エロくてすみません

トモモト ヨシユキ

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   気がつくと僕は、ベットに寝かされていた。周りの喧騒は嘘のように静まり、部屋の中は、薄暗く、人気もなくなっていた。僕は、体を起こした。僕にかけられていたシーツがめくれて、縄の跡のついた自分の裸の体が目に入った。後ろに違和感を感じて、僕は、あれが夢ではなかったのだと、思った。僕は、ため息をついた。
    すんだことは、仕方がない。
   僕は、女の子じゃないんだし、これぐらい、大丈夫だ。
   そう、僕は、心の中で呟いていた。
   だけど。
   衆人の監視の中で、あんな風にいかされ、辱しめを受けたことに、僕は、傷つき、衝撃を受けていた。あんな、まるで、女の子みたいに扱われて、僕は、何度も泣きながらいった。いったい、どのぐらいの人に、僕が犯されている様子を見られるのだろうか。
   そう考えた時、僕の頬を涙が流れ落ちた。
   僕は、一人、嗚咽した。
  もう、もとの僕には、戻れない。
  そのとき、部屋に誰かが入ってくる気配がして、僕は、顔を上げた。
        「なんだ、泣いてるのか?」
    沢村が、僕の方へと近づいてきた。僕は、身構えた。沢村は、僕に、缶コーヒーを渡して言った。
   「お疲れ」
   僕は、黙ったまま、彼に渡された缶コーヒーを受け取った。沢村は、僕の座り込んでいるベットのはしに腰かけると言った。
   「悪かったな、さっきは」
   僕は、じっと彼の横顔を見つめていた。沢村は、僕の方を見ることなく、言った。
   「お前が、あんまりいい顔するもんだから、つい、本気で責めてしまって。でも、おかげで、いい画がとれたって、社長が喜んでたよ」
   僕は、何も言うことができなかった。ただ、僕は、低くすすり泣いていた。
   「ああ、もう、泣くなよ」
    沢村は、僕をぐぃっと抱き寄せて慰めるように囁いた。
   「大丈夫、だ。何も心配しなくても、大丈夫、だよ」
   そう言って、沢村は、僕の頭を優しくあやすように撫でてくれた。僕は、なぜか、不思議と落ち着いてくるのを感じていた。さっき、僕にあんなに酷いことをした、沢村の手が、今は、こんなにも温かく感じられた。
    僕が泣き止むのを確かめると、沢村は、僕の服をあの小部屋から持ってきてくれ、僕は、ゆっくりと服を身に着けていった。そして、僕が身支度を整えると、沢村は、言った。
   「事務所で、社長が待ってる」
    僕は、沢村に促されて、立ち上がると彼の後をついて、その部屋を出て、隣の別室へと向かった。そこは、さっき、僕が連れていかれた部屋だった。僕は、さっきの出来事を思い出して、頬が赤く染まってくるのを感じた。沢村は、何の感慨もない様子で僕を奥の事務所へと案内すると、デスクに向かっているあの関西弁の中年男に呼び掛けた。
        「社長、レイちゃんを連れてきましたよ」
   社長と呼ばれた男は、満面の笑みで僕を迎えた。
   「レイちゃん、初仕事、ご苦労さん。体、どないや。どこも、痛いとこ、あらへんか?」
   僕は、沢村を見てから、社長に向かって、頷いた。社長は、僕にデスクの横に置かれたいかにも、安っぽいソファに座るようにと言った。僕が腰かけるのを見届けてから、社長は、僕の前の椅子に座って言った。
    「今日は、いきなりでホンマに、すまへんかったな。せやけど、お陰さんで、ええのが撮れたで。ありがとうな、レイちゃん」
   「はぁ・・」
   「ほんま、思うとったより、レイちゃんがよかったさかいに、この沢村も力が入っとったしな。沢村が、本番で、キスするときは、ほんまに気が入っとる時だけやで」
   僕は、ちらっと沢村を見た。彼は、憮然とした表情で、窓際に立ったままで僕たちのやり取りをきいていた。
       「ところで、やな、レイちゃん」
    社長は、僕の方へと身を乗り出して、本題を切り出してきた。
   「レイちゃんは、山本さんの紹介でうちに来たわけやけど、うちと山本さんのとこの取り決めでは、本番3本、緊縛写真集2冊いうことになっとるんやけど、それで、ええか?」
    本番3本?
   僕は、思わず、泣きそうになった。今日みたいなのを、あと、2本?
   それに、緊縛写真集、だって?
  「あの、緊縛写真集って?」
   僕が質問すると、社長は、嬉々として説明を始めた。
   「うちは、この業界では、結構有名なプロダクションで『ホーリーナイト』いう会社なんやけど、主に、SMで売っとってな。つまり、今日の撮影みたいに縄で縛ったりするやっちゃな。どや?初めての縄の味は?あんた、ほんまに縄映えする子やで。ちょっと、痩せとるけど、なかなか、ええ味出しとるわ。これからが楽しみやで」
    え、SM?
