7 / 44
六章 低血圧の人は、朝は無理をしない方がいい
しおりを挟む
合宿二日目の朝、生徒も教員も、五時に起床した。
会館には、バスケのコートが二面取れるくらいの体育館がある。
ジャージに着替えた生徒らは、目をこすりながら体育館へ向かう。
体育担当の玉田が、目が痛くなるほどの真っ黄色なジャージ姿で、朝からデカい声を出している。
マジ、うるさい。
加藤は、ぼさぼさの頭を掻きながら、トレーナー姿で朝の体操に加わった。
そのトレーナーには、炬燵に入った猫のイラストが描いてある。
いかにもやる気が見られない風体だ。
「こらあ、もっと腕を振り上げろ!」
玉田の声が響くと、音竹が、その場にしゃがみ込んだ。
加藤はすぐさま駆け寄る。
起立性調節障害を抱えた生徒に、早朝からの体操なんぞ、ひどい罰ゲームだ。
「ああ、養教さん、甘やかしちゃだめだめ。夕べ騒いでいたから、睡眠不足なんだろ」
「うっさい。脳筋玉!」
「やめろ、その呼び方!」
「ドクターストップだ! 見りゃ分かるだろ」
「お前は保健室の先生であって、医者じゃない!」
「言葉のアヤだ、玉座衛門」
顔を真っ赤にしてツバを飛ばす玉田を完全無視し、加藤は音竹の肩を抱いて、体育館の端に連れて行く。
そのまま二人は床に腰を下ろした。
「朝は、辛い? 頭、痛いか?」
「はい……」
「夕べは眠れた?」
音竹は頷いた。
「先生が、不動明王様を呼んでくれたから」
音竹の白い顔に、桜草の色が浮かんだ。
嘘も方便だな、と加藤は思う。
いや、あながち百パー嘘ではない。
得度したのも、不動明王の真言を、スラスラ唱えることが出来るのも本当だ。
ひょっとしたら、たまにお不動さんが、側に立っているやもしれぬ。
ただし、昨夜、生徒たちが寝付いたのち、加藤は不動明王を呼ぶ代わりに、自分の脳内に蓄積された、情報を読んでいたのだ。
なぜ
音竹は、自宅以外のベッドや布団で寝ることが、出来ないのだろうか。
そもそも、音竹が患っているのは、起立性調節障害だけなのか。
もしも、音竹があの病気であるなら、寝たら楽になるはずだ。
それとも
音竹が、あの病気であることを、周りに知られたくない奴が、いるというのか。
朝食後、保健室代わりに設けられている一室に、加藤は木ノ下を呼び出した。
「先生、ちゃんと音竹君に謝りました!」
加藤は木ノ下の頭を、ぽんと軽く触れる。
「ところで、なんで君は、音竹君に枕を渡したの? 彼は枕も持って来てたでしょ?」
木ノ下は、思い出しながら答える。
「音竹君は、持ってきてた枕を抱きしめていました。最初は普通に寝てましたが、なんだか苦しそうに唸りながら、体を何回か曲げ始めて……」
体を曲げた?
