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新婚夫婦に忍び寄る
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◇新婚生活◇
イリオスは七日ほど、休暇を取っていた。
「本当なら、結婚休暇は一ヶ月くらい取れるけどね」
イリオスは、ベッドの中でミーナスを抱きしめながら言う。
元々色白のミーナスだが、ここ数日で肌の透明感がいや増した。
腰のラインの艶めかしさは、イリオスはつい釘付けになる。
初夜の翌日から、イリオスはミーナスに向ける眼差しが優しくなった。
ベッドの中でも、ミーナスの体を気遣っているのが分かる。
彼のぎこちなさに、くすぐったい思いをするミーナスだった。
ミーナスは朝夕の食事を、イリオスと共に摂るようになる。
無口な男性かと思っていたが、イリオスは少しずつ話をしてくれるようになる。
人見知りなのであろう。
聖女として職務を遂行していた時は、とにかく時間に追われていた。
移動中や立ったままで、堅いパンを無理やり飲み込んだ。
邸の使用人たちは、皆礼儀正しく、彼女をイリオスの妻として尊重してくれる。
温かい食事と、食後のお茶を用意して貰える幸せを、ミーナスは噛みしめていた。
「何か、したいことはあるか?」
「あ、その、御守りを……作ってよろしいでしょうか」
「構わないが、御守りって……」
「だ、旦那様の、ご無事を祈って……」
騎士たちは、ゲン担ぎで剣の鍔や鞘に小さな御守りを付けていることが多い。
神殿でも売っていたことをイリオスは思い出す。
「ええ、神殿での御守り作りは、聖女の仕事の一つでした」
聖女らは、加護の宝玉の色と御印を描いたり、刺繍したりした物を売っていた。
売り上げの一部は小遣いになるので、自分の名を入れたりする者もいた。
「そうか。では、一つ、お願いする」
休暇とはいえ、イリオスは剣の手入れや剣技の訓練を欠かさず行い、自室で机に向かって何かの仕事をしている。
ミーナスは使用人に教わりながら、簡単な家事を手伝ったり、イリオスのための御守り作りをしたりする。
ミーナスには、こんなおだやかな時間が新鮮であり、嬉しい。
神殿にいた時よりも、祈りが深くなった。
聖女の肩書を外したが、女神キニージュの息吹はより強く感じられる。
この生活を守りたいと思う。
居場所を与えてくれた、夫イリオスの心身を、守りたいのだ。
醜聞にまみれたミーナスを受け入れてくれた、邸の皆も大切だ。
おそらく、あの人たちは、もう一度ミーナスに牙を向ける。
そろそろ神殿には、綻びが出る頃だから。
そうなったら、イリオスにも必ず飛び火する。
自分だけなら良い。
彼が傷つくのは嫌だ。
ミーナスは、持参してきた裁縫道具と、祈りを乗せやすい天然の石を出し、御守りを作成した。選んだ石は七色。 本来、女神が与えるすべての宝玉の色である。
「そろそろ、休まないか。夜も更けてきた」
自室で一心不乱に御守りを作っていると、イリオスがやって来た。
頬を紅く染め、ミーナスは頷く。
結び合う指先は、朝まで離さなくなった。
ミーナスが夫のための御守りを仕上げる頃、神殿と王宮に、何かが蠢き始めた。
◇王都◇
ミーナスが結婚式を挙げる、少し前のことだ。
聖女三人が口論をしていた。
「祈祷は順番だって決めたじゃない! ニコル」
「だって、あなたの加護の方が、祈祷向きだもの、ルリアナ」
「もう、止めてよ二人とも! そうじゃなくても仕事が増えて大変なのよ」
「「うるさい! モアン」」
ミーナスがいた頃は、祈祷は彼女の担当だった。
誰よりも深く強く祈ることが出来るミーナスは、文句も言わず従っていた。
ニコル、ルリアナ、モアンの三人は、基本的には神殿に祈祷を申し込む人に、笑顔とお茶出しの対応しかしていない。
