太夫→傾国の娼妓からの、やり手爺→今世は悪妃の称号ご拝命〜数打ち妃は悪女の巣窟(後宮)を謳歌する

嵐華子

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4.

103.私、注目の的ですから

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「その者達をどうなさいますか?」

 高僧達の悪妃呼びはひと先ず捨て置いて、膝をついて謝罪の姿勢を取る大僧正に静かに問うてみます。

「見習いに落とし、再教育する機会をお与え下さい」
「「そんな?!
何故です?!」」
「命だけは助けよ、と?」
「「い、命?!」」

 先程から、仲良く揃って騒がしいですね。

 私の知る僧侶の多くは、静寂の中に身を置き、そこに侘び寂びと悟りの境地を見出しておりました。
高僧とはそのような者であると思いこんでいたようです。

「貴妃の噂を鵜呑みにしたばかりか、僧たる者が悪評に染まるなどあってはならぬ事。
また度重なる非礼、首を切られても致し方なき事。
なれど命だけはどうか……」

 とうとう床に頭をつけた最大の謝罪の姿勢、叩頭こうとうを行います。
大僧正に関しては、幾らか私の噂を聞いても、特段態度を変えていたわけでは無さそうですね。

「「申し訳ございませんでした!
どうか、どうか命だけはご勘弁下さい!」」

 この2人は相変わらず息ピッタリ。
叩頭も同時に行いました。
仲良き事は美しきかな、と考えてあげるべきでしょうか。

「ふむ……」

 粥を食べつつ聞いておりましたが、椀に一杯ですからね。
すぐに終わってしまいました。

 残る2つをチラリと見れば……椀が目の前から消えましたよ?!
いつの間にか座っていた私を挟むように移動した2人の手に?!

 膝上の子猫ちゃんを見下ろしますが、そうですか、朝寝中ですか。
けしかけるのは止めましょう。

 あ、食べましたね。

 成長期の主人におすそ分けしようとする心意気は……そうですか、完食ですか。
粥ですからね、飲みこみやすいですよね、完食ですか、そうですか。

 2人が椀を置き、後ろに下がるまでにざっと数十秒。
その間額を床につけたままだった3人を改めて見やります。

「面を上げなさい。
そこの2人は放逐処分、此度に関わった者達の再教育を徹底するよう望みます」
「「そんな?!」」

 私の申し出に悲鳴のように飛び上がる高僧達。

「1つ、大事な事を忘れているようですね。
私はこの帝国の、帝国法に基づいて皇帝陛下の正式なる妻となっております。
法印大僧正として、高僧となる者の素行悪しと降格させるのは、あるまで吉香ジシャン寺内での話。
だから皇帝陛下の妻に対して、直接的に無礼を働いた者を許せというのは、道理が通りません。
誰から何を聞いたのか知りませんが、偉い人なのですよ、私」
「し、しかし私達は初代皇帝陛下である、天斌嵐仙《ティエンビンランシェン》高祖の陵墓を守る選ばれた僧!」
「そうだ!
祖を守りし特別な我らを罰するなど……」
「黙らぬか!」

 大僧正が一喝し、後ろを振り返り威圧した後、再び叩頭しました。
魔力を乗せて威圧したからか、斜め後ろの2人は尻もちをついてしまいました。

「高祖の安らかなる眠りと、子孫たる皇族方への教えを伝える一助となるなる事こそが、この寺の拙僧らの存在意義だと常々申しておるはず。
皇族が吉香ジシャン寺を格別として扱うのは、それ故。
時に高祖の教えに従い皇族方を律したとしても、決して我らが優れていると奢るでない。
ましてや本来の存在意義も忘れ、皇族への敬意を抱けぬならば、お主らはこの寺の僧と認められぬ。
即刻、ここより去れ」

 一喝したからこそ、余計にそう感じるのでしょうが、静かにそう告げました。

 左鬼ズォグイに目配せすれば、2人の襟首を掴んで外へ引きずられて行きます。

 青白い顔で大僧正の決定に余程衝撃を受けたのでしょう。
ガタガタと絶望に打ち震えています。

 しかし根性ですね。

「あ……悪妃め……」
「……おのれ……覚えていろ……」

 私を睨みながらの悪態は、忘れないようです。

 左鬼ズォグイは開いた扉からブン、と元高僧達を放り出しました。
かなり痛そうな音がしましたが、気の毒に思う気持ちは起きませんね。

 再び入らぬようにする為、彼も外へ出てから扉を閉めます。

「さて、面を上げて、そこにお掛けなさい」

 再びですが、ずっと叩頭したまま静止していた大僧正に声をかけ、目線を合わせてから、口を開きます。

「特に私から他者へ何か伝える事はありません。
しかしこの事は陛下を始め、朝廷の幾人かに伝わると思っていて下さい。
私、注目の的ですから」

 そう、間諜は後宮の小屋にいる時同様、そこ、ここにいたりします。
いつも通り、邪魔な時以外、あえて放置していましたから。
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