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三章 養護教諭に大型自動車免許は、ほぼいらない
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対面式の翌日のことである。
朝会後、バタバタと足音をたて、保健室のドアを開ける人影があった。
その足音で分かる。
教頭の中原である。
「加藤先生! また、やらかしましたね!」
またとはなんだ、またとは。
やらかしたって、何だよ。
しかも、断定。
「あらあら教頭先生。そんなに興奮されると、血圧上がりますわよ」
取りなすように、白根澤が微笑む。
学校内の管理職、すなわち、校長、教頭、事務局長というものは、公立でも私立でも、それはそれなりに、大変な仕事なんだろう。
それは分かる。
分かるが、管理職への尊敬や信頼は、彼らの職務の重責に、比例はしない。
全くしない。
というか、加藤は中原を、そもそも相手にしていない。
中原は、
「然らば白根澤先生。不肖この中原が倒れたら、原因は加藤だったと、弔辞で宣言してくだされ!」
いやこの位で死ぬなよ、教頭。
更に、呼び捨てか!
教員同士の呼び捨てはパワハラって研修、この前受けてたろう。
中原は首から上を赤く染め、大きくため息をつく。
彼の頭部は、酸性雨で瀕死状態になった、針葉樹林のようだ。
「我が校の新入生合宿は、歴史と伝統に裏打ちされた、素晴らしい行事の一つです」
「ええ、そうですわね」
「ただし近年は、生徒の状況に応じて、強制ではなく選択参加にしております」
「参加するのが難しい、疾患や症状もありますものね」
「今年、新入生の一人が、合宿不参加届をだしており、診断書も付いていたので、欠席やむなしと判断したのです」
「あら、そうだったのですか」
中原は加藤の両肩を掴み、揺さぶりながら唾を飛ばす。
「ところが今朝、その生徒の保護者から、やっぱり参加したいという連絡があったのだ!」
頭をガクガクされながら、加藤は教頭に言う。
「いいじゃないですか、その方が」
「良くない! 良くないんだ加藤!」
中原は更に声を荒げた。
「先方の参加条件が、加藤、お前が帯同することって言うんだぞ!!」
とうとう『お前』呼ばわりときたもんだ。
「俺が帯同? 保護者が希望するんなら、行きますよ。出張費出るし」
「それが一番困るんじゃないかあああ!」
一昨年、新入生合宿に、赴任したばかりの加藤が帯同した。
まあ、だいたいどこの学校でも、養護教諭が付いていくのだが。
合宿では、健康指導も行うという、スケジュールが組まれていた。
「普通は、『早寝早起き朝ごはん』みたいな指導をするんだよ、そういう時は!」
加藤は、生徒にそれぞれ、ゲームやトランプ、将棋などを好きなだけやらせ、一緒に行った教員に、大ヒンシュクを買った。
生徒らは、大いに喜んでいたが。
「いや、あれは、脳疲労測定を同時に行って、脳疲労を一番起こすのはゲームだよって生徒に理解させた、立派な健康指導でしたが、何か? ちなみに疲労測定装置は、俺、自前で用意しましたし」
「そういう問題じゃ、ないんだあああ!」
以後、加藤が宿泊を伴う学校の行事に、帯同することはなくなった。
「教頭センセ。その、なんで、加藤先生帯同が、条件なのかしら?」
「昨日、面倒みてもらって、安心したそうです」
少し冷静になった中原は白根澤に言う。
「ああ、その生徒って、音なんとか君、ね」
ムッとした表情のまま、中原は加藤に伝えた。
「条件がもう一つある。自宅のベッドを合宿場所に、持ち込みたい、そうだ」
「自宅のベッド以外で寝ると、死んじゃうそうですからねえ。ふうん、自宅のベッド、持ち込みね」
「まったく、前代未聞のワガママだよ。これだから、シングル家庭は……」
加藤の糸目が、僅かに開く。
そして中原に、冷ややかな視線をぶつける。
「なんだって? 教頭。今、なんつった?」
学校という組織に、古カビのように貼りついている、偏見意識。
「全国百四十二万の、ひとり親家庭に謝れ!」
加藤の怒気を含んだ声に、中原の体は縮む。
あああ、アホ教頭。
せいちゃんのスイッチ押しちゃった、と白根澤は胸で呟く。
「わかったよ、教頭。俺が帯同するし、ベッドも運んでやる!」
「ええっ? せいちゃん、ベッド運ぶってどうするの? まさか担いで合宿所まで?」
「ふふふ、俺は大型自動車免許持ちだ。ベッドの一つや二つ、軽く運べるさ」
白根澤は、思う。
学校の養護教諭に、大型自動車免許は、ほぼいらない。
朝会後、バタバタと足音をたて、保健室のドアを開ける人影があった。
その足音で分かる。
教頭の中原である。
「加藤先生! また、やらかしましたね!」
またとはなんだ、またとは。
やらかしたって、何だよ。
しかも、断定。
「あらあら教頭先生。そんなに興奮されると、血圧上がりますわよ」
取りなすように、白根澤が微笑む。
学校内の管理職、すなわち、校長、教頭、事務局長というものは、公立でも私立でも、それはそれなりに、大変な仕事なんだろう。
それは分かる。
分かるが、管理職への尊敬や信頼は、彼らの職務の重責に、比例はしない。
全くしない。
というか、加藤は中原を、そもそも相手にしていない。
中原は、
「然らば白根澤先生。不肖この中原が倒れたら、原因は加藤だったと、弔辞で宣言してくだされ!」
いやこの位で死ぬなよ、教頭。
更に、呼び捨てか!
