エロくてすみません

トモモト ヨシユキ

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   僕のデビュー作である『初縛り』は、この業界では、かなりのヒット作となった。社長は、すっかり浮き足立ち、僕の次回作は、オールロケにすると言い出した。
   「いくでぇ、沖縄ロケや!」
   「マジっすか?」
    沢村が、嫌そうな顔をして言った。そんな沢村に社長は、言った。
   「南の島やでぇ!青い海、白い砂浜。そこで、レイちゃんを思う存分、哭かせたるんや!男冥利につきるやろが、沢村ぁ!」
   「別に」
    沢村は、冷たく言い放った。社長は、僕にすがるように言った。
   「あないなこと、いいよるで、レイちゃん」
   「はぁ・・」
    僕は、複雑な表情を浮かべていた。反応のよくない僕に、社長は、いじけて言った。
   「もちろん、別途、ボーナスを出すつもりやねんけどな」
   「ほんまに!」
    どこからか現れた改発が、社長にすり寄っていった。
   「僕、社長の行きはるとこやったら、例え、地獄でもついていきまっせ!」
    「改発はん!」
  社長が、改発に抱きついて言った。
   「もう、あんたにやったら、わし、抱かれてもええわぁ」
   「それは、勘弁な」
    そう言うと、彼らは、わっと笑った。
       『ホーリーナイト』の社員の慰安も兼ねた沖縄ロケは、三月初旬に決定した。大学生の僕が春休みに入るということもあったが、もう少し時期がずれると、旅費がかさむということもあったらしい。日程は、三泊四日で、この期間に、本番1本、緊縛写真集を1冊分の撮影をするという。
   僕は、両親が亡くなってからは、旅行なんて行くことも滅多になかったので、少し、嬉しかった。
   だが、楽しいことばかりではない。
   今度は、どんなことをされるのかと思うと不安でもあった。そして、不安と同時に、僕は、ほんの少しの胸の高鳴りも感じていた。また、縛られて、皆の見ている前で痴態を演じさせられるのだと思うと、なぜか、体の奥が熱くなってくる。
   僕は、旅行の準備をしながら、熱いため息をついていた。
   ああ。
   僕の体は、どうなってしまったのだろうか。
   あの最悪の大晦日に、沢村に、犯されて以来、僕の体は、すっかり、変えられてしまった。まるで、快楽のためにあるみたいな体になってしまった。
   こうして、家でいながらも、僕は、沢村の手が、指が、唇が触れるときのことを思い出して、感じてしまうことがあった。彼の息遣いまでも思い出しながら、僕は、息を荒らげて、自ら求めてしまうのだった。
   以前も、一人でしてしまうことは、ないわけではなかったが、そんな、頻繁でもなく、あくまで、体の管理的なものに過ぎなかったような気がする。
     今は、違っていた。
   今の僕は、快楽の何たるかを知った上で、自分自身でそれを求めている。
   沢村を。
   僕は、気分が沈んでくるのを感じていた。
  彼が、今の僕の快楽の象徴だった。僕は、彼を求めていた。
   あんなにも、僕に、冷たい態度をとるあの人を、僕は、なぜ、こんなにも求めてしまうのだろうか。
   あの人が、僕を抱くのは、ただ、仕事のためだけだというのに。
   不意に、部屋の襖が開いて、兄が声をかけてきた。
   「夕飯、できたぞ、晴」
    僕は、びくんと体を強張らせた。
   振り向くと、あくまでも罪のない兄の姿があった。それは、あの日までの僕の姿だった。
   沢村と出会う前の僕が、そこにいた。
      「友達と旅行か、珍しいな。晴が友達とかのこと、言うのは」
   僕にそっくりな、だけど、汚されていない兄が僕にそう言うのをきくのは、複雑な気分がしていた。
   本当なら、沢村に抱かれていたのは、兄だったはずなのだ。旅行に行くのも、兄だっただろうし、こうして、あの人を思って心を悩ませているのも兄だったのかもしれなかった。
    「どうしたんだ?晴。ぼうっとして」
   兄は、考え事をしていた僕に言った。僕は、慌てて、言った。
   「なんでも、ないよ、兄さん」
   「なら、いいんだけどな」
    兄は、少し、心配そうな表情で僕を見つめていた。
   「最近、時々、ぼーっとしてることがあるから気になって」
   僕は、優しい兄に心配をかけてはいけないと思いながら。笑顔で立ち上がると、台所の方へと歩き出した。
   「ああ、腹へったなぁ。晩飯、何?」
   「晴」
    すれ違うときに、兄が、僕の腕を掴んで言った。
   「本当に、大丈夫、なんだな?」
    「兄さん」
    兄さんの温もりが伝わってきた。何も、知らない、きれいなままの兄。僕を心配する弟思いの兄が、真実を知れば、彼は、どう思うのだろうか。
   僕は、兄にすべてを話してしまいたくなるのをこらえて、兄の腕をそっと払った。
   「大丈夫、だよ、僕は、大丈夫」
   