三人が騒いでいると、背後から神官が咳払いをする。
「祈祷は、三人でやりなさい」
あからさまに不満を表出する三人の聖女。
「お前たち三人合わせても、祈願力はミーナス一人の、一割にもならん」
最近、王都の神殿でご祈祷を頼んでも、全く効果がないと囁かれている。
そして同時に、小声で広がる噂がある。
「聖女を降りたミーナス様は、本当は強引に辞めさせられたのだ」
「あの方を妬んだ、他の聖女の仕業だ」
「女神様は厳しいぞ。キニージュ様は、不正を許さぬ」
神殿への噂は、当然王宮にも伝わっていた。
何よりも噂の信憑性を増したのは、王族の度重なる不幸である。
国王が再び寝込んでしまったし、立太子の儀の際シャンデリアが落ちて、複数のケガ人が出た。
それらを目の当たりにした第二王子は、ガクガク震えながら家臣に言う。
「の、呪いだ! ミーナスが王家に呪いをかけたのだ!」
神経衰弱状態の第二王子に呼ばれ、王家御用達の医者が呼ばれる。
「殿下、お薬を用意しました」
それは単なる睡眠薬だった。
だが、服用した第二王子は、直後に吐血した。
「ど、毒……」
家臣がすぐに解毒剤を渡し、第二王子は一命を取りとめたが、王族に毒を盛った疑いで、医者は拘束され、王族への危害を加えた者への刑罰、即ち死刑となる。
その医者は、元は国王直属だった。ミーナス排除のために、ひと役買った人物である。
神殿と王宮には淀んだ空気が漂い、冷たい雨が降り続く。
王都は活気を失い、王家直属の領地では、ほとんどの作物が腐っていった。
「もう一度、もう一度だけ、ミーナスを、真の聖女を呼べ!」
病床で咳き込む国王が、宰相を呼びつけて命令したのは、ミーナスが結婚して半年後のことだった。
同時期に、神殿の神官長は、ある疑惑と仮説を基に、神殿の過去の歴史文書をひも解いていた。
もしも……。
もしも彼の仮説が正しいのであれば、とんでもないことをしてしまっている。
この国は、ロガリア王国は滅んでしまう!
イリオスは七日ほど、休暇を取っていた。
「本当なら、結婚休暇は一ヶ月くらい取れるけどね」
イリオスは、ベッドの中でミーナスを抱きしめながら言う。
元々色白のミーナスだが、ここ数日で肌の透明感がいや増した。
腰のラインの艶めかしさは、イリオスはつい釘付けになる。
初夜の翌日から、イリオスはミーナスに向ける眼差しが優しくなった。
ベッドの中でも、ミーナスの体を気遣っているのが分かる。
彼のぎこちなさに、くすぐったい思いをするミーナスだった。
ミーナスは朝夕の食事を、イリオスと共に摂るようになる。
無口な男性かと思っていたが、イリオスは少しずつ話をしてくれるようになる。
人見知りなのであろう。
聖女として職務を遂行していた時は、とにかく時間に追われていた。
移動中や立ったままで、堅いパンを無理やり飲み込んだ。
邸の使用人たちは、皆礼儀正しく、彼女をイリオスの妻として尊重してくれる。
温かい食事と、食後のお茶を用意して貰える幸せを、ミーナスは噛みしめていた。
「何か、したいことはあるか?」
「あ、その、御守りを……作ってよろしいでしょうか」
「構わないが、御守りって……」
「だ、旦那様の、ご無事を祈って……」
騎士たちは、ゲン担ぎで剣の鍔や鞘に小さな御守りを付けていることが多い。
神殿でも売っていたことをイリオスは思い出す。
「ええ、神殿での御守り作りは、聖女の仕事の一つでした」
聖女らは、加護の宝玉の色と御印を描いたり、刺繍したりした物を売っていた。
売り上げの一部は小遣いになるので、自分の名を入れたりする者もいた。
「そうか。では、一つ、お願いする」
休暇とはいえ、イリオスは剣の手入れや剣技の訓練を欠かさず行い、自室で机に向かって何かの仕事をしている。
ミーナスは使用人に教わりながら、簡単な家事を手伝ったり、イリオスのための御守り作りをしたりする。
