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5 歴史は、繰り返す?

5ー2 これからも

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 5ー2 これからも

 「やっと、会えましたね、オルナム様」
 ロタが微笑んだ。
 「ずっと、待っていたんですよ。この日がくる時を」
 どういうことだ?
 俺は、わけがわからなくて。
 戸惑っている俺の前にしゃがみこんだロタは、俺の顔を覗き込んだ。
 「私は、ずっと、ここであなたを待っていた」
 「ロタ?」
 「あなたに、私を差し上げます」
 ロタが微笑む。
 「あなたは、それにふさわしい」
 「何を、言ってるんだ?ロタ」
 俺は、ロタの言葉が理解できなかった。
 だって。
 ロタは、死んだ。
 故郷の大地に葬った。
 今は、もう、どこにもいない。
 なのに。
 ロタが哭いている俺の頬に触れた。
 温かい。
 ロタの体温を感じて俺は、目を閉じた。
 これは、夢、だ。
 俺は、ロタの柔らかい唇を受け入れながら思っていた。
 夢に違いない。
 「夢では、ありませんよ、オルナム様」
 ロタが俺の額に自分の額をくっつけてささやいた。
 「これから、あなたに私の全てを差し上げますから、どうか、受け取ってくださいね」
 ぐぃん、と世界が曲がる。
 正確には、そうではないのかもしれないけど、俺の感覚的には、曲がった。
 ロタと接触している額が熱い。
 そこから何かが俺の中に流れ込んでくる。
  それは、記憶。
 ロタの記憶だった。
 俺と過ごしたロタの記憶。
 そして。
 俺の知らないロタの記憶。
  それは、長い長い夢。
 遠い。
 遠い昔、神々のいた頃の記憶だ。
 ロタ?
 俺は、記憶の洪水の中、溺れそうになっていた。
 その俺をロタは、掴んで離さない。
 「大丈夫、ですよ、オルナム様。私は、ここにいます」
 ロタがささやく声が聞こえる。
 「いつだって、私は、あなたと共にあるのです」
 ロタは、続けた。
 「あなたが一人、王城の地下で絶望していた時も。死んでいった時も。この世界に最初に生まれてきたその時にも」
 俺は、ロタに身を任せた。
 意識がたゆたっていく。
 何もかも消えていく。
 俺の体も。
 魂も。
 ただ。
 ロタの声だけが俺を俺たらしめていた。
 「私は、あなたと共にあった」
 そして、これからも。
 ずっと。
 ずっと。
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