったが、断られている。
故に私が見たのも初めてで思い過ごしの可能性もあるが、万が一そうならば……。
預かりこぼしが無いよう、女官達には再度通達した。

 あんな性悪な田舎娘が何故……。
薄気味悪い貴妃が入ってしまったと1人身震いしてしまう。
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