竜の国のカイラ～前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました～

第２章 聖女の騎士

2ー8 喜び

　２ー８　喜び

　十数年前のことだ。
　アルタス様とウルティア様に待望のお子様ができた。
　熱烈な愛情で結ばれたお二人だったが、なかなか子供ができなかったために、たいそう周囲も気を揉んでいたので領地をあげてお祝いした。
　だけど。
　生まれてきた子は、たった１日しか生きられなかったのだという。
　二人は、その名前を持つこともなく死んでいった女の子を抱いて別れを惜しんだ。
　今も、お屋敷にその子のための部屋を用意するぐらいにその子を愛した。
　そのせいでもないのだろうが、お二人には、もう二人目のお子はできなかった。
　「そのお子は、私が棺に納めて墓に埋めたのです。それ以来、私もこのルドクリフの屋敷にも帳が降りているような闇が存在しておりました」
　バルトハルトさんは、わたしに向き直ると深々と頭を下げた。
　「この家の闇を払ってくれたこと、感謝いたします、カイラ様」
　はい？
　わたしは、驚いていた。
　死んだお嬢様の部屋を使うわたしを責めるのかと思ったけど、バルトハルトさんは、そうではなくわたしにお礼を言ってくれている？
　驚いているわたしにバルトハルトさんは、顔をあげてにっこりと微笑みかけた。
　「周囲のすすめにもかかわらずかたくなに養子もとろうとなさらなかったお二人がこの部屋を使わせたいとまで仰るとは、私も最初は信じられませんでした。しかし、今日、この『グリンヒルデ』においでになったあなた方を拝見して納得いたしました。アルタス様とウルティア様は、やっとご家族を見つけられたのです」
　「家族を見つけられたのはわたしの方です」
　わたしは、バルトハルトさんに告げた。
　「わたしには、ずっとこの猫竜のマオしかいませんでした。だけど、お二人は、わたしに帰る場所をくださいました」
　そうですか、とバルトハルトさんは、何度も頷いていた。
　「あなた方の両方が家族を見つけられたのですね」
　家族。
　わたしは、マオのことをじっと見つめた。
　マオがうんうん、と頷いた。
　ああ。
　わたしは、微笑みが溢れるのを止められなかった。
　そうなんだ。
　この胸の温もりは、家族を見つけられた喜びなんだ。