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番外編
神々の遊び。
しおりを挟む(王様×レーネ)
更新優先にした結果、順番が前後しまくります。ご了承くださいませ。
「王様がレーネをどう評価しているのか」について。王城編のどっかです。まだ王様に心を開ききっていないレーネくんのツンっぷりをお楽しみ下さいませ。
「「……」」
【お互いの好ましいと思う点を5つ、述べて下さい】
美しい活字で何とも言い難いーー特段必要性も感じられないような文章が印字された小さな紙切れを見つめる。そのままチラリと目の前に立つ王様の顔を見上げると、何とも釈然としない表情の彼と目が合った。
周囲を見渡せば、この紙切れ以外には、窓も扉も家具も何も無いただ真っ白な部屋が一望できる。ちなみに既に魔法での脱出も試したが、あえなく失敗に終わっていた。
いやそもそも、何故こんな所に?
昨晩自室で眠りにつき、朝いつものように目覚めたと思えば、ここにいたのだ。ヘイデル王国の最重要人物であるサイラス・ヘイデル国王がここに居るのだから、今頃外では大騒ぎだろうーー此処を果たして中と定義していいものかどうかは分からないが。
恐らくは王様の身を狙った誘拐。しかし、待てど暮らせど誘拐した犯人は声も姿も表さない。そもそも王様だけが狙いならば、戦力である俺まで拐かす意味がわからなかった。
「ーー『貫け』」
ドガァアアアアンンンン!!!
壁にもう一度だけ渾身の魔法を放ってみるが、傷1つつかない始末だ。騎士たる俺の名誉に関わる屈辱に眉を顰めれば、王様が小さく苦笑してみせる。若干余裕のあるその仕草に、俺は更に苛立ちが膨れ上がって、思わず舌を打った。精一杯の嫌味を込めて「随分と余裕のある御様子で何よりです」と微笑む。
すると、金色の瞳をすぅ、と細めた彼は、悠然とした足取りで俺の目の前まで再びやってくると俺の手から小さな紙切れを取り上げた。そしてもう一度その内容に目を通すと、何処か呆れた様子で深い息を吐く。彼がそんな顔をする理由が分からず首を傾げると、王様は何故か俺の頭をわしわしと撫でた。勿論すぐ様振り払って背後に避ける。
「何か分かりました?」
「ーーあぁ。これは少なくとも誘拐ではない。……そうだな、簡単に説明すると、ヘイデル王国に古くから伝わる神々の悪戯とでも言うべきか」
「神々の悪戯?」
首を傾げる俺に「そうだ」と頷き返した王様は、【要求】が書かれた紙片を丁重に胸にしまう。そのままチラリと天井(先の見えない真っ白な空間、と表現した方が正しいかもしれない)を見上げて再び艶やかな唇を動かした。
『神々の悪戯』とは。信心深いヘイデル王国で御伽噺のように伝えられてきたものらしい。というのも、魔法研究所をもってしてもその発動条件や周期等を解明することは叶わず、悠久の謎とされているのだとか。ーーしかし、その中にも分かっていることは少しだけある。
まず、『必ず言語を介する生物が2匹以上存在する』場所でのみ発動する。しかしこれも、必ずしも2匹でないことや、2匹いても発動しない場合の方が多い事から、確実にそうだとは言えない。次に、『何も無い真っ白な空間に転送されるか、願えばなんでも出てくる寝具だけが置かれた空間に転送されるかの2通りである』という事。これも特に法則性はないらしい。
そして、最後。
呟いた王様が苦々しげな表情を浮べるものだから、胡散臭げな顔を隠しもせずに聞いていた俺も思わず表情を引き締めた。
「……若者の言葉を借りて言うのならば、イイ感じの関係性にある者が、この空間に閉じ込められるのだと」
「……は?」
空間に閉じ込められた者は、その部屋に『必ず提示されているお題』に応えなければ、一生涯出ることは叶わない。それだけならばまだなんとかなるのだがーー何故か、そのお題の大概全てが相対した者の好意を試すものであるらしい。何とも巫山戯たその説明に益々不愉快げに顔を歪める。一体誰が、誰に好意があるですって?
