うさぎな日々

ウサギテイマーTK

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ウサギ沼は存在する

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 長年一緒に暮らしたウサギが、天寿を全うした。享年(?)12歳。ウサギとしては長命だったと思う。

 そのウサギ、見た目は、絵本から抜け出たような、可愛らしさであふれていた。
 小型のネザーランドドワーフ。ピーターラビットのモデルとなった種だという。
 
 しかし、懐かなかった。

 そもそも、猫や犬と違い、捕食されやすい草食の生き物は、飼い主への依存が低いそうだ。

 機嫌が良いと、ナデナデはさせてくれる。
 短時間だけだ。
 ナデられることに飽きると、「今日のウサギ営業は終了しました」みたいに、ぴょーんと去る。

 抱っこは絶対ダメだった。無理に抱こうとすると、思いきり蹴られた。

 最期の時、抱っこ嫌いのウサギが、静かに私の胸の中にいた。
 私の心音を聞きながら、自らの鼓動を止めた。

 もう、ウサギは飼えないだろう。
 そう思った。

 日本や世界が様々な脅威にさらされている中、たかだかペットが老衰で死んだだけ。
 落ち込んでいる暇はない。もっとやるべきことがあるだろう。

 他人に指摘されると、きっと腹立たしいので、自身にそう言い続けた。

 それでも帰宅すると、つい空っぽのケージを覗いてしまう。
 弔いの後もしばらくは、ケージやエサ入れを片付けられずにいたのだ。


 ひょんなことから、再度ウサギを引き取ることになった。
 生後一ヶ月の、子ウサギである。
 決意するまで、だいぶ迷った。
 
――新しいウサギさん、お迎えして良いかな?

 お月様に向かって聞いてみた。

 答えは、特になかった。



 さて、昔々のお話である。

 山に、ウサギとキツネとサルがおったとさ。
 ある時、見すぼらしい、欠食爺さんが迷い込んだ。

「なんか、食べ物おくれ」

 高齢者には優しくしようと頑張って、この三匹、爺さんのために食べ物を集めた。
 サルは木の実を、キツネは魚をとってきたんだが、草食動物のウサギに捕食機能はない。
 よって食べ物を集めることが出来なかった。

 ウサギ悩む。ちっこい脳で悩む。

 ウサギの結論。
 
 「わたしを食べてね、うふ」

 と、火の中に大ジャーンプ!
 
 実は、その爺さん、三匹を試そうとした帝釈天(たいしゃくてん)という神様でごじゃった。
 帝釈天は、そんなウサギを哀れんで、月に甦らせたそうな。
 
 …………

 なんだ、この逸話。

 神様仏様ならば、ウサギが火に飛び込む前に、止めろよ救ってやれよ……

 などと月を眺めた、ウサギテイマーTKは考えた。
 飼っていたウサギが、お月様に帰っちゃったあとのこと。
 仏教小話なんぞ、読まなきゃ良かったよ。

 こうなったら、もう一回、ウサギを手に入れるぞ。
 ウサギテイマー(見習い)舐めんな。
 
「パート1 ウサギテイマー(見習い)、公園に行く」

 手に入れやすさ ☆
 コスト     ☆

 ペットの葬儀屋さんが、教えてくれた。
 県内の大きな公園で、ウサギを二回、拾ったそうだ。

 そうか! 公園に行こう!

 行ってみた。
 公園は広かった。

 猫がいた。
 ノラさんらしい。

「どっかでウサギ、落ちてませんか?」

 猫さんは、「ケッ」と言わんばかりに、顔を洗って去った。

 犬を散歩させている女性がいた。

「この辺で、ウサギが落ちているって聞いたんですが」

 女性は、訝しんだ目付きで立ち去った。
 一緒にいた犬に吠えられた。

 カサカサと木の根元から音がした。
 もしや! と思って見て見ると……

 リスがいた。
 いや、リスの方がレアじゃないか? リス公園じゃないし。
 リスも、可愛いけどね。

「リスさん、リスさん、ウサギさんを知りませんか?」

 リスは疾風の如く、木々の中に消えた。

 結局、ぐるぐると公園を三回廻ってみたが、ウサギのウの字も見当たらなかった。
 蚊にたくさん刺されたので、公園で拾うのは諦めた。


「パート2 ウサギテイマー(見習い)ペットショップに行く」

 手にいれやすさ ☆☆☆☆☆
 コスト     ☆☆☆~

 公園でウサギを拾うことを諦めた、ウサギテイマー(見習い)TKは、ペットショップに向かった。
 子ウサギがわらわら、キュルンとした瞳で跳ねていた。

 可愛い。
 確かに可愛い。
 しかし……

 お値段が可愛くない!

 六桁の値段のウサギって、何それ。
 かっ……可愛いけど。

 お店の隅に、一万円もしない値札のウサギがいた。
 他のウサギより、少し大きい。

 ああ
 売れ残りかあ……なんか親近感わくな。
 大きいけど、愛らしいなあ。大きい方が安心だしなあ。
 どうしようかなあ。

 悩んでいるうちに、あとから来た上品なご婦人が、そのウサギさんをさらりと購入された。
 うん、きっと、あのご婦人にご縁があったんだろうな(涙

 「パート3 ウサギテイマー(見習い)口コミに頼る」

 手にいれやすさ ☆☆☆
 コスト     ☆

 ウサギテイマー(見習い)TKが、再びまた再びの、引きこもりになったのでは、と心配した友人から、ウサギの里親探しをしている女神様がいると、連絡が来た。
 ちなみにその友人、近くの小学校で、繁殖し過ぎたウサギを貰って育てていた。
 
「あなたが探しているのは、金のウサギですか? 銀のウサギですか?」
 里親の女神様から質問された。

「哺乳鋼のウサギ目ウサギ科のウサギです!」

 ウサギテイマー(見習い)TK、一匹のウサギ、げっと!!
 しかし見習いゆえ、いまだテイム出来ず。

 今宵、住んでいる地域は月が綺麗だ。
 仏教小話には続きがあった。

 帝釈天様は、炎に身を投じたウサギを、生き返らせてもいたのだと。




  
 子ウサギがやってきた。

 生活空間が、色彩を取り戻したように感じた。同時に、慌ただしくもなった。

 どこでも跳ねる(ウサギだし
 何でも齧る(ウサギだし
 一気に走りだす(時速八十キロ相当だし

 ウサギ飼いのリスクマネジメントは、結構大変だ。

 子ウサギは好奇心が強く、物怖じしない。

 ナデナデをねだって、私の掌に頭をつけてくる。
 私の膝の上に、自分から乗ってくる。

 結果。
 まだ子ウサギの爪切りをしていないので、私の腕と足は傷だらけとなった。

 現在、手首には三本の引っかき傷。
 見ようによっては、自分で自分を傷つけたかのようだ。くっきりとした赤い線が並んでいる。

「これは違うんです! ペットに引っかかれて」
「あら、猫ちゃんですか?」
「いいえ、ウサギです」

 周囲の人たちに、なぜか言い訳をしている、今日この頃である。

 お月様に帰ったウサギを、忘れたわけではない。
 忘れることは、多分ない。
 忘れられないから、新しい生命を引き受けた。

 身近に守るべき存在がいる方が、何事にも真っ当に取り組んで、人の道を踏み外すことなく、生きていける。そう思う。
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