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第7章 恋する騎士

7ー3 カフィル

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 7ー3 カフィル

 翌日、わたしは、朝早くからそっと起き出すと宿屋の入り口に出て待っていた。
 すると、しばらくして黒いローブを着たルシーが現れた。
 「おはよう、カイラ」
 「おはようございます、ルシーディア様」
 わたしが礼をとろうとするとルシーは、慌ててわたしの手をとって歩き出した。
 「こんなところで立ち話もなんだし、一緒に来て」
 わたしたちは、なぜか手をつないで歩き続けた。
 しばらくいくと運河に面した場所にある小さな店があった。
 ルシーは、そこにわたしを連れて入ると運河がよく見える大きな窓の側の席に座りわたしにも椅子をすすめた。
 「座って、カイラ」
 ルシーは、わたしが腰かけると近づいてきた女給に向かっていった。
 「カフィルを二つ。後、コンフィを頼む」
 女給は、こくりと頷くと店の奥へと消えた。
 まだ、早朝だというのに小さな店には、もうちらほらと客の姿があった。
 ルシーは、わたしに向かい合うと微笑んだ。
 「この店は、小さいけど穴場なんだよ。ここからなら運河がよく見えるだろ?」
 確かに。
 わたしは、窓の外を眺めた。
 朝の光にきらきらと水面が輝き美しい。
 わたしたちは、しばらく黙って運河を眺めていた。
 店の奥から出てきたさっきの女給がわたしたちの前にカップに入った黒い液体と白いクリームのかかった丸いお菓子らしいものを持ってきた。
 いい香りがしてマオがくんくんと鼻を鳴らした。
 ルシーは、丸い焼き菓子を一つつまむとマオの鼻先に差し出した。
 「食べるかい?」
 マオは、少し躊躇したがすぐにぱくっとそのお菓子に食いついた。
 もぐもぐしているマオを見て、ルシーが相貌を崩す。
 「かわいい従魔だね、カイラ」
 ルシーは、湯気のたつその黒い液体が入ったカップをわたしにすすめると自分も手にとって一口飲んだ。
 「この街の名物なんだ。君も飲んでごらん」
 わたしは、カップを手にすると持ち上げて一口口に含んだ。
 それは、すごく苦くて、わたしは、思わず吐き出しそうになるのを我慢した。
 「殿下!毒が入ってます!」
 わたしにルシーは、笑って見せた。
 「毒じゃないよ、カイラ。これは、カフィル。この街で飲まれている苦い豆の汁なんだ」
 マジか?
 
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