ミーナスには、こんなおだやかな時間が新鮮であり、嬉しい。
神殿にいた時よりも、祈りが深くなった。
聖女の肩書を外したが、女神キニージュの息吹はより強く感じられる。
この生活を守りたいと思う。
居場所を与えてくれた、夫イリオスの心身を、守りたいのだ。
醜聞にまみれたミーナスを受け入れてくれた、邸の皆も大切だ。
おそらく、あの人たちは、もう一度ミーナスに牙を向ける。
そろそろ神殿には、綻びが出る頃だから。
そうなったら、イリオスにも必ず飛び火する。
自分だけなら良い。
彼が傷つくのは嫌だ。
ミーナスは、持参してきた裁縫道具と、祈りを乗せやすい天然の石を出し、御守りを作成した。選んだ石は七色。 本来、女神が与えるすべての宝玉の色である。
「そろそろ、休まないか。夜も更けてきた」
自室で一心不乱に御守りを作っていると、イリオスがやって来た。
頬を紅く染め、ミーナスは頷く。
結び合う指先は、朝まで離さなくなった。
ミーナスが夫のための御守りを仕上げる頃、神殿と王宮に、何かが蠢き始めた。
◇王都◇
ミーナスが結婚式を挙げる、少し前のことだ。
聖女三人が口論をしていた。
「祈祷は順番だって決めたじゃない! ニコル」
「だって、あなたの加護の方が、祈祷向きだもの、ルリアナ」
「もう、止めてよ二人とも! そうじゃなくても仕事が増えて大変なのよ」
「「うるさい! モアン」」
ミーナスがいた頃は、祈祷は彼女の担当だった。
誰よりも深く強く祈ることが出来るミーナスは、文句も言わず従っていた。
ニコル、ルリアナ、モアンの三人は、基本的には神殿に祈祷を申し込む人に、笑顔とお茶出しの対応しかしていない。
三人が騒いでいると、背後から神官が咳払いをする。
「祈祷は、三人でやりなさい」
あからさまに不満を表出する三人の聖女。
「お前たち三人合わせても、祈願力はミーナス一人の、一割にもならん」
最近、王都の神殿でご祈祷を頼んでも、全く効果がないと囁かれている。
そして同時に、小声で広がる噂がある。
「聖女を降りたミーナス様は、本当は強引に辞めさせられたのだ」
「あの方を妬んだ、他の聖女の仕業だ」
「女神様は厳しいぞ。キニージュ様は、不正を許さぬ」
神殿への噂は、当然王宮にも伝わっていた。
何よりも噂の信憑性を増したのは、王族の度重なる不幸である。
国王が再び寝込んでしまったし、立太子の儀の際シャンデリアが落ちて、複数のケガ人が出た。
それらを目の当たりにした第二王子は、ガクガク震えながら家臣に言う。
「の、呪いだ! ミーナスが王家に呪いをかけたのだ!」
神経衰弱状態の第二王子に呼ばれ、王家御用達の医者が呼ばれる。
「殿下、お薬を用意しました」
それは単なる睡眠薬だった。
だが、服用した第二王子は、直後に吐血した。
「ど、毒……」
家臣がすぐに解毒剤を渡し、第二王子は一命を取りとめたが、王族に毒を盛った疑いで、医者は拘束され、王族への危害を加えた者への刑罰、即ち死刑となる。
その医者は、元は国王直属だった。ミーナス排除のために、ひと役買った人物である。
神殿と王宮には淀んだ空気が漂い、冷たい雨が降り続く。
王都は活気を失い、王家直属の領地では、ほとんどの作物が腐っていった。
「もう一度、もう一度だけ、ミーナスを、真の聖女を呼べ!」
病床で咳き込む国王が、宰相を呼びつけて命令したのは、ミーナスが結婚して半年後のことだった。
同時期に、神殿の神官長は、ある疑惑と仮説を基に、神殿の過去の歴史文書をひも解いていた。
もしも……。
もしも彼の仮説が正しいのであれば、とんでもないことをしてしまっている。
この国は、ロガリア王国は滅んでしまう!
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