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1 進化の実と『渡り人』

1ー10 口づけですか?

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 1ー10 口づけですか?

 俺は、声の主に対して身構えた。
 命令1つで俺に剣を向けていた騎士たちが一斉に剣を引いたのだ。
 「すまない。助けてもらったというのに供の者たちが非礼を働いたな」
 俺は、声の主を見てちょっと驚いた。
 それは、今の俺と同じ年くらいの少年だった。
 しかし、明らかに非凡な存在だということがわかる。
 俺と似たような背丈だったがその容姿は、俺とは異なっていた。
 金色の糸のような美しい髪、男にしておくのが惜しいような整った可愛らしい容貌。
 将来きっと女の子を山ほど泣かせるのに違いない。
 俺がぼぅっと見とれていると少年が俺に話しかけてきた。
 「その方、名は?」
 うん?
 なんか偉そうだな!
 俺は、ちょっとだけムッとしてしまった。
 こいつ、どこの何様?
 俺がいつまでも返事をしなかったら、少年の側についていた中年のおばさんが俺に向かって声を荒げた。
 「ライディア様がお訊ねになっておられるのだ、はやくお答えするように!」
 「よさないか、エウデリケ」
 少年がおばさんを嗜めるように言うとおばさんは、他の連中と同じように一歩下がって跪く。
 「出すぎた真似をしてしまい、申し訳ございません、ライディア様」
 ライディアは頷くと俺に向き直った。
 「お前がどこの誰なのか、よかったら私に教えてくれないか?」
 「名か?俺の名前ならクロージャーだ」
 俺は答えた。
 「トカゲの谷のクロージャー、だ」
 「クロージャー、か。いい名だ」
 ライディアは、俺の方へと歩み寄ると手を差し出した。
 「この度の働き、ご苦労だったな、クロージャー」
 はい?
 俺が差し出された手をどうすればいいのかわからずにボケッとしていると近くにいた騎士の人がそっと俺に耳打ちしてくれた。
 「はやくお手をとり、その手の甲に口づけせよ」
 マジですか?
 俺が戸惑っていると騎士の人がじっと睨み付けてきたから仕方なく俺は、ライディアの手をとりその甲に口づけした。
 ライディアは、にっこりと微笑んだ。
 「お前のおかげで私の大切な騎士たちを失わずにすんだ。礼をいうぞ、クロージャー」
 
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