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104.仕切り直しの朝ご飯
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「やはり陵墓へ向かうのは、雨が上がらなければならない、と?」
こちらの主張を飲むかと思いましたが、大僧正の答えは変わらず。
どうやら雨の日のお断りは意地悪からでは無さそうです。
「はい。
高祖望まぬ者、雨濡れに立ち入らば冥府に向かう。
初代法印大僧正がそう言い遺し、事実、雨の日に陵墓へ入って死した者が複数人おります」
普通に善意でお断りされていたようです。
話の内容が物騒で、しかし興味をそそられます。
「死因は?」
「わかりませぬ。
ある者は笑い、ある者は恐怖した顔であった、とだけ語り継がれております。
幼かった拙僧がこの寺に入る少し前、麓の村で飢饉が起こりましてな。
恐らく陵墓の中のありもせぬ財宝をどこかで売り、食べ物を手に入れようと思ったのでしょう。
嘆かわしい事に、困窮した村人複数名が背後の裏山から陵墓の中に侵入してしまいました。」
1度そう区切ると、憐憫の情を顔に宿します。
もしかしたら、知り合いが亡くなった者の中にいたのかもしれません。
「雨の日は僧侶達は死を招かぬよう、陵墓の見回りを控えると知っておったのです。
高祖の御魂と思しき火の玉が、陵墓の入口より出てくるのを見た者もございますから」
普通に怪奇現象ではありませんか。
火の玉……気になりますね。
特に初代は太夫だったのもあってか、周りではよく人が亡くなっておりました。
病もあれば、愛憎や嫉妬の末の何かしら、はたまた女子の情念が体現したかのような火災による焼死。
寿命を迎えて亡くなる者は、極端に少ない環境です。
皆の目に見える火の玉から、一部の者にしか視えぬ火の玉まで、2種ございました。
2代目や今世でも、変わらず火の玉は大きく2種類。
世界が違うのに、共通点も多くあるのは実に面白い。
しかし動乱の時代だった2代目では、亡くなる方も相当数いらっしゃいましたが、一部の者にしか視えない類の火の玉は、少なかった。
先人達もそうかもしれません。
初代の時が1番多く、次いで三国統一後の太平の世と称される今世の順に、多く見受けられます。
遺す想いの強さなのか、想いの捻れ具合の違いなのかはわかりませんが。
「故に貴妃。
尊き御身であるからこそ、雨の日に陵墓へ立ち入る事を、法印大僧正として認められませぬ」
私の目をひたりと見据え、何度目かのお断りを食らいました。
「もちろん理解致しました。
何度も尋ねて、申し訳なかったですね」
微笑んでそう言えば、大僧正は幾らか安堵した顔つきになります。
「それでは、拙僧はこれにて。
本日の朝餉ですが、こちらに用意するよう手配致します。
もちろんお付きの方々の物も」
「まあ、そうして頂けなら、是非」
そうして大僧正を見送って暫くしてから、精進料理が卓に並びました。
気になるのは料理を運んできた僧侶数名の、私を見る目です。
どことなく恐怖しているように感じたのですが、これ、いかに?
間違いなく私、いたいけな少女です。
きっと気のせいでしょう。
「これ、預かった文。
戻ったらお嬢の悪妃話がこの寺で充満していたぞ。
お嬢が何面白い事やらかしたか教えろ、左鬼」
とは食べ始めてすぐ、返事らしき文を懐に入れ、お使いから戻ってきた右鬼です。
彼は片道3日かかるはずの皇城への道のりを、往復2日程で戻ってきました。
流石ですね。
ちなみに身分関係なく、いつものように皆で仲良く同じ卓に座り、朝ご飯を仕切り直しています。
しかし彼の発言では、まるで私が何かをやらかしたように聞こえます。
私はあくまで被害を受けた側であったはず……解せません。
左鬼もまるで私が高僧達を切り捨てたように話すのは如何なものでしょうか。
全てこの寺の最高責任者である大僧正の判断ですのに。
「それじゃあ、お嬢。
いつ運動するんだ?
