魔王に転生したら、イケメンたちから溺愛されてます

トモモト ヨシユキ

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33 ひとめ、あなたに

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    アイリは、本名  田宮  アイリといって、まだ、13才の少女だった。
   両親は、離婚し、母親と2人暮らし。
   母親は、だらしなくて、ワガママな女だった。
   だけど。
   その人は、とにかく、美しかったのだという。
   アイリは、外見も中身も、普通の女の子だった。
   それが、アイリを苦しめた。
   自分は、美しくない。
   それが、彼女のコンプレックスだった。
   母のように美しければ、何だって自由にできる。
   いつしか、少女は、そう思い込むようになっていた。
   そんなある日、この世界へと突然、召喚された。
   聖女として。
   少女には、いくつもの特別な能力が与えられ、その一つに魅了の力があった。
   少女は、自分の姿を美しく変化させ、人々を魅了して操ることを覚えた。
   自分は、美しい。
   だから、なんだって手に入れられる。
   だけど、それは、間違っていた。
   見せかけの美しさで手に入れられるものは、所詮、偽物でしかなかった。
   アイリの心は、満たされることがない。
   アイリを怪物にしたのは、誰だったのか?
   俺に力を封じられたアイリは、俺のダンジョンの2階層にいる聖獣たちの世話係になった。
    そこで働くうちにアイリは、自分が特別な存在でなくても、受け入れられるのだということを知っていった。
    そして、数ヵ月たつ頃には、もとの優しい内気な女の子に戻っていた。
   もう、怪物だった聖女は、いない。
   この事を1番喜んだのは、恐怖の魔王  エイシェスだった。
   彼は、農園で働きながら、アイリを見守っていた。
   他の兄弟たちがアイリの本当の姿を見て、離れていった中、エイシェスだけが、彼女の側に残った。
   かつて、自分の言いなりにならなかったエイシェスを憎んでいたアイリも、今では、彼の本心を悟り、彼に心を許すようになっていた。
   俺たちは、みんな、2人のことを暖かく見守っていた。
   イオルグを除いては。
   イオルグだけが、2人に冷たかった。
   それは、イオルグがエイシェスに惹かれていたから。
   まあ、仕方がないことだよね。
      俺は、アイリが聖女としてやっていけるだろう見通しがたつ頃に、彼女の封じていた力を解放してやった。
   そして、アイリにポーション作りやら、治癒魔法やらを教えてやった。
   彼女は、乾いた砂地が水を吸い込むように知識を吸収していった。
    アイリが聖女として一人立ちできるぐらいになった頃、エイシェスは、アイリにプロポーズした。
   こうして、魔王と聖女のカップルが誕生した。
   「まだ、婚約だけです」
   エイシェスは、照れ臭そうに笑った。
   「結婚は、彼女が成人するまで待ちます」
   俺たちは、おおいに盛り上がって、町を上げて2人をお祝いすることになった。
   こうして『魔王の杜』ダンジョンとグランの街は、2人のために祭りを開催した。
   ちょうど、季節もいい頃で、街は、とても、盛況だった。
  ヴィスコンティも、もうすぐ、休暇をとって街を訪れるつもりだそうだ。
   今から、その時が待ち遠しかった。
   俺は、毎日、指折り数えてその日が来るのを待っていた。
   そんな折のことだ。
  俺の元を以外な来客が訪れたのは。
    それは、無欲の魔王  クローゼだった。
   俺は、突然の彼の来訪に身構えていた。
   いったい、何の用があるのか。
   「突然だけど、ハジメ。君を殺させてもらう」
   俺を訪れた無欲の魔王  クローゼは、開口一番、俺に向かってこう言い放った。
   そして、聖剣ソードフィッシュを抜くと、俺に切っ先を向けた。
   そこは、俺の部屋で、俺とクローゼは、2人きりだった。
   「2人っきりで話したいことがある」
   そう、クローゼが言ったからだ。
    俺は、はぁ、と息を吐いてから、クローゼにきいた。
   「なんで?理由ぐらいきかせてもらえるんだよね?」
   「ああ、もちろん、だ、ハジメ」
   クローゼは、俺に剣を向けたままで微笑んだ。
   「もちろん、君は、自分の死ぬ理由を知っておくべきだ」
   クローゼは、話し出した。
   「この魔王の戦いの刻は、後君と私を残すのみとなった」
   「はい?」
    俺は、訊ねた。
   「どういうこと?」
    「君は、自分でも気づいてないのかもしれないけど、私以外の全ての魔王を己に屈服させた」
    「いつ?」
    俺は、クローゼにきいた。クローゼは、俺を愛おしそうに見つめた。
   「君は、この半年ほどの間に出会った魔王の心を奪い、自分の支配下に置いてきた。知ってか知らずか、君は、この戦いにおける最強となりつつあるのだよ、ハジメ」
     マジか?
    俺は、クローゼの持つ剣の鋭い切っ先を見つめて息を飲んだ。
   「なんで・・それで、俺を殺す、と?」
    「私は、魔王であると同時に勇者でもある。そして、私の役目は、魔王の討伐なんだ、ハジメ」
     「でも・・」
    クローゼは、俺の唇に己の唇を重ねた。
   「んっ・・」
     俺を抱き締め、そして、離すとクローゼは、名残惜しげに俺の長い髪を指ですいた。
   「君は、女になっても美しい」
    そう。
    俺は、頬が熱くなってくるのを感じた。
   俺は、アイリの一件で女体化して以来、まだ、もとに戻っていなかったのだ。
   「せめて、俺がもとの体に戻るまで、待ってくれないか?クローゼ」
   俺は、ダメもとでクローゼに訊ねた。クローゼは、俺の髪に口づけした。
   「いや、私は、君が女の姿のまま殺したい。そして、屍となった君の体をもう一度だけ抱きたい」
   いや。
  俺は、頭を抱えていた。
   魔王って、みんな、変な奴ばっかだな。
  「じゃあ、どうしても、あんたとここで戦わなきゃダメなのか?」
   俺は、クローゼにきいた。
   「今、見ての通り、この街は、お祭りの最中でね。せめて、この祭りが終わるまで待ってくれないかな?」
   「だめだ」
    クローゼが俺に再び剣の切っ先を向けた。
   「魔王は、倒されるべきだ」
    剣の先が俺の胸元へと押し当てられた。
   マジですか?
   俺は、クローゼを見つめて、もう一度、懇願した。
   「頼むから、後、少しだけ待ってくれ」
    俺は、頼んだ。
   「もう少ししたら俺の恋人がこの街に帰ってくる。一目、彼に会ってからにしてくれないか?」
   「恋人、か・・」
    クローゼがふと寂しげに笑った。
   「そんなものに会わせてやるほど、私が寛大な心を持っているとでも?」
   クローゼは、俺にもう一度、口づけし、そっと俺の頬に触れた。
   「さよなら、ハジメ」
   「ちょ、ちょっと、待って!」
    俺は、両手で剣を押し止めようとした。
   そのとき、だった。
   剣が、俺がはめている腕輪を貫き、それが砕け散った。
   「この時が来るのを待っていた」
   俺の中から俺じゃない何かが現れて体を支配していく。
   俺は、奥へと閉じ込められたまま、外を見つめていた。
   俺ではない何かが俺の体を支配すると同時に、体が変化していく。
   女だった体が、男へと変わっていく。
   胸が萎んでいくのがわかった。
   「ミハイル、か?」
    クローゼが低い声で訊ねた。俺の中の誰かは、答えた。
   「無欲の魔王  クローゼ。もっと速くお前を殺しておくべきだったな」
   「こわっ!殺る気満々じゃないか」
    クローゼがにやっと笑った。
   「さすが、利欲の魔王  ミハイル。この戦いの最後に残るのは、あなただと私は、思っていた」
   「この戦いの勝者は、ハジメ、ただ1人だ」
   ミハイルは、言った。
   「私は、もはや、ハジメの魂の一部に過ぎない」
    「なるほど」
     2人は、睨み合った。パチパチっと火花が飛び散るような激しさに、俺は、意識が途切れそうになっていた。
   だけど。
   どこかから、ミハイルの呼ぶ声が聞こえた。