「木ノ下君、ちょっと、音竹君が『苦しそうに体を曲げた』っていうの、今やってくれる?」
わかりましたと言って、木ノ下は畳に横たわり、仰向けになる。
そして首を起点に、背中を湾曲させ、のけぞらせた。
「こうやって、背中と布団に隙間が出来るくらい、ブリッジみたいな動きをしてたんです。それで背中と布団の間に枕を入れたら、真っすぐに眠れるかと思って」
なるほど。
「いろいろあってさ、音竹君、自分のウチから持ってきた布団とか枕しか、使えないんだ」
「はい、聞きました。悪かったなって思いました。もう絶対しません」
加藤はもう一度、木の下の頭をぽんぽんした。
加藤の脳内に、仮説を埋めていくピースが、集まってきた。
その後、合宿は、つつがなく終了した。
バスに揺られた一行が、葛城学園の敷地に戻ったのは、夕暮れの時間であった。
多くの生徒たちの保護者らが、学校まで迎えに来ていた。
音竹の母親の顔も見えた。
音竹母の横には、男性の姿もあった。
会館には、バスケのコートが二面取れるくらいの体育館がある。
ジャージに着替えた生徒らは、目をこすりながら体育館へ向かう。
体育担当の玉田が、目が痛くなるほどの真っ黄色なジャージ姿で、朝からデカい声を出している。
マジ、うるさい。
加藤は、ぼさぼさの頭を掻きながら、トレーナー姿で朝の体操に加わった。
そのトレーナーには、炬燵に入った猫のイラストが描いてある。
いかにもやる気が見られない風体だ。
「こらあ、もっと腕を振り上げろ!」
玉田の声が響くと、音竹が、その場にしゃがみ込んだ。
加藤はすぐさま駆け寄る。
起立性調節障害を抱えた生徒に、早朝からの体操なんぞ、ひどい罰ゲームだ。
「ああ、養教さん、甘やかしちゃだめだめ。夕べ騒いでいたから、睡眠不足なんだろ」
「うっさい。脳筋玉!」
「やめろ、その呼び方!」
「ドクターストップだ! 見りゃ分かるだろ」
「お前は保健室の先生であって、医者じゃない!」
「言葉のアヤだ、玉座衛門」
顔を真っ赤にしてツバを飛ばす玉田を完全無視し、加藤は音竹の肩を抱いて、体育館の端に連れて行く。
そのまま二人は床に腰を下ろした。
「朝は、辛い? 頭、痛いか?」
「はい……」
「夕べは眠れた?」
音竹は頷いた。
「先生が、不動明王様を呼んでくれたから」
音竹の白い顔に、桜草の色が浮かんだ。
嘘も方便だな、と加藤は思う。
いや、あながち百パー嘘ではない。
得度したのも、不動明王の真言を、スラスラ唱えることが出来るのも本当だ。
ひょっとしたら、たまにお不動さんが、側に立っているやもしれぬ。
ただし、昨夜、生徒たちが寝付いたのち、加藤は不動明王を呼ぶ代わりに、自分の脳内に蓄積された、情報を読んでいたのだ。
なぜ
音竹は、自宅以外のベッドや布団で寝ることが、出来ないのだろうか。
そもそも、音竹が患っているのは、起立性調節障害だけなのか。
もしも、音竹があの病気であるなら、寝たら楽になるはずだ。
それとも
音竹が、あの病気であることを、周りに知られたくない奴が、いるというのか。
朝食後、保健室代わりに設けられている一室に、加藤は木ノ下を呼び出した。
「先生、ちゃんと音竹君に謝りました!」
加藤は木ノ下の頭を、ぽんと軽く触れる。
「ところで、なんで君は、音竹君に枕を渡したの? 彼は枕も持って来てたでしょ?」
木ノ下は、思い出しながら答える。
「音竹君は、持ってきてた枕を抱きしめていました。最初は普通に寝てましたが、なんだか苦しそうに唸りながら、体を何回か曲げ始めて……」
体を曲げた?
「木ノ下君、ちょっと、音竹君が『苦しそうに体を曲げた』っていうの、今やってくれる?」
わかりましたと言って、木ノ下は畳に横たわり、仰向けになる。
そして首を起点に、背中を湾曲させ、のけぞらせた。
「こうやって、背中と布団に隙間が出来るくらい、ブリッジみたいな動きをしてたんです。それで背中と布団の間に枕を入れたら、真っすぐに眠れるかと思って」
なるほど。
「いろいろあってさ、音竹君、自分のウチから持ってきた布団とか枕しか、使えないんだ」
「はい、聞きました。悪かったなって思いました。もう絶対しません」
加藤はもう一度、木の下の頭をぽんぽんした。
加藤の脳内に、仮説を埋めていくピースが、集まってきた。
その後、合宿は、つつがなく終了した。
バスに揺られた一行が、葛城学園の敷地に戻ったのは、夕暮れの時間であった。
多くの生徒たちの保護者らが、学校まで迎えに来ていた。
音竹の母親の顔も見えた。
音竹母の横には、男性の姿もあった。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。
この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~
root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。
そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。
すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。
それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。
やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」
美人生徒会長の頼み、断れるわけがない!
でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。
※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。
※他のサイトにも投稿しています。
イラスト:siroma様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる