転生したら本でした~スパダリ御主人様の溺愛っぷりがすごいんです~

トモモト ヨシユキ

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15 あなたのためにここに来た。

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    俺がアストラル王国の隣国であるネシウス公国の皇太子であるロキシス・ココロット・ナム・ネシウスのもとへ嫁いだのはそれから一ヶ月後のことだった。
     空の澄みわたったきんと寒い冬の日、俺は、アストラル王国王家の紋章の刻まれた馬車に乗って、クーナの山城からネシウス公国へと旅立った。
    「よいですか、ユウレスカ様」
     クリスがメイドとして俺につけてくれたのは、騎士団の団員で魔法にも長けているという女性で、名前をロザ・カルローザといった。
    ロザは、焦げ茶色の髪の紫の瞳をした美しい眼鏡美人だ。
    俺なんかよりよっぽどこの人の方が相応しいんじゃないかと、俺は、思ったのだが、ロザにそう言うと、ロザは慌てて頭を振った。
    「私などでは、後宮のしきたりに馴染めず、粗相をしてしまうに違いありませんから」
    ロザは、裕福な商人の娘だったが、母親は、貴族の出だという。
    やっぱ、俺より、適役じゃね?
    俺の気を知ってか知らずか、ロザは、ネシウス公国へと向かう馬車の中で俺ににこやかに言った。
   「事情は、クリス団長からきいています。ユウレスカ様は、ダンクール伯爵の婚約者だとか。とにかく、無事にロキシス皇太子が王位につかれるまでがんばって乗りきりましょう。私も、全力でお力になりますからね」
    「ありがとう、ロザ」
    俺は、ロザに礼を言った。
    俺は、この世界の一般常識には、自信がない。
  それに、前世も今生も、ほんとは男だし。
   きっと、これからロザの助けが必要になることを考えたら、ロザの言葉はうれしいものだった。
    クリスいわく、ロザには、俺が男であることは、話してくれているらしいので、なおさら、心強かった。
    ロザは、黒いメイド服に白いエプロンという格好だった。
   本人がいいうところでは、これでも孫にも衣装なのだという。
   きっと、俺が今着ているブルーのドレスは、俺よりロザの方が似合うに違いないのに。
       俺は、窓の外を流れていく景色を見つめていた。
   少し前から、ずっと荒れ地が続いていた。
   この荒野を抜けたところにネシウス公国の首都であるエヴォルグはあった。
   ネシウス公国は、小さな国だが貴重な魔石やミスリル紘の鉱山などがあるため、比較的裕福な国だといえる。
    数ヵ月前に前王であり、皇太子の父であるダイダロス・フィンジア・ナム・ネシウスが亡くなり、現皇太子であるロキシスがわずか7才で王位を継ぐこととなった。
    クリスの言うことによると、ロキシス皇子の母親は、下級貴族出身の側室であったために肩身の狭い思いをしていたのだが、ロキシス皇子を出産後、わずか数日でなくなったらしい。
    そのためにロキシス皇子は、王に疎まれていたのだという。
   ロキシス皇子の他には、ダイダロス王の后であるリリア王妃の子であるロキシス皇子より5才年上のオリエ姫がいて、リリア王妃派の臣下は、この姫を女王にと画策しているということだ。
    ロキシス皇子の後ろ楯は、宰相であるゲオルグ・ロンガー卿と、騎士団長ヨゼフ・コンラッドの二人だが、どうやらクスナット教国がロキシス皇子ではなくオリエ姫を推しているために、ややこしいことになっているのだという。
     俺には、そういった政治的なことは、よくわからないのだが、ロキシス皇子がヤバい立場にいるということだけはよくわかる。
       そこで、クリスが俺をロキシス皇子の后候補としてアストラル王国の肝いりで嫁がせようとしているわけだった。
    俺の存在は、クスナット教国への牽制であり、俺は、ロキシス皇子の守護者となるわけだ。
    うん。
   俺は、実は、既婚者だけど、この際、人助けのためだから仕方がない。
   こんな不憫な子供を狼たちの穴の中に放り込んで知らん顔なんて、俺にはできっこない。
    これは、俺が守ってやらなくっては。
    アストラル王国からネシウス公国の首都まで馬車で走り続けて10日ほどの距離だった。
    ほんとは、俺は、一瞬で転送できるのだが、今回は、そういうわけにもいかなかった。
    かなりの強行軍でさすがの女騎士のロザも首都エヴォルグが見えてくるとほっと安堵の吐息を漏らした。
   俺は、というと、クーナの山城で別れたアークのことを考えていた。
    一応、クリスの予定では、一ヶ月後のロキシス皇子の即位の礼がすむまで俺を皇子の守りにつかせるつもりだった。
     つまり、少なくとも一ヶ月は、アークに会えない。
   まあ、婚姻の契りを交わしているお陰で離れていても魂は通じているのだが、なんか、寂しい気がしていた。
    アークと出会ってまだ、3ヶ月やそこらなのに、こんなんじゃ、ダメだとも思うのだが、俺は、なんだか、離れて寂しいと思える相手がいることを嬉しく思っていた。
    なんか、さ。
   俺は、もう、一人じゃないんだと思えるから。
   ネシウス公国の城の城門を潜るとき、俺は、思っていた。
   無事に、この一ヶ月、ロキシス皇子を守り抜いて、無事に、アークのもとへ帰ろう、と。