      ミハイル?
   俺は、声の方に集中した。
   ハジメ
   声は、俺に言った。
   気をしっかり持て。
   ミハイルは、囁いた。
   これからが、私たちの本当の戦いだ。
   本当の戦い?
   そうだ。
   ミハイルがすぐ側にいるような気がした。
   私は、これから無欲の魔王  クローゼの体に移る。ハジメ、お前は、それを邪魔してはいけない。
    ええっ?
   俺が驚いている間に、俺に切りかかってきたクローゼをミハイルが捕らえた。
   「捕まえた」
    ミハイルは、クローゼの目を覗き込む。クローゼが小さく舌打ちした。
   「しまった!」
    クローゼが俺から視線をそらそうとするのを俺の両手が伸びて、自分の方へと向かせる。
    ミハイルである俺は、クローゼに向かって微笑んだ。
   「愛しているぞ、クローゼ。我が弟よ」
   「さすが、長兄、ミハイル」
    クローゼが俺を見つめたまま言った。
   「太古より体を乗り移りながら、今日まで、生き続けてきたあなたに、死という安らぎを与えてあげようというのに、なぜ、抗うのですか?ミハイル、いや、邪神クラディナードよ」
    「なぜ?」
    ミハイルである俺は、笑った。
   「出会ってしまったから、だ。最愛の魂の伴侶に」
   「魂の伴侶?」
    クローゼが唇を噛んだ。
   「何をもって、そうだといえる?」
   「わかるさ」
    ミハイルは、術式を発動しながら囁いた。
   「昔々から、ずっと、待ち続けてきたんだ。私は、ハジメのことを」
   「ハジメ?」
    クローゼが防壁を展開しながら言った。
   「違うでしょう。あなたが待っていたのは、光の化身、ラギの魂、でしょう?」
   「そうだ」
    ミハイルが術式を左手に込めると、それをクローゼの胸へと打ち込んだ。
   「そして、ハジメこそが、光の神  ラギの化身」
    「な・・ぜ・・」
    クローゼの魂が消滅していくのがわかった。
   クローゼが俺の前に膝をついて項垂れた。
   まるで、許しをこう者のように。
   「クローゼ?」
    俺は彼の名を呼んだ。
   だが。
   顔をあげたとき、そこには、クローゼは、いなかった。
   その金色の瞳は、俺の魂を射た。
   「ハジメ」
    クローゼの体を支配している何かが俺の方へと手を伸ばしてきた。
   「我が番よ」
    「・・ミハイル・・?」
    俺は、後ろずさった。
   「なんで・・」
    「なぜ?」
    クローゼだったものは、立ち上がると俺の顎へと指先で触れて俺を自分の方へと向かせた。
   「それをお前がきくのか?ハジメ」

  
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