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73.土地の改良と滅亡
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「ジョーは……私の事を……」
恨んでいたのかしら?
そう続けそうになったところで、ハッと口を噤む。
ジョーがいなくなった事に気づかずにいた私が言っていい事じゃ……。
「ジョーはフローネの死を、悲しんでいたよ」
「悲しむ?」
けれどファビア様の言葉に、つい聞き返してしまった。
「うん。
ジョーは、アンカス邸を追い出されたんでしょう?」
「ええ。
私はジョーかいなくなったのに、暫く気づきませんでしたわ」
「あの頃のフローネは、父君から継いだ爵位に振り回されていた事も、フローネの婚約者が独断でジョーを解雇した事も、ジョーはわかっていたらしい」
「けれど……全て私の力不足からで……」
「ジョーはね、フローネを孫のように想っていたんだって。
突然解雇されても、ずっとフローネが心配だったし、そもそもフローネが処刑されたのを知ったのは、刑が執行された後だった。
その事を、とても悔やんでいたよ。
ジョーは解雇された後、エストバン国の国境近くに移り住んでいたんだ。
かなりの田舎で、情報が入ってくるのも遅い。
フローネの事を聞きつけて、王都に駆けつけたのは、刑が執行されて一年も後だった」
「一年……けれど……駆けつけて……くれ、ましたのね」
鼻の奥がツンとしましてきましたわ。
「ジョーはね、せめてフローネの遺体がどこに埋葬されたか教えてくれと、城を訪れたんだ。
フローネの冤罪を晴らす為に、情報線を敷いていて良かったよ。
ジョーと出会う事ができたから。
もちろんフローネの遺体は、私が王太子だったヘリオスに頼んで、ちゃんと埋葬してあったんだ。
ジョーはそこに案内した」
チラリとヘリーを見やると、ヘリーが頷いている。
「そう、でしたのね……ありがとうですわ」
目頭が熱くなるのを、何とか堪えてお礼を告げるけれど、俯いているせいで、二人がどんな顔をしているのかまで見えない。
「マルクが覚えているかわからないけれど、シャルルだった私は過去に一度だけ、フローネからジョーについて聞かされていてね。
ジョーが腕の良い庭師だって知っていた」
そんな事があったかしらと首を捻り、エンヤ嬢と何度目かのお茶会で会った時を思い出した。
確かどこぞの貴族が力を入れて手入れしていた、とても立派な庭園でのお茶会……だったような?
立派な庭園だけれど、アンカス家のジョーが土から改良して手掛けた花の方が、とても活き活きしている。
そんな事を言った気が……まあ、しなくもありませんわね?
「ちょうど王太子妃として、何かしら施策を提案して、成果を上げておきたかったタイミングだった。
敵の断罪の為にも、発言力を強めておく必要があったんだ。
だからジョーに力を貸して欲しいと頼んだ」
「でもジョーはただの庭師でしたわ」
「それがね、実はかなりの実績を上げていたんだ」
「実績?
ジョーは武道でもできましたの?」
記憶にあるジョーは、庭師なだけあって腕は逞しかった印象がある。
かなり幼い頃でしたわ。
よくジョーの腕にぶら下がっては、持ち上げてくれと、いわゆる高い高いしてもらう遊びをしていましたわ。
貴族令嬢としては、はしたなかったかしら。
けれど楽しかったんですのよね。
けれどそれだけ。
国境沿いと言えば、防衛の要。
求められるのは庭師の腕より、敵をなぎ倒す武の腕ではないかしら?
「違うよ。
ジョーはあくまで庭師の範囲で、素晴らしい実績を上げていたんだ」
「つまり?」
「国境沿いは、元々、痩せた土地でね。
作物が育ち難いからと、国も食糧を支援していた。
けれど年々、国境沿いが支援を願う食糧の申請量が減少していたんだ」
「食糧……まさかジョーが?」
「うん。
ジョーが国境沿いの痩せた土地を、肥沃な土地に変えていた。
王太子妃になってから、ずっと不思議だったし、もしかすると何か不正でもあったのかと調べていたんだけどね。
まさかジョーと出会って、疑問が解消するとは思わなかった。
ジョーと出会った事で、フローネの冤罪を晴らした後、王妃となった私が取るべき道が見えたんだ」
「……土地を改良し、自給自足率を上げる事ですのね」
「ふふふ、さすがマルク」
ファビア様がにっこり微笑んで、褒めてくれましたわ。
けれど何だか薄ら寒いですわ。
だってジョーだけの力で、私が知る範囲のエストバン国全土を肥沃な土地にはできないわ。
ファビア、いえ、エンヤ嬢も同じ結論に至っていたに違いない。
だからこそ鉱山を手放し、国土面積を減らした上で、貴族達も減らしましたのね。
「ジョーを派遣して、すぐに成果が出るわけじゃない。
それに私もフローネが亡くなって、すぐに冤罪を晴らして王妃になれたわけじゃない」
「それでも俺達が国王になってからは、早かったんじゃないか?
俺が王太子だった頃に約束した予定より早く、エストバン国は消滅したんだから」
諦め顔のヘリーが、国が一つ滅んだにしては、軽い口調てしてよ。
むしろ軽い口調だからこそ、真相を聞くのが恐ろしいんですのよ。
「何なら私は、王太子妃の内に滅ぼしたかったよ。
ジョーもフローネの敵討ちだって、張り切っていたし」
ジョー、張り切ってましたの!?
おかしいですわ!
ジョーは庭師として、痩せた土地を改良する事に尽力したんじゃ、なかったんですの!?
どうして国が土地が肥えたら、国が滅びますのよ!
恨んでいたのかしら?
そう続けそうになったところで、ハッと口を噤む。
ジョーがいなくなった事に気づかずにいた私が言っていい事じゃ……。
「ジョーはフローネの死を、悲しんでいたよ」
「悲しむ?」
けれどファビア様の言葉に、つい聞き返してしまった。
「うん。
ジョーは、アンカス邸を追い出されたんでしょう?」
「ええ。
私はジョーかいなくなったのに、暫く気づきませんでしたわ」
「あの頃のフローネは、父君から継いだ爵位に振り回されていた事も、フローネの婚約者が独断でジョーを解雇した事も、ジョーはわかっていたらしい」
「けれど……全て私の力不足からで……」
「ジョーはね、フローネを孫のように想っていたんだって。
突然解雇されても、ずっとフローネが心配だったし、そもそもフローネが処刑されたのを知ったのは、刑が執行された後だった。
その事を、とても悔やんでいたよ。
ジョーは解雇された後、エストバン国の国境近くに移り住んでいたんだ。
かなりの田舎で、情報が入ってくるのも遅い。
フローネの事を聞きつけて、王都に駆けつけたのは、刑が執行されて一年も後だった」
「一年……けれど……駆けつけて……くれ、ましたのね」
鼻の奥がツンとしましてきましたわ。
「ジョーはね、せめてフローネの遺体がどこに埋葬されたか教えてくれと、城を訪れたんだ。
フローネの冤罪を晴らす為に、情報線を敷いていて良かったよ。
ジョーと出会う事ができたから。
もちろんフローネの遺体は、私が王太子だったヘリオスに頼んで、ちゃんと埋葬してあったんだ。
ジョーはそこに案内した」
チラリとヘリーを見やると、ヘリーが頷いている。
「そう、でしたのね……ありがとうですわ」
目頭が熱くなるのを、何とか堪えてお礼を告げるけれど、俯いているせいで、二人がどんな顔をしているのかまで見えない。
「マルクが覚えているかわからないけれど、シャルルだった私は過去に一度だけ、フローネからジョーについて聞かされていてね。
ジョーが腕の良い庭師だって知っていた」
そんな事があったかしらと首を捻り、エンヤ嬢と何度目かのお茶会で会った時を思い出した。
確かどこぞの貴族が力を入れて手入れしていた、とても立派な庭園でのお茶会……だったような?
立派な庭園だけれど、アンカス家のジョーが土から改良して手掛けた花の方が、とても活き活きしている。
そんな事を言った気が……まあ、しなくもありませんわね?
「ちょうど王太子妃として、何かしら施策を提案して、成果を上げておきたかったタイミングだった。
敵の断罪の為にも、発言力を強めておく必要があったんだ。
だからジョーに力を貸して欲しいと頼んだ」
「でもジョーはただの庭師でしたわ」
「それがね、実はかなりの実績を上げていたんだ」
「実績?
ジョーは武道でもできましたの?」
記憶にあるジョーは、庭師なだけあって腕は逞しかった印象がある。
かなり幼い頃でしたわ。
よくジョーの腕にぶら下がっては、持ち上げてくれと、いわゆる高い高いしてもらう遊びをしていましたわ。
貴族令嬢としては、はしたなかったかしら。
けれど楽しかったんですのよね。
けれどそれだけ。
国境沿いと言えば、防衛の要。
求められるのは庭師の腕より、敵をなぎ倒す武の腕ではないかしら?
「違うよ。
ジョーはあくまで庭師の範囲で、素晴らしい実績を上げていたんだ」
「つまり?」
「国境沿いは、元々、痩せた土地でね。
作物が育ち難いからと、国も食糧を支援していた。
けれど年々、国境沿いが支援を願う食糧の申請量が減少していたんだ」
「食糧……まさかジョーが?」
「うん。
ジョーが国境沿いの痩せた土地を、肥沃な土地に変えていた。
王太子妃になってから、ずっと不思議だったし、もしかすると何か不正でもあったのかと調べていたんだけどね。
まさかジョーと出会って、疑問が解消するとは思わなかった。
ジョーと出会った事で、フローネの冤罪を晴らした後、王妃となった私が取るべき道が見えたんだ」
「……土地を改良し、自給自足率を上げる事ですのね」
「ふふふ、さすがマルク」
ファビア様がにっこり微笑んで、褒めてくれましたわ。
けれど何だか薄ら寒いですわ。
だってジョーだけの力で、私が知る範囲のエストバン国全土を肥沃な土地にはできないわ。
ファビア、いえ、エンヤ嬢も同じ結論に至っていたに違いない。
だからこそ鉱山を手放し、国土面積を減らした上で、貴族達も減らしましたのね。
「ジョーを派遣して、すぐに成果が出るわけじゃない。
それに私もフローネが亡くなって、すぐに冤罪を晴らして王妃になれたわけじゃない」
「それでも俺達が国王になってからは、早かったんじゃないか?
俺が王太子だった頃に約束した予定より早く、エストバン国は消滅したんだから」
諦め顔のヘリーが、国が一つ滅んだにしては、軽い口調てしてよ。
むしろ軽い口調だからこそ、真相を聞くのが恐ろしいんですのよ。
「何なら私は、王太子妃の内に滅ぼしたかったよ。
ジョーもフローネの敵討ちだって、張り切っていたし」
ジョー、張り切ってましたの!?
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ジョーは庭師として、痩せた土地を改良する事に尽力したんじゃ、なかったんですの!?
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