教員同士の呼び捨てはパワハラって研修、この前受けてたろう。
中原は首から上を赤く染め、大きくため息をつく。
彼の頭部は、酸性雨で瀕死状態になった、針葉樹林のようだ。
「我が校の新入生合宿は、歴史と伝統に裏打ちされた、素晴らしい行事の一つです」
「ええ、そうですわね」
「ただし近年は、生徒の状況に応じて、強制ではなく選択参加にしております」
「参加するのが難しい、疾患や症状もありますものね」
「今年、新入生の一人が、合宿不参加届をだしており、診断書も付いていたので、欠席やむなしと判断したのです」
「あら、そうだったのですか」
中原は加藤の両肩を掴み、揺さぶりながら唾を飛ばす。
「ところが今朝、その生徒の保護者から、やっぱり参加したいという連絡があったのだ!」
頭をガクガクされながら、加藤は教頭に言う。
「いいじゃないですか、その方が」
「良くない! 良くないんだ加藤!」
中原は更に声を荒げた。
「先方の参加条件が、加藤、お前が帯同することって言うんだぞ!!」
とうとう『お前』呼ばわりときたもんだ。
「俺が帯同? 保護者が希望するんなら、行きますよ。出張費出るし」
「それが一番困るんじゃないかあああ!」
一昨年、新入生合宿に、赴任したばかりの加藤が帯同した。
まあ、だいたいどこの学校でも、養護教諭が付いていくのだが。
合宿では、健康指導も行うという、スケジュールが組まれていた。
「普通は、『早寝早起き朝ごはん』みたいな指導をするんだよ、そういう時は!」
加藤は、生徒にそれぞれ、ゲームやトランプ、将棋などを好きなだけやらせ、一緒に行った教員に、大ヒンシュクを買った。
生徒らは、大いに喜んでいたが。
「いや、あれは、脳疲労測定を同時に行って、脳疲労を一番起こすのはゲームだよって生徒に理解させた、立派な健康指導でしたが、何か? ちなみに疲労測定装置は、俺、自前で用意しましたし」
「そういう問題じゃ、ないんだあああ!」
以後、加藤が宿泊を伴う学校の行事に、帯同することはなくなった。
「教頭センセ。その、なんで、加藤先生帯同が、条件なのかしら?」
「昨日、面倒みてもらって、安心したそうです」
少し冷静になった中原は白根澤に言う。
「ああ、その生徒って、音なんとか君、ね」
ムッとした表情のまま、中原は加藤に伝えた。
「条件がもう一つある。自宅のベッドを合宿場所に、持ち込みたい、そうだ」
「自宅のベッド以外で寝ると、死んじゃうそうですからねえ。ふうん、自宅のベッド、持ち込みね」
「まったく、前代未聞のワガママだよ。これだから、シングル家庭は……」
加藤の糸目が、僅かに開く。
そして中原に、冷ややかな視線をぶつける。
「なんだって? 教頭。今、なんつった?」
学校という組織に、古カビのように貼りついている、偏見意識。
「全国百四十二万の、ひとり親家庭に謝れ!」
加藤の怒気を含んだ声に、中原の体は縮む。
あああ、アホ教頭。
せいちゃんのスイッチ押しちゃった、と白根澤は胸で呟く。
「わかったよ、教頭。俺が帯同するし、ベッドも運んでやる!」
「ええっ? せいちゃん、ベッド運ぶってどうするの? まさか担いで合宿所まで?」
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