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12 魔王覚醒

12ー6 今までのように

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 12ー6 今までみたいに

 私の夏樹。
 そう、母さんは、俺のことを呼んだんだね。
 俺は、ふっと笑った。
 いつだって、そうだった。
 母さんにとって、俺は、身代わりでしかない。
 魔王の変わりに死ぬために造られた。
 それが、俺、だ・
 俺に駆け寄ろうとする母さんを押し止めながらラキアスが叫んだ。
 「さっさと目覚めろ!カオル!」
 俺は、俺をつかんでいるミミアスの手を握った。
 「・・お前らは・・」
 俺は、起き上がるとうめいた。
 「うるさいんだよ。ゆっくり眠ることもできねぇし!」
 「薫?」
 母さんが小さく悲鳴をあげる。
 「なんで?あなたが残っているの?」
 なんで?
 俺は、じろりと母さんを、いや、ロリババアのことを睨んだ。
 「俺は、俺だ!誰の指図も受けん!」
 俺は、横になっていたベッドから降りると立ち上がった。
 じっと手を見る。
 これが、俺の体なんだ。
 初めて俺は、生きている実感みたいなものを感じていた。
 これが、俺の心。
 俺は、じろりとロリババアを見た。
 「あんたには悪いが、俺は、死なない。俺は、あんたのものじゃない」
 ロリババアが力なくその場に崩れ落ちた。
 「夏樹・・・」
 「薫、だ」
 俺は、訂正した。
 「俺は、薫、だ」
 俺の言葉をきいてロリババアがわっと泣き出した。
 俺は、それをみつめていた。
 ああ。
 母さん。
 すまないな。
 俺は、思っていた。
 ありがとうな。
 今まで、俺を愛してくれて。
 俺は、黒江を探した。
 黒江は、部屋のすみにちょこんと座っていた。
 「黒江」
 俺は、訊ねた。
 「こういうことだ。どうする?」
 「どうもこうも」
 黒江が答えた。
 「俺は、最初からお前をサポートするために造られたんだ。最後までその使命を全うするさ」
 俺は、黒江の答えに頷いた’。
 ロリババアが俺にきいた。
 「どうするつもりなの?」
 「何も」
 俺は、答えた。
 「俺は、変わらない。今まで通り生きていくだけだ」
 「私たちを捨てるつもり?」
 ロリババアの問いに俺は、首を傾げた。
 「棄てる?」
 「そうよ。私たちを棄てて出ていくの?」
 ロリババアに俺は、ため息をつく。
 「俺は、マスターに造られた。マスターが出ていけと言うまでは、マスターのそばにいるつもりだ」
 「ホントに?」
 ロリババアが顔をあげて俺を見つめた。
 「今までみたいに居てくれるのね?」
 
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