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3 歴史は、夜に作られる。
3ー3 チャンス
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3ー3 チャンス
その夜。
その客は、フードで姿を隠して店を訪れた。
すぐにアンリが俺の部屋へと案内する。
俺は、ローブを脱いでテーブルについたその男をじっと見つめた。
それは、確かにかつて勇者一行の魔法使いだった頃に王城で見かけたことがある宰相その人だった。
「お久しぶりです、エルターク殿」
宰相は、俺に挨拶をした。
「今宵は、お会いできて光栄至極」
「それは、こちらの台詞です、宰相閣下」
俺は、ふっと微笑した。
宰相は、シャーウッド・フォン・レイアー伯爵という名で、今年、40才になる中肉中背、茶髪にブラウンの瞳が知的な光を称えているが、他には目だったこともないおっさんだった。
身なりは、商人風を装っているが仕立てのよさはごまかせない。
ルトが無言でテーブルにお茶を運んでくる。
自分の前に置かれたお茶の香りを嗅ぐと宰相は、意外そうな顔をした。
「このお茶は?」
「気に入っていただけましたか?」
俺は、にっこりと微笑んだ。
そのお茶は、宰相の領地で作られる紅茶だが、ほとんど王都には流通していない。ルトに頼んで俺が特別に用意したものだ。
宰相は、お茶を一口飲むと、にぃっと笑った。
「さすがですね。客をもてなす心を知っておられる」
「そう言っていただけると嬉しいです」
俺が答えると宰相は、お茶をテーブルに戻して脇に退け身を乗り出した。
「今夜、あなたとお会いできることを楽しみにしておりました、エルターク殿」
「ルシウス、とお呼びください、宰相閣下」
「では、私のこともシャーウッド、もしくはシャルとお呼びください、ルシウス殿」
俺たちは、なんということもない貴族の社交の会話を夜更けまで続けた。その間、俺は、宰相の様子を観察していたが、なかなか隙のないさすがとしか言い様のない人物のようだ。
宰相は、去り際に俺に探るような眼差しを向けた。
「どうか、私にチャンスをいただきたい。あなたと親密になれるように、ぜひ」
宰相を送って戻ってきたルトに俺は、伝えた。
「次は、レイヤー領の酒を用意してくれ、ルト」
「わかった」
ルトは、頷いた。
その夜。
その客は、フードで姿を隠して店を訪れた。
すぐにアンリが俺の部屋へと案内する。
俺は、ローブを脱いでテーブルについたその男をじっと見つめた。
それは、確かにかつて勇者一行の魔法使いだった頃に王城で見かけたことがある宰相その人だった。
「お久しぶりです、エルターク殿」
宰相は、俺に挨拶をした。
「今宵は、お会いできて光栄至極」
「それは、こちらの台詞です、宰相閣下」
俺は、ふっと微笑した。
宰相は、シャーウッド・フォン・レイアー伯爵という名で、今年、40才になる中肉中背、茶髪にブラウンの瞳が知的な光を称えているが、他には目だったこともないおっさんだった。
身なりは、商人風を装っているが仕立てのよさはごまかせない。
ルトが無言でテーブルにお茶を運んでくる。
自分の前に置かれたお茶の香りを嗅ぐと宰相は、意外そうな顔をした。
「このお茶は?」
「気に入っていただけましたか?」
俺は、にっこりと微笑んだ。
そのお茶は、宰相の領地で作られる紅茶だが、ほとんど王都には流通していない。ルトに頼んで俺が特別に用意したものだ。
宰相は、お茶を一口飲むと、にぃっと笑った。
「さすがですね。客をもてなす心を知っておられる」
「そう言っていただけると嬉しいです」
俺が答えると宰相は、お茶をテーブルに戻して脇に退け身を乗り出した。
「今夜、あなたとお会いできることを楽しみにしておりました、エルターク殿」
「ルシウス、とお呼びください、宰相閣下」
「では、私のこともシャーウッド、もしくはシャルとお呼びください、ルシウス殿」
俺たちは、なんということもない貴族の社交の会話を夜更けまで続けた。その間、俺は、宰相の様子を観察していたが、なかなか隙のないさすがとしか言い様のない人物のようだ。
宰相は、去り際に俺に探るような眼差しを向けた。
「どうか、私にチャンスをいただきたい。あなたと親密になれるように、ぜひ」
宰相を送って戻ってきたルトに俺は、伝えた。
「次は、レイヤー領の酒を用意してくれ、ルト」
「わかった」
ルトは、頷いた。
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