    僕は、沢村への説明しきれない感情を抱いたまま、沖縄ロケに参加した。
    今回のロケに参加しているのは、『ホーリーナイト』のスタッフ4人と、僕の他の男優が2人だった。
   社長と、カメラマン、縄師の改発に、助監督の沢村、男優たちは、一人は、今、業界でナンバーワンの人気男優という杉谷   敬という人で、もう一人は、古矢   始という人だった。
    「はじめまして、レイちゃん」
     杉谷は、すごい体格がいい、一見、職人さん風の男っぽい男優だった。僕は、差し出された手を取って、握手した。
   「こちらこそ、よろしくお願いします」
   「君が、今噂の、かわいこちゃん?」
    古矢は、男とは思えないぐらいきれいな、線の細い男優だった。この人は、実は、社長の愛人だと、行きの飛行機の中で隣の席だった改発が、僕にそっと教えてくれていた。
   「古矢さんは、あんたよりずっと若い頃から社長の愛人やった人やで。まだ、若い人やけど、この業界の古株や。ええ人やさかい、よう、相談にのってもろたらええで」
    僕は、古矢とも握手して言った。
   「よろしく、お願いします」
      「こちらこそ、よろしく」
   古矢は、にっこり笑って言った。
   「三ツ屋さんから、君のこと、頼まれてるから、なんでもわからないことがあれば、聞いてね」
   三ツ屋というのは、社長の名前だった。ここのスタッフの中で、社長を名前で呼ぶのは、この人だけだった。
   僕たちは、海辺のホテルに宿泊すつことになっていた。空港からホテルへの移動の車内で、僕は、ついつい、社長と並んでいる古矢のことを目で追ってしまっていた。
   この二人は、恋人同士なのだと改発は、言っていた。男同士なのに、恋人同士なんだ。僕は、まだ、そういう感覚になれることは、できなかった。僕の、沢村に対する気持ちもそんな類いのものなのだろうか、と僕は、思っていた。
   僕の沢村への気持ちの名前を僕は、まだ、知らない。
       ただ、彼のことを思うとき、僕の心の中で、相反する思いが渦を巻くのだった。
   それは、僕に憎まれ口ばかりをたたく、憎たらしい沢村と、僕を甘く、切なく、時には、意地悪に、責めるときの沢村との様に、異なっていて、僕を悩ませる。
   どの沢村が、本当の彼なのか、僕には、わからなかった。僕に優しくキスする彼か、僕を冷たく突き放す彼か。
   そして、僕は、どちらの沢村を望んでいるのだろうか。
   「ついたでぇ」
    そのとき、社長が大きな声で言って、僕は、はっとして顔を上げた。大きなリゾートホテルだった。改発が、そっと僕に言った。
   「えらい、社長も張り込みはったな、こりゃ」
   「すごいホテルですね」
   僕は、素直に、言った。
   「こんなとこに泊まれるなんて、思ってなかったです」
        僕は、幸せな子供時代に家族で行った北海道旅行を思い出していた。両親と、僕と兄。本当に、無邪気で、幸せな記憶だった。
   ホテルの前で、車が止まって、僕たちは、車を降りた。玄関では、ホテルのスタッフが出迎えてくれていた。僕たちは、おのおの荷物を持って、チェックインをすませている社長を待っていた。古矢が、部屋割りを僕たちに伝えていた。
   「カメラマンの中村さんだけ、一人部屋で、あとは、相部屋になるから」
  「はいはい、俺、レイちゃんとがええな」
   改発が言うのに、古矢が苦笑して言った。
  「改発さんと相部屋にしたら、レイちゃんの身が危険だから、だめです。改発さんは、杉谷さんと。レイちゃんは」
   古矢は、にっこりと笑って言った。
  「沢村さんと、ね」
       僕の心臓がどくんと跳ねた。
   沢村と、僕が、相部屋。
  僕は、いつもと変わらない不機嫌そうな顔をした沢村をちらっと見た。沢村と、目があって、僕は、慌てて、目を反らした。
   胸が、ドキドキする。
   そうしているうちに、社長が戻ってきて、僕らは、部屋へと移動を始めた。慣れない大荷物に僕がもたついていると、沢村が、僕の荷物をさっと持ってくれた。僕が、驚いていると、沢村が言った。
   「もたもたするなよ、とろくさい奴だな」
   僕は、慌てて、沢村の後をついていった。
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