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2 ダンジョンで修行ですか?

2ー7 蒔苗姉弟

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 2ー7 蒔苗姉弟

 その日は、最悪だった。
 午前中の体育で長距離走があったのだ。
 俺は、さぼって保健室に行こうとした。
 いや。
 ほんとに身動きできないぐらい体が痛いし。
 しかし、それを阻む者が約一名。
 それは、蒔苗 アスナの双子の弟である蒔苗 キリだった。
 「僕と勝負しろ!柴崎」
 奴は、言った。
 俺は、それを無視して保健室へと向かおうとしていた。
 だが、キリは、なかなか諦めようとはしなかった。
 「お前が姉上に真にふさわしい男かどうか確かめてやる!」
 何を確かめるって?
 俺は、もううんざりだった。
 なんで俺がそんな些末なことに付き合わなくてはならないのか。
 俺がかまわず奴に背を向けたとき、不意に俺は身を硬くした。
 背後から一袈裟に切り殺されたのだ。
 俺は、その場に崩れ落ちて。
 だが。
 俺は、死んでいなかった。
 切られてすらいなかった。
 それでも、殺意に俺は、侵食されていた。
 なんだ、これは?
 俺は、パクパクと空気を求めて口を開閉していた。
 しかし、呼吸ができない。
 「ふん」
 キリが俺の前に立ち俺をまるで死んだ犬を見下ろすような目で見つめていた。
 「お前、わかってるか?お前は、今、死んだ」
 どういうこと?
 俺は、問いかけるようにキリを見上げた。
 まだ呼吸が苦しい。
 俺は、床に座り込んだまま咳き込んだ。
 キリは、俺を冷酷な眼差しで見つめた。
 「僕の殺気がわかるならまったく素質がないわけではないな」
 だから!
 俺は、はぁはぁ肩で呼吸していた。
 なんの話だよ?
 「やはり、僕と勝負しろ、柴崎」
 キリは、俺に言い放った。
 「僕に勝てば姉上との交際を認めてやってもいい」
 いやいやいや。
 俺は、ぶんぶんと首を横に振った。
 こいつ、何か勘違いしてはる!
 俺は、こいつの姉上なんて興味ないし!
 確かに、美人かもしれないが女子高生になど、うつつを抜かしている暇はないし。
 「いいか?この勝負から逃げればお前がこの国で生きていけないようにしてやるからな。絶対に逃げるな!」
 蒔苗 キリは、そう告げるとさっさと教室を出ていった。
 俺は、奴を無視して保健室へと行こうとした。
 だが。
 廊下に出たところで担任の女教師に声をかけられた。
 「柴崎くん」
 俺は、女教師を睨み付けた。
 女教師は、ひっと声をあげたが、それでも引き下がることはなかった。
 「悪いことはいわないわ。蒔苗姉弟には関わらないほうがいい」
 はい?
 女教師は、それだけ告げるとさっさと立ち去っていった。
 
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