人違いです。【番外編】

文字の大きさ
8 / 12
番外編

神々の遊び。

しおりを挟む




(王様×レーネ)
 更新優先にした結果、順番が前後しまくります。ご了承くださいませ。 
 「王様がレーネをどう評価しているのか」について。王城編のどっかです。まだ王様に心を開ききっていないレーネくんのツンっぷりをお楽しみ下さいませ。







「「……」」


【お互いの好ましいと思う点を5つ、述べて下さい】


 美しい活字で何とも言い難いーー特段必要性も感じられないような文章が印字された小さな紙切れを見つめる。そのままチラリと目の前に立つ王様の顔を見上げると、何とも釈然としない表情の彼と目が合った。
 周囲を見渡せば、この紙切れ以外には、窓も扉も家具も何も無いただ真っ白な部屋が一望できる。ちなみに既に魔法での脱出も試したが、あえなく失敗に終わっていた。
 
 いやそもそも、何故こんな所に?

 昨晩自室で眠りにつき、朝いつものように目覚めたと思えば、ここにいたのだ。ヘイデル王国の最重要人物であるサイラス・ヘイデル国王がここに居るのだから、今頃外では大騒ぎだろうーー此処を果たしてと定義していいものかどうかは分からないが。
 恐らくは王様の身を狙った誘拐。しかし、待てど暮らせど誘拐した犯人は声も姿も表さない。そもそも王様だけが狙いならば、戦力騎士である俺まで拐かす意味がわからなかった。


「ーー『貫け』」

 ドガァアアアアンンンン!!!


 壁にもう一度だけ渾身の魔法を放ってみるが、傷1つつかない始末だ。騎士たる俺の名誉に関わる屈辱に眉を顰めれば、王様が小さく苦笑してみせる。若干余裕のあるその仕草に、俺は更に苛立ちが膨れ上がって、思わず舌を打った。精一杯の嫌味を込めて「随分と余裕のある御様子で何よりです」と微笑む。
 すると、金色の瞳をすぅ、と細めた彼は、悠然とした足取りで俺の目の前まで再びやってくると俺の手から小さな紙切れを取り上げた。そしてもう一度その内容に目を通すと、何処か呆れた様子で深い息を吐く。彼がそんな顔をする理由が分からず首を傾げると、王様は何故か俺の頭をわしわしと撫でた。勿論すぐ様振り払って背後に避ける。

 
「何か分かりました?」
「ーーあぁ。これは少なくとも誘拐ではない。……そうだな、簡単に説明すると、ヘイデル王国に古くから伝わるとでも言うべきか」
「神々の悪戯?」


 首を傾げる俺に「そうだ」と頷き返した王様は、【要求】が書かれた紙片を丁重に胸にしまう。そのままチラリと天井(先の見えない真っ白な空間、と表現した方が正しいかもしれない)を見上げて再び艶やかな唇を動かした。

 『神々の悪戯』とは。信心深いヘイデル王国で御伽噺のように伝えられてきたものらしい。というのも、魔法研究所をもってしてもその発動条件や周期等を解明することは叶わず、悠久の謎とされているのだとか。ーーしかし、その中にも分かっていることは少しだけある。
 まず、『必ず言語を介する生物が2匹以上存在する』場所でのみ発動する。しかしこれも、必ずしも2匹でないことや、2匹いても発動しない場合の方が多い事から、確実にそうだとは言えない。次に、『何も無い真っ白な空間に転送されるか、願えばなんでも出てくる寝具だけが置かれた空間に転送されるかの2通りである』という事。これも特に法則性はないらしい。

 そして、最後。
 呟いた王様が苦々しげな表情を浮べるものだから、胡散臭げな顔を隠しもせずに聞いていた俺も思わず表情を引き締めた。


「……若者の言葉を借りて言うのならば、の関係性にある者が、この空間に閉じ込められるのだと」
「……は?」


 空間に閉じ込められた者は、その部屋に『必ず提示されているお題』に応えなければ、一生涯出ることは叶わない。それだけならばまだのだがーー何故か、そのお題の大概全てが相対した者の好意を試すものであるらしい。何とも巫山戯たその説明に益々不愉快げに顔を歪める。一体誰が、誰に好意があるですって?
 チィッ!と隠すことなく高らかに舌打ちを噛ませば、王様は気まずげに俺から目を逸らした。

 まぁつまり、俺達はとんだ不愉快な神の勘違いにより、所謂仮想空間とも言えるこの場に転送されたという訳か。そうひとりでに理解を進めて小さく頷く。王様はそんな俺の様子を静かに見つめていたが、特に何も言うことは無かった。
 その後も細々と続いた王様の説明によると、『お題を解決しなければ、どんな手を持ってしても空間が開けることはない』らしい。ならば、さっさと応えて出てしまえばいいだけだ。


「ならばさっさと解決してしまいましょう。お題、なんでしたっけ」
「……【お互いの好ましいと思う点を5つ、述べて下さい】だな」
「成程。神は俺に死ねと仰っているようですね」


 ねぇよ。5つも。暗にそう宣言してやると、王様は心なし落ち込んだように肩を落とした。それに何となく気分が少しだけ上昇して、俺はくすくすと笑う。自分の発言に感情を揺らす王を見るのは良い気分だ。
 とはいえこれ以上この何も無い空間で王様と2人っきりというのも……そっちの方が嫌だな。瞬時に『敵に好意を伝える事』と『敵とずっと2人っきりで話すこと』を天秤にかけ、即座に前者をとった俺は真っ直ぐに王様の瞳を見つめた。

 ーーどうせ、適当に嘘を吐いた所で神にはバレバレだ。ならば、さっさと終わらせてしまうに限る。
 耳の穴かっぽじってよく聞けよ、なんてアリアが聞いたら「下品ですよ、隊長」と叱責するであろう事を考えながら、口を開く。


「ヘイデル国王としての責任を強く理解し、正しく在ろうと努力する姿は尊敬しております」
「!……そうか、」
「国民の意見を幅広く取り入れ、変化を恐れぬ強さも。あとは…………知識がいっぱいあるところ……と、」
「急に適当になったな」


 仕方ないだろう。俺は王としての貴殿にしか関心がないんだから。王としての貴殿は尊敬しているが、人としての貴殿は全く尊敬していない。ただのヤバい奴だ。
 くそ、最初の2つをもう少し細分化して5つに分けるべきだったか。うんうんと唸り虚空に視線をやりながら、精一杯頭を回転させてあと2つを捻りだそうと試みるも、中々出て来てくれない。そんな俺を黙ったまま見つめていた王様が、少しだけ落ち込んだように肩を落とすのが視界の端に映った。

 あと2つ、あと2つ。俺はもう一度じ、と王様の全身をくまなく凝視して、彼のを捜索する。


「…………あ、容姿は好みです」
「ほう。顔か」
「は?自惚れないで頂けます?確かに美しい容姿を持っていらっしゃるとは思いますが、俺が言っているのは体型です」
 

 毎日サボる事なく鍛錬しているのだろう。が1つも見られない均衡の取れた美しい体躯は騎士たる俺をも魅了してやまない理想の身体だ。素直に認めよう。だって、ナヨンですら、「ヘイデル国王って完璧ですよねー身体。鍛え上げられてるって言うか……」と賞賛していた過去があるし。ちなみに現在、彼は王様を嫌悪の対象に認定したのでその過去は彼の中では無かったことになっている。
 兎にも角にも、騎士をも唸らせる王様の身体は「好ましいと思う点」に論っても許されるだろう。自信満々に背筋を伸ばしてそう言う俺に、王様は何か言いたげにーーしかし特に何も口にすることなく渋々頷いた。

 男性の顔の好みに関しては、俺は父上の顔が一等好きだ。優しくて、格好良くて、知的な。女性なら母上。


「魔法特化の俺からすると、その筋肉質な身体は羨望の対象ですね。羨ましい」
「十分付いてるだろう。お前も」
「もっとムキムキになりたいです」
「…………想像したくないな」


 なんだと。いや、ここは1度置いておこう。


「………………あと1つ」
「捻りだせ。帰りたいのならな」


「……」


「……」




 ………………。





 どうしよう。本当に出てこない。終いには真っ青になって口元を抑え蹲ってしまった俺を、王様はただ無表情で見つめている。しかしその瞳には何処か物悲しさが宿っていて。別に俺は悪くない筈なのに(悪いのは俺達をだと勘違いした神だ)チクチクと罪悪感を刺激されてしまって、思わず視線を逸らした。

 そもそも、言葉を交わしてまもない相手に「好ましい」と感じる点などそう多くあるものか。勿論外交の場では姿を見る事はあったが、一介の騎士である俺が国王と対話する機会は本来あるはずも無く。遠目でーーあるいは書類で彼の同行を観察した程度だ。
 そんな浅い間柄の人相手に好意を語るのは、寧ろ失礼に値するのではないだろうか。ねぇ、そう思うでしょう。