ずっと部屋にこもってて体力有り余ってるから、付き合うぞ」
「そうですね、本日の夕餉を食べてからにしましょうか。
私と左鬼で運動しますから、右鬼は小雪と鬼ごっこなんてどうです?」
そう言うと、鬼ごっこ組は何だか不服そうな顔に。
「えー、俺もお嬢がいいなあ」
「私もです」
「ふふふ、大人気ですね、私」
軽く受け流しつつ、気を利かせて用意してくれたらしき月餅を頬張ります。
中の餡は蓮の実をすり潰した蓮蓉餡。
縁起物です。
こちらの主張を飲むかと思いましたが、大僧正の答えは変わらず。
どうやら雨の日のお断りは意地悪からでは無さそうです。
「はい。
高祖望まぬ者、雨濡れに立ち入らば冥府に向かう。
初代法印大僧正がそう言い遺し、事実、雨の日に陵墓へ入って死した者が複数人おります」
普通に善意でお断りされていたようです。
話の内容が物騒で、しかし興味をそそられます。
「死因は?」
「わかりませぬ。
ある者は笑い、ある者は恐怖した顔であった、とだけ語り継がれております。
幼かった拙僧がこの寺に入る少し前、麓の村で飢饉が起こりましてな。
恐らく陵墓の中のありもせぬ財宝をどこかで売り、食べ物を手に入れようと思ったのでしょう。
嘆かわしい事に、困窮した村人複数名が背後の裏山から陵墓の中に侵入してしまいました。」
1度そう区切ると、憐憫の情を顔に宿します。
もしかしたら、知り合いが亡くなった者の中にいたのかもしれません。
「雨の日は僧侶達は死を招かぬよう、陵墓の見回りを控えると知っておったのです。
高祖の御魂と思しき火の玉が、陵墓の入口より出てくるのを見た者もございますから」
普通に怪奇現象ではありませんか。
火の玉……気になりますね。
特に初代は太夫だったのもあってか、周りではよく人が亡くなっておりました。
病もあれば、愛憎や嫉妬の末の何かしら、はたまた女子の情念が体現したかのような火災による焼死。
寿命を迎えて亡くなる者は、極端に少ない環境です。
皆の目に見える火の玉から、一部の者にしか視えぬ火の玉まで、2種ございました。
2代目や今世でも、変わらず火の玉は大きく2種類。
世界が違うのに、共通点も多くあるのは実に面白い。
しかし動乱の時代だった2代目では、亡くなる方も相当数いらっしゃいましたが、一部の者にしか視えない類の火の玉は、少なかった。
先人達もそうかもしれません。
初代の時が1番多く、次いで三国統一後の太平の世と称される今世の順に、多く見受けられます。
遺す想いの強さなのか、想いの捻れ具合の違いなのかはわかりませんが。
「故に貴妃。
尊き御身であるからこそ、雨の日に陵墓へ立ち入る事を、法印大僧正として認められませぬ」
私の目をひたりと見据え、何度目かのお断りを食らいました。
「もちろん理解致しました。
何度も尋ねて、申し訳なかったですね」
微笑んでそう言えば、大僧正は幾らか安堵した顔つきになります。
「それでは、拙僧はこれにて。
本日の朝餉ですが、こちらに用意するよう手配致します。
もちろんお付きの方々の物も」
「まあ、そうして頂けなら、是非」
そうして大僧正を見送って暫くしてから、精進料理が卓に並びました。
気になるのは料理を運んできた僧侶数名の、私を見る目です。
どことなく恐怖しているように感じたのですが、これ、いかに?
間違いなく私、いたいけな少女です。
きっと気のせいでしょう。
「これ、預かった文。
戻ったらお嬢の悪妃話がこの寺で充満していたぞ。
お嬢が何面白い事やらかしたか教えろ、左鬼」
とは食べ始めてすぐ、返事らしき文を懐に入れ、お使いから戻ってきた右鬼です。
彼は片道3日かかるはずの皇城への道のりを、往復2日程で戻ってきました。
流石ですね。
ちなみに身分関係なく、いつものように皆で仲良く同じ卓に座り、朝ご飯を仕切り直しています。
しかし彼の発言では、まるで私が何かをやらかしたように聞こえます。
私はあくまで被害を受けた側であったはず……解せません。
左鬼もまるで私が高僧達を切り捨てたように話すのは如何なものでしょうか。
全てこの寺の最高責任者である大僧正の判断ですのに。
「それじゃあ、お嬢。
いつ運動するんだ?
ずっと部屋にこもってて体力有り余ってるから、付き合うぞ」
「そうですね、本日の夕餉を食べてからにしましょうか。
私と左鬼で運動しますから、右鬼は小雪と鬼ごっこなんてどうです?」
そう言うと、鬼ごっこ組は何だか不服そうな顔に。
「えー、俺もお嬢がいいなあ」
「私もです」
「ふふふ、大人気ですね、私」
軽く受け流しつつ、気を利かせて用意してくれたらしき月餅を頬張ります。
中の餡は蓮の実をすり潰した蓮蓉餡。
縁起物です。
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