チィッ!と隠すことなく高らかに舌打ちを噛ませば、王様は気まずげに俺から目を逸らした。
まぁつまり、俺達はとんだ不愉快な神の勘違いにより、所謂仮想空間とも言えるこの場に転送されたという訳か。そうひとりでに理解を進めて小さく頷く。王様はそんな俺の様子を静かに見つめていたが、特に何も言うことは無かった。
その後も細々と続いた王様の説明によると、『お題を解決しなければ、どんな手を持ってしても空間が開けることはない』らしい。ならば、さっさと応えて出てしまえばいいだけだ。
「ならばさっさと解決してしまいましょう。お題、なんでしたっけ」
「……【お互いの好ましいと思う点を5つ、述べて下さい】だな」
「成程。神は俺に死ねと仰っているようですね」
ねぇよ。5つも。暗にそう宣言してやると、王様は心なし落ち込んだように肩を落とした。それに何となく気分が少しだけ上昇して、俺はくすくすと笑う。自分の発言に感情を揺らす王を見るのは良い気分だ。
とはいえこれ以上この何も無い空間で王様と2人っきりというのも……そっちの方が嫌だな。瞬時に『敵に好意を伝える事』と『敵とずっと2人っきりで話すこと』を天秤にかけ、即座に前者をとった俺は真っ直ぐに王様の瞳を見つめた。
ーーどうせ、適当に嘘を吐いた所で神にはバレバレだ。ならば、さっさと終わらせてしまうに限る。
耳の穴かっぽじってよく聞けよ、なんてアリアが聞いたら「下品ですよ、隊長」と叱責するであろう事を考えながら、口を開く。
「ヘイデル国王としての責任を強く理解し、正しく在ろうと努力する姿は尊敬しております」
「!……そうか、」
「国民の意見を幅広く取り入れ、変化を恐れぬ強さも。あとは…………知識がいっぱいあるところ……と、」
「急に適当になったな」
仕方ないだろう。俺は王としての貴殿にしか関心がないんだから。王としての貴殿は尊敬しているが、人としての貴殿は全く尊敬していない。ただのヤバい奴だ。
くそ、最初の2つをもう少し細分化して5つに分けるべきだったか。うんうんと唸り虚空に視線をやりながら、精一杯頭を回転させてあと2つを捻りだそうと試みるも、中々出て来てくれない。そんな俺を黙ったまま見つめていた王様が、少しだけ落ち込んだように肩を落とすのが視界の端に映った。
あと2つ、あと2つ。俺はもう一度じ、と王様の全身をくまなく凝視して、彼の好ましい所を捜索する。
「…………あ、容姿は好みです」
「ほう。顔か」
「は?自惚れないで頂けます?確かに美しい容姿を持っていらっしゃるとは思いますが、俺が言っているのは体型です」
毎日サボる事なく鍛錬しているのだろう。休んだ証が1つも見られない均衡の取れた美しい体躯は騎士たる俺をも魅了してやまない理想の身体だ。素直に認めよう。だって、あのナヨンですら、「ヘイデル国王って完璧ですよねー身体。鍛え上げられてるって言うか……」と賞賛していた過去があるし。ちなみに現在、彼は王様を嫌悪の対象に認定したのでその過去は彼の中では無かったことになっている。
兎にも角にも、騎士をも唸らせる王様の身体は「好ましいと思う点」に論っても許されるだろう。自信満々に背筋を伸ばしてそう言う俺に、王様は何か言いたげにーーしかし特に何も口にすることなく渋々頷いた。
男性の顔の好みに関しては、俺は父上の顔が一等好きだ。優しくて、格好良くて、知的な。女性なら母上。
「魔法特化の俺からすると、その筋肉質な身体は羨望の対象ですね。羨ましい」
「十分付いてるだろう。お前も」
「もっとムキムキになりたいです」
「…………想像したくないな」
なんだと。いや、ここは1度置いておこう。
「………………あと1つ」
「捻りだせ。帰りたいのならな」
「……」
「……」
………………。
どうしよう。本当に出てこない。終いには真っ青になって口元を抑え蹲ってしまった俺を、王様はただ無表情で見つめている。しかしその瞳には何処か物悲しさが宿っていて。別に俺は悪くない筈なのに(悪いのは俺達をイイ感じだと勘違いした神だ)チクチクと罪悪感を刺激されてしまって、思わず視線を逸らした。
そもそも、言葉を交わしてまもない相手に「好ましい」と感じる点などそう多くあるものか。勿論外交の場では姿を見る事はあったが、一介の騎士である俺が国王と対話する機会は本来あるはずも無く。遠目でーーあるいは書類で彼の同行を観察した程度だ。
そんな浅い間柄の人相手に好意を語るのは、寧ろ失礼に値するのではないだろうか。ねぇ、そう思うでしょう。