        ネシウス公国の城であるエルカドラ王宮に到着した俺は、王宮の外れにある離宮へと通された。
    俺は、よくわからないのだが、メイドとしてついてきているロザは、この対応にかなり立腹していた。
   「ユウレスカ様は、ロキシス皇太子の后候補だというのに、離宮へ通すなんて」
   当然、ロザは、ネシウス公国側に抗議をしたが、何時間も待たされたあげくの返事は、ロザをさらに怒らせるものだった。
    「后候補は、他にもおられますので」
    ロザが離宮で俺の世話係をしてくれるメイドの女の子に少し、お小遣いを渡して聞き出したことによると、正妻候補は、俺の他に二人いて、一人は、ロキシス皇太子の従姉妹で7才年上のシャルロッテ姫で、もう一人はクスナット教国出身のメイサ姫だという。
    「メイサ姫は、まだ5才ですが、后候補の本命とされています」
    マジか。
   俺は、どっちでもかまわないというか、俺以外の人が選ばれるならその方がいいのだが、ロザからすれば、そういうわけにはいかないようだった。
    アストラル王国の推している俺が、こんな扱いをうけるということは、屈辱なのだという。
   「誰が本命かなんてことは、どうでもいいけど、なんで、ユウレスカ姫だけが、後宮ではなく、この離宮へ通されたわけ?」
    ロザの怒りはおさまらない。
   俺からすれば、城の中にいればどこでも同じなのだが、ロザにとっては、違うらしい。
   だけど、メイドの女の子、リズは、ロザに言った。
   「でも、どこにいても同じです。だって、ロキシス皇子は、後宮には近寄らないから」
   「なんで?どうして、皇子は、後宮にこないわけ?」
   ロザにきかれてリズは、困った様子で小声で言った。
   「それは、その・・リリア后とオリエ姫がおられるので」
   「なるほど」
    ロザは、納得した様子で頷いた。
   「なら、離宮にいるユウレスカ様にもチャンスはあるということね」
    なんのチャンスだよ!
   俺は、盛り上がっているロザを残して一人で庭へ出ていった。
   離宮の回りは森に囲まれていて王宮からは、かなり離れていた。
   俺は、遠見の魔法を使ってロキシス皇子を探そうとした。が、王宮のどこにも皇子らしき人物はいなかった。
   あれ?
   変だなぁ。
   俺は、もう一度、術をやり直してみたが、やはり皇子の姿は見つけられなかった。
    もしかして、後宮かな?
    俺は、後宮も探してみた。
   だが、やはり、皇子は、見つからない。
  どういうこと?
      そのとき、林の中から白い地竜が飛び出してきた。
   地竜というのは、巨大な馬みたいな小型の竜で戦場では、馬より力があるため重宝がられている魔獣だった。
    俺は、突然のことに驚いて身動きがとれなかった。
   その俺の頭上を地竜が飛び越えていった。
   地竜に騎乗している人物が、地竜の上から声をかけてきた。
    「怪我はないか?」
     その少年は、地竜から飛び降りると俺の側に駆け寄ってきた。
   長い黒髪の、灰色の目をしたその少年は、俺をじっと見上げてきいた。
   「お前は、誰だ?」
    「お、私は、ユウレスカ・ホソカー、です」
    「ユウレスカ・・」
    少年が飛び出してきた林の向こうから人の気配がした。少年は、慌てて地竜に股がると、俺の手を掴んで地竜の上へと引き上げた。
   「何、するんだよ!」
    暴れる俺を無理矢理地竜に乗せると、少年は、笑い声をあげた。
    「お前がユウレスカ姫なら、俺が拐っても問題ない筈だぞ、大人しく掴まってろ!」
    はい?
  地竜が動き出したので、 俺は、思わず少年の腰に手を回してぎゅっと掴まった。
   地竜は、凄まじい勢いで走りだし、俺は、悲鳴をあげていた。
  「ぎぃやぁあぁぁ!」
    十分ほど走り続けて、ようやく少年は、地竜を止めて、俺を地面へと下ろしてくれた。
   俺は、ふらふらになっていて、少年に支えられて大きな木の根元へと腰を下ろした。
   そこは、美しい湖の岸辺で青い花が咲き乱れていた。
   遠くに赤い夕日が沈んでいくのが見えた。
   美しい風景だった。
   俺は、不意に、少年の視線を感じて、はっと顔をあげた。
   少年は、くすっと笑って言った。
   「おかしな姫だな、お前は」
    俺は、頬が熱くなってくるのを感じていた。
    ほっといてくれ!
   俺は、心の中で言って、ぷいっとそっぽを向いた。
   「怒ったのか?」
   少年が心配そうに言って、俺の横に腰かけた。
   「お前に、ここを見せてやりたかったんだ。ここは、俺の母上が好きだった場所だ」
   少年が呟くように言うのがきこえて、俺は、顔をあげた。
   「お前は、母上によく似ているから」
    マジで?
    俺は、その少年の夕日に照らされた横顔を見つめた。
   年にしては大柄だったけど、よく見たらあどけない感じがする。
    俺は、この少年が俺の守るべき皇子だと気づいた。
   「はじめまして、ロキシス殿下」
    俺は、言った。
   「私は、あなたのためにここに来た」
    「俺のために?」
    ロキシス皇子は、にやりと笑った。
   「そんな言い方をする相手は、今までにいなかったな」
    ロキシス皇子は、言った。
   「俺のために、か」
    俺たちは、しばらく並んで 沈んでいく夕日を眺めていた。
    
    
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