 そんな気持ちを込めて、王様を見上げる。


「選手交代でお願いいたします」
「ほう。良いのか?」
「どうぞどうぞ?俺の葛藤が分かる筈ですよ。敵国の騎士程度の好ましいと思う所をあげるなんて無理難題ーー」


「一つ。己の王の為ならば敵国の王の前に立つ事も恐れぬその強靭な精神。一つ。部下と共に毎日欠かさず訓練に励み、その傍らで情報収集も怠らない勤勉さ。一つ。直情的な一面も備えながらも、一方で俯瞰的に物事を観察し動ける冷静さ。一つ。優れた容姿を持っている事を自覚し、それを有効活用できる狡猾さ」
「……あはは~、」


 やっべ。

 いつか、あまりに王様にされた事に腹が立って、ヘイデル王国騎士を篭絡して適当な嘘をまことしやかに吹き込み、情報撹乱を起こさせて城内一騒がせ事件を起こしたことがあるのだが。この感じだと犯人が俺だってバレてるな。だってムカついたんだもの。
 ニコッと持ち前の「優れた容姿」で誤魔化す。王様も特には咎めるつもりもなかったようで、未だ蹲ったままの俺の髪を乱暴に掻き混ぜ、言葉を紡いでいく。


「一つ。存分に魔法を使って暴れ回っている時の本能的な笑顔が好ましい。空を眺めている時の儚さも、本を読んでいる時の静けさも、菓子を眺めている時の愛らしさも。ーーお前の表情全てを知りたくなる」


 何処までも真っ直ぐ、嘘1つないと言い聞かせるような金色に、息を呑む。一見冷涼なそれは、しかしその後ろでゆらゆらと熱く煌めいていて。

 そんな簡単に5つあげられても、困る。何処までも真摯な瞳に熱せられたのか温度の挙がった頬を両手で抑え、俯く。すると直ぐに上からクツクツと低い笑い声が聞こえてくるのだから、腹立たしい。
 あぁもう。なんなんだ。そんなにスラスラとあげられてしまっては、いまいち出てこない俺が悪いみたいじゃないか。何故か此方をドヤ顔で見下ろしている王様を睨みあげれば、彼は穏やかに目を細めた。大人の余裕とでも言いたいのか?


 くそ、さっさと冷えろ俺の身体。


「…………なんです、それ。口説き文句みたいな……」
「口説いているからな。私の隣に立て、と」
「はっ、誰が」
「上げればキリがないからな。次はお前の番だぞ。レーネ」


 うるせぇ分かってんだよそんな事は。

 とはいえ思考すればするほど、頭の中に浮かんでくるのは目の前の男への文句やら皮肉やらで。到底称賛とは程遠いそれらに、俺も知らず遠い目になってしまう。
 『神々の悪戯』が本当なのだとすれば、嘘は意味が無い。し、そもそも吐きたくない。風だって神に近いものなのだから。しかし、あと1つ何かを上げなければ俺達は此処から出ることは叶わないのだ。

 つまり、俺が、王様の足を引っ張っている。

 そこまで考えて、俺はギチリと歯を食い縛った。ーーこの俺が足でまといになるなんて事が赦されていい訳がない。俺はスクリと姿勢よく立ち上がり、空間の隅っこに立った。


「思い付いたか?」
「…………」
「そこまで迷われると、少しばかり心にくるな」


 思ってもないことを。

 俺なんてどうせなのに、よくもそう、いけしゃあしゃあと戯言を口に出せるものだ。知らず嘲笑を漏らしてしまい、慌てて「失礼」と口元を手で隠す。胡乱気な視線を寄越されたが無視した。
 確かに一国の王ーーそれも、国民に慕われ愛される賢王と名高い彼に、己を評価してもらえているという事実は名誉な事だ。しかしそれが、戦争中の敵国の王となれば。  

 ……人間というものは愚かな生き物だ。浅はかにも王である彼の言葉を心の奥底で我が王に置き換え、仄暗い悦びを感じているのだから。
 部屋の隅に立って見てみると、また真白の部屋は趣が違って見える。俺はもう一度壁や床にじっとりと視線を走らせ、出口にあたる場所がないか確認した。まぁ、無駄だったが。
 

「レーネ」


 これ以上こんな場所で時間を取られたくないんだろう。公務があるからな。念押しするような王様の声にそんなひねくれた感情が湧き上がってきて、目を瞑る。これじゃ、まるで聞き分けのない子どもだ。
 
 深く、深く、深呼吸をする。




「…………お、俺を、認めて下さる所は、嫌いじゃないです……」







 その後、出現した扉から脱兎の如き速度で逃げ出した俺は、王様がその時どんな顔で何を思っていたのかは知らない。









「…………つまり、【俺を好きな所が好き】という事か」
「陛下、あまり揶揄っては怒られますよ」
「顔を真っ赤にして瞳を揺らめかせるものだから、誘われているのかと思った」
「陛下」

 






しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...