   僕は、頭がくらくらしてきた。僕は、変態ビデオの男優にされちゃったのか?
   戸惑っている僕にかまわずに、社長は、捲し立てた。
   「あんたの芸名やけど、レイでええか?これから、うちの期待の新人として売り出すさかいに、よろしゅうな。あ、うちは、本番が売りやで、そのつもりでな。なに、心配あらへん。うちの男優は、受けも責めもええ子ばっかりやで。当分は、あんたの世話は、沢村に任せるで。沢村は、助監やけど、男優が足りひんときは、今日みたいに男優もしとるで、なんでも、相談しいや。ええか、沢村。レイちゃんのこと、頼んだで」
    「はいはい」
   沢村が、嫌そうに返事をした。社長は、大袈裟にため息をついた。
   「ほんまに、助かったわ。ええときに、レイちゃんが来てくれて。山本さんにもよう、お礼言うとかな」
  僕は、複雑な気持ちだった。
   だけど、全ては、兄のためだった。今まで、自分を犠牲にして、僕を養ってくれた兄さんを見捨てることは、僕には、できなかった。
   僕は、社長と話すうちに心を決めた。
   僕も、男だ。
   大切な人を守るために、ここで体を張らずにどうするんだ。
   「じゃ、これからよろしゅう頼んます」
   社長に言われて、僕は、頷いた。
   「よろしくお願いします」
   そして、僕は、何枚もの契約書にサインした。社長は、従順な僕に満足そうな笑顔だった。それと、対照的に、沢村は、露骨に嫌そうな顔をしていた。
   契約が結ばれ、僕が、家に帰る頃には、もう、夕方になっていた。沢村は、僕を家まで送ってくれた。彼が望んでではない、社長の命令だった。
   「ええか、沢村。レイちゃんに、もしものことがあったらあかん。きちんと、送ったりや」
   大晦日の夕暮れに、沢村と連れ立って歩きながら、僕は、その後ろ姿を見上げていた。沢村は、僕を振り向くことなく歩き続けていた。僕は、懸命に彼の後ろについて歩いていた。彼は、黙って歩き続けていたが、突然、立ち止まり、僕を振り向いて言った。
   「お前、本気で、やる気なのか?」
   僕は、沢村に向かって頷いた。沢村は、ため息をついた。
   「マジかよ」
    沢村の嫌そうな態度に、僕は、少し、腹が立っていた。僕の初めてを奪っておいて、なんで、僕が男優になることに、そこまで嫌そうな顔をするのか。ある意味、全て、沢村のせいだともいえるのに。いや、それは、言い過ぎかもしれない。沢村からすれば、僕は、借金のかたに売られてきたバカな奴に過ぎないのかもしれない。だけど、事情はどうであれ、沢村は、僕の初めてを奪ったのだ。その責任は、取ってもらいたい。僕は、沢村に言った。
    「僕が、男優になることがそんなに気に入らないの?」
   「ああ?」
   沢村は、ぎろりと僕を睨み付けた。
   「初めてづくしだったくせに、1回本番したぐらいで、いい気になってんじゃねぇぞ、ガキが」
   僕は、沢村の言葉にむっとして言った。
   「もう、初めてじゃない。あんたに、やられたんだから」
   「なんだ?仕返しのつもりか?」
   沢村が言った。
   「こっちは、仕事でやってるんだ。遊びじゃねぇんだぞ」
   「僕だって」
    僕は、言い返した。
   「遊びで、こんなことしてるわけじゃない」
   たった一人の家族のために、僕は、負けるわけにはいかなかった。
   真剣な僕の眼差しに、沢村が冷たく言った。
   「後で、泣いても、知らねぇからな」
   「もう、泣いたよ」
   僕は、言った。
   「あんたに、心配されなくても、もう、泣いたりしない」
   「ふん」
   沢村は、僕をじっと見つめていたが、やがて、言った。
   「童貞のくせに、ずいぶん、強気だな」
    沢村が、僕に、にっと笑いかけた。
    「次が、楽しみ、だな 」
   そう言うと沢村は、また、僕に背を向けて歩き出した。僕は、腹立ちを隠せなかった。
   見返してやる。
   僕は、決意していた。
  とにかく、なんとかして、この嫌みな男を見返してやる。
   沢村にアパートの近くまで送ってもらうと、僕は、そこで沢村と別れた。家まで送ると彼は、言ったが、そうしたら、兄に見つかってしまうかもしれない。それだけは、避けたかった。
   「じゃあ、また、沢村さん」
   僕は、沢村に会釈した。沢村は、不敵な笑みを浮かべて言った。
   「次の撮影が決まったら、連絡する。逃げんなよ、レイちゃん」
   「僕は、逃げたりしない」
    怒りに震える僕に、沢村は、言った。
   「よいお年を、レイちゃん」
   「あんたも、ね。沢村さん」
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