そんな気持ちを込めて、王様を見上げる。
「選手交代でお願いいたします」
「ほう。良いのか?」
「どうぞどうぞ?俺の葛藤が分かる筈ですよ。敵国の騎士程度の好ましいと思う所をあげるなんて無理難題ーー」
「一つ。己の王の為ならば敵国の王の前に立つ事も恐れぬその強靭な精神。一つ。部下と共に毎日欠かさず訓練に励み、その傍らで情報収集も怠らない勤勉さ。一つ。直情的な一面も備えながらも、一方で俯瞰的に物事を観察し動ける冷静さ。一つ。優れた容姿を持っている事を自覚し、それを有効活用できる狡猾さ」
「……あはは~、」
やっべ。
いつか、あまりに王様にされた事に腹が立って、ヘイデル王国騎士を篭絡して適当な嘘をまことしやかに吹き込み、情報撹乱を起こさせて城内一騒がせ事件を起こしたことがあるのだが。この感じだと犯人が俺だってバレてるな。だってムカついたんだもの。
ニコッと持ち前の「優れた容姿」で誤魔化す。王様も特には咎めるつもりもなかったようで、未だ蹲ったままの俺の髪を乱暴に掻き混ぜ、言葉を紡いでいく。
「一つ。存分に魔法を使って暴れ回っている時の本能的な笑顔が好ましい。空を眺めている時の儚さも、本を読んでいる時の静けさも、菓子を眺めている時の愛らしさも。ーーお前の表情全てを知りたくなる」
何処までも真っ直ぐ、嘘1つないと言い聞かせるような金色に、息を呑む。一見冷涼なそれは、しかしその後ろでゆらゆらと熱く煌めいていて。
そんな簡単に5つあげられても、困る。何処までも真摯な瞳に熱せられたのか温度の挙がった頬を両手で抑え、俯く。すると直ぐに上からクツクツと低い笑い声が聞こえてくるのだから、腹立たしい。
あぁもう。なんなんだ。そんなにスラスラとあげられてしまっては、いまいち出てこない俺が悪いみたいじゃないか。何故か此方をドヤ顔で見下ろしている王様を睨みあげれば、彼は穏やかに目を細めた。大人の余裕とでも言いたいのか?
くそ、さっさと冷えろ俺の身体。
「…………なんです、それ。口説き文句みたいな……」
「口説いているからな。私の隣に立て、と」
「はっ、誰が」
「上げればキリがないからな。次はお前の番だぞ。レーネ」
うるせぇ分かってんだよそんな事は。
とはいえ思考すればするほど、頭の中に浮かんでくるのは目の前の男への文句やら皮肉やらで。到底称賛とは程遠いそれらに、俺も知らず遠い目になってしまう。
『神々の悪戯』が本当なのだとすれば、嘘は意味が無い。し、そもそも吐きたくない。風だって神に近いものなのだから。しかし、あと1つ何かを上げなければ俺達は此処から出ることは叶わないのだ。
つまり、俺が、王様の足を引っ張っている。
そこまで考えて、俺はギチリと歯を食い縛った。ーーこの俺が足でまといになるなんて事が赦されていい訳がない。俺はスクリと姿勢よく立ち上がり、空間の隅っこに立った。
「思い付いたか?」
「…………」
「そこまで迷われると、少しばかり心にくるな」
思ってもないことを。
俺なんてどうせ替わりなのに、よくもそう、いけしゃあしゃあと戯言を口に出せるものだ。知らず嘲笑を漏らしてしまい、慌てて「失礼」と口元を手で隠す。胡乱気な視線を寄越されたが無視した。
確かに一国の王ーーそれも、国民に慕われ愛される賢王と名高い彼に、己を評価してもらえているという事実は名誉な事だ。しかしそれが、戦争中の敵国の王となれば。
……人間というものは愚かな生き物だ。浅はかにも王である彼の言葉を心の奥底で我が王に置き換え、仄暗い悦びを感じているのだから。
部屋の隅に立って見てみると、また真白の部屋は趣が違って見える。俺はもう一度壁や床にじっとりと視線を走らせ、出口にあたる場所がないか確認した。まぁ、無駄だったが。
「レーネ」
これ以上こんな場所で時間を取られたくないんだろう。公務があるからな。念押しするような王様の声にそんなひねくれた感情が湧き上がってきて、目を瞑る。これじゃ、まるで聞き分けのない子どもだ。
深く、深く、深呼吸をする。
「…………お、俺を、認めて下さる所は、嫌いじゃないです……」
その後、出現した扉から脱兎の如き速度で逃げ出した俺は、王様がその時どんな顔で何を思っていたのかは知らない。
「…………つまり、【俺を好きな所が好き】という事か」
「陛下、あまり揶揄っては怒られますよ」
「顔を真っ赤にして瞳を揺らめかせるものだから、誘われているのかと思った」
「陛下」
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