捨てられ姫と偏屈魔法士

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1. 出会い

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 歴史ある大国として世界に名声を轟かせ続ける『ヴィルトゥエル王国』。
 世界中の国の中で3番目に広い国土を有しているにもかかわらず、建国当初から1度も領土を占領された事がない強国である。一説には、領土の中心に位置する王都『デルタ』には、国境の細部までをも見通す事が出来る不思議な魔法具があるのだとか。

 国境の果てまで行き届いた警備体制は国内の犯罪因子をも見逃さず、ヴィルトゥエル王国はとしても名高い。
 現に、国境の果ての果てーーの超絶ど田舎の村『ミカニ村』にも、未だかつて魔獣や敵国の騎士が襲って来たことは1度もない。定期的に国境警備隊の騎士達が見廻りに訪れては村に異変がないか、それはそれは丁寧に調査してくれるのだ。
 そのか、ミカニ村に住む大人達は平和ボケ仕切っているのだが。

 
 レイーー俺は、そんなミカニ村の一村人として生を受けた12歳の男だ。村人の中で唯一『魔法』を使う事が出来るという特徴以外は、別段何も持たぬ男。
 この国では珍しくもなんともない亜麻色の髪に柳色の瞳。容姿も普通。神父様に「君は色素が薄いから陽の光に当たり過ぎないように」と忠告されたくらいのものだ。別に日に当たっても肌が痛くなったり目眩頭痛がしたりして、ただしんどいだけ。死ぬとかではない。

 しかし、俺にはたった一つのーー村人に言わせれば「大それた」夢がある。
 国民のうち、魔力を持つ者魔法士のみが就くことが出来る職である『魔法技師』になる事。それが、俺の夢。魔法士の中でも取り分け優秀でなければならない。

 だからこそ、俺は毎日毎日毎日毎日毎日毎日、ただひたすら村の教会に通い蔵書を読み、魔法の知識を得る事に執着した。しかし、そんな俺を周囲の人々が許すはずもなく。俺は物心つくころには孤立し、ただ1人の友人も出来ないまま成長することとなった。
 まぁ、別に友人など必要ない。魔法士でもなんでもない奴らなんて、交流を深めるだけ時間の無駄。


「レイの奴、親の手伝いもせずまた教会に向かってやがる」
(手伝いなんて、兄が3人弟が2人に姉が2人いて、俺が何を手伝うって言うんだ。家に居たって鬱陶しそうな顔をされるだけなのに。)

「とんだ親不孝者だよ。大体こんな田舎村の人間がどうやって魔法技師様になるってんだい?」
(そうさ。だからこんな田舎村、今に出ていってやる。旅に出て王都を目差して、15になる迄に王都に着いて学園に入るんだ。)

「子どもは夢を見るものだとは思うがね、いい加減12にもなって……あんな男に誰が嫁ぐんだ?」
(嫁ぐ?こっちから願い下げた。こんな、魔法士を認めない古臭い村、俺の方から捨ててやる。)


 今日も今日とて教会への道を大きな本数冊抱えて走る俺を眺め、ボソボソと陰口を叩く村人に心の中で言い返す。最早癖になってしまったコレのせいで、俺の性格は随分歪んだと思う。
 村での俺のあだ名は『偏屈魔法士』。喧嘩をふっかけられる度に弁論で追い詰めてやったら付いた。

 とはいえ、概ね村人の言う事も常識に当てはめれば正しい事ではあるので、直接言われない限りは自分から食ってかかるような真似はしない。「出る杭は打たれる」のだ。いつの世も。


「おい偏屈魔法士!ちっとは手伝わんか!」
「てめえはそもそも家族でもなんでもねぇだろうがオッサン!息子に手伝ってもらえ!」
「息子は居酒屋行っちまったよ!」
「クソ野郎じゃねぇかそっち先更生させろ!」
「出来たらやってるわい!!!」


 ーーこういう場合を除き。


 勿論旅に出るだけの金銭は一切無いので、13の生誕日を迎えた夜、着の身着のままミカニ村を飛び出すつもりだ。
 この辺りは魔獣も多く(村自体は警備隊の結界で護られてはいるけれど。)危険な為、都会を目指す行商や旅人の護衛をして、その日の金を稼ぐ算段である。引く手数多の田舎でギルドから傭兵を雇おうとするとかなりの金が取られてしまう為、俺のような無所属の護衛はきっと需要がある。

 そして俺は、この辺で湧くような魔獣に遅れを取る程弱くない。時折来る国境警備隊の騎士達にも「やるじゃん餓鬼」「田舎村じゃなきゃなぁ」と認めてもらった。というか少なくとも奴らよりは強い。
 
 ああやってこうやってーーーー、と王都に行く算段を立てながら教会に向かっていると。


「……ん?」


 俺の臍程の高さまで育った草がびっしり生えている草原。その一部が、不自然に窪んでいるのが見えた。子どもたちが遊んでいるのだろうかと考えたが、直ぐに打ち消す。だって子どもの声がしない。
 俺は立ち止まり、じっと窪みを見つめる。しかしいくら目を凝らしても見通しが悪く窪みの中に何があるのかまでは見えず、首を傾げた。

 見に行ってみようか。それとも、大人を連れてきた方が良いだろうか。

 いいや。万が一のことがあっても、平和ボケした村の大人たちが使い物になるとは到底思えない。そもそも大人たちが俺の為に駆けつけてくるわけがなかった。
 俺は本を片手に抱えなおし、足音を立てないよう気を配りながら草むらに足を踏み入れていく。もしナニカに襲い掛かられた時の為に、左手人差し指を真っ直ぐに伸ばして。


「………女?」


 草むらをかき分けて進むことおよそ20歩。

 窪みの中に、草花を押しつぶすようにして眠っている真っ白な髪の傷だらけの少女を見下ろし、俺は呆然と呟いた。



 


 


 
 
 
 
 
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