母は強し! 三途の河原で、鬼と戦うのだ

ウサギテイマーTK

文字の大きさ
2 / 3

鬼と戦ったことある?

しおりを挟む
【トメって、何?】

「ひゃくめおに、させつ、さん?」

 クラス中がドッと沸いた。
 高校の入学直後、担任が呼名した時のことである。

 『百目鬼』を「ひゃくめおに」と読むのは、まあしょうがない。
 だけど、小雪はフツウに「こゆき」と読めばいいじゃないか。

 この後、小雪のあだ名は、一時「ひゃくめ」となった。
 しかし、それも呼び名としては、言いにくかったようで、「とどめき」から「とどめ」に変わり、最終的に「トメ」となった。

 いや、だから「こゆき」呼びじゃだめなの?
「トドよりは良いでしょ」
 そう言われた。

 後々、ネット上で『トメ』とは、意地悪な姑を指すと知り、小雪はげんなりした。
 せめて、息子に嫁が来たら、『オトメさん』と呼ばれるよう、言動を慎もうとも思っていた。
 それなのに……。


「ほら小雪! ぼ――っとしてないで、手を動かす!」

 三途の川の畔で、小雪はハッとした。
 川で洗濯をしているうちに、いつしか回想していた。

 ともかくも、小雪は今、三途の川で洗濯をしている。
 川の水は透明ではないが、濁ってもいない。
 そこで白い布地を洗っているのだが、襟あたりに微弱な汚れが残る。

 プロの洗濯屋としては、少々気に入らない。

「すいません、何か洗剤ありませんか?」

 小雪は老女に訊いた。

「洗剤? ああ、ダメダメ。界面活性剤が川を汚しちゃう。霊界環境に優しくないのよ、アレ」

 霊界も、界面活性剤に影響を受けるのか。

「でも、白い着物が真っ白にならないですよ。せめて灰とか、ないでしょうか」

 老女は小首を傾げる。

「ちょっと待ってな。並んでいる男どもに、聞いてくる」

 老女が向かったのは、先ほど着替えさせた亡者たちが、並んでいる場所だった。
 ざっと見ると、だいたい百人くらいいる。男性が七割ほどだ。
 皆、生気のない顔をしている。

 まあ、死んでいる者たちだから、生気がないのは当たり前か。

 老女が戻ってきて、「ほい」と小雪に投げた。
 ライターだった。

「この辺の枯れ草を、適当に燃やしな。灰くらい出来るだろ」

 確かに。

「ところで、あそこで並んでいる人たちは、これから何をするんですか?」

「見てりゃあ分かるよ。面白いよ、いろいろ」

 老女の科白が終わらないうちに、渡し舟が岸に着いた。
 深々と編み笠を被った船頭が叫ぶ。

「よ――し。全員、川に入れ!」

 ノロノロと、亡者たちは川に入って行く。

 すると。

 着物の裾が水にふれた途端、みるみるうちに、着物の色が変わっていく。
 ある者は赤に、ある者は紫に、ある者は真黒に染め上がっていく。

 全員の着物の色が変わった。

「よ――し! 青と緑と紫に変わった者は、この舟に乗れ! それ以外は待て!」

 着物が青や緑、紫色になった亡者は舟に乗り込んだ。全体の六割くらいだ。
 残った者は、川原に残る。

「あの色の識別は何ですか?」

 小雪が尋ねると、老女は鼻を膨らませる。

「今、舟にのったのは、まあまあな霊界に行く連中さ」
「それじゃあ、残った人は……」

 残った亡者の来ている着物は、血のような赤い色や、闇を思わせる真黒ばかりだ。
 老女は言う。

「推して知るべし!」

 舟はゆっくり、小雪と老女のいる場所を通り過ぎていく。

 いきなり舟から声がした。

「トメ? トメだよね! オトメちゃーん!」

 小雪が声の主を見ると、青く染まった着物の袖から、大きく手を振る一人の女性亡者がいた。
 それは小雪の高校時代の友人。

「邪眼? じゃがんちゃーん!!」

 邪眼……もちろんあだ名である。
 本名は、巌状令子がんじょうれいこ
 高校二年の時に、脳に腫瘍が見つかり、手術を受けた彼女。

「がんじょうなんて、名ばかりよね」

 そう言いながら、令子は額に残った傷を自分で指さした。

「ここにね、『邪眼』が生まれるの」

 入退院を繰り返していた令子のもとに、小雪は令子も好きだった漫画を抱え、しばしば見舞いに行った。すべて、BLだった。

 そうか。
 逝ったのか、邪眼。
 私たちは、もう、そんな年なのか。

「あんた、腐女だったんかい」

 しんみりとした小雪に向かって、老女は言う。
 小雪はギョッとする。
 なんで、そんな単語知ってるんだ、この婆さん。

「大丈夫さ。青い着物になった奴は、結構良い霊界に、行けるから」



【鬼が出た】

 再び洗濯に戻る前に、小雪は川原に生えている、枯れ草を燃やし始めた。
 すると、どこから現れたのか子どもが一人、川原で石を並べている。
 一つ、また一つ、石を積み上げていく。

 辺りは薄ぼんやりとした、夕暮れのようだ。
 舟に乗れず残った者たちも、川原に座りこむ。
 何かのわらべ歌を唄いながら、子どもは石を積み上げる。
 小さな石を集めては、石の上に乗せていく。

 その時である。

 子どもの背丈ほど積まれた石に、金属音が走る。
 子どもが大切に積み上げた石は、ガラガラと崩れた。

 子どもは泣き始める。
 泣き始めた子どもの首を、ひょいと掴む者がいた。

「泣――く――な――!!」

 太くデカい声。
 子どもは「ひいっ」と息を吸い込む。
 小雪も、残された亡者らも、息を呑む。

 そこに、一体、鬼がいた。
 赤黒く焼けた肌に、ギラギラした双眸。
 額の両脇に、牛よりも太い角。
 紛れもなく、鬼である。

「あんまり泣くと、食っちまうぞお!」

 鬼の恫喝は、縮みあがった小雪に、スイッチを入れた。

 彼女の脳裏によみがえる、ある風景。

 あれは、息子の雅史が、小学校の一年か二年の頃だ。

 いつまでたっても帰ってこない雅史を迎えに行ったら、雅史たち小学生が中坊に囲まれていた。
 どうやら遊び場の奪い合いを、しているようだった。

「ここは、ぼくたちの校庭だ!」

 雅史は涙声で、中坊に抗議していた。
 中坊らはにやにや笑いながら、雅史を突き飛ばした。
 その瞬間、小雪は走り出したのだ。

「止めなさ――い!!」

 子どもを川原に投げつけようとした鬼に向かって、小雪は叫んでいた。
 手に持っていた着物で、川原の石を何個か包んで縛る。

 それをぐるぐると大きく振り回して、小雪は鬼に向かって投げつけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お月さまのポケット

ほしみ
絵本
静かな夜。 小さなうさぎのミーミは、まんまるお月さまに出会いました。 お月さまのおなかには、ふしぎなポケット。 そこには、だれかの大切な「なにか」が、やさしくしまわれています。 お月さまとミーミの、小さくてあたたかな夜のお話。 ※単体のお話として完結しています ※連載中の投稿作品「人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―」の作中作の絵本

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

ママのごはんはたべたくない

もちっぱち
絵本
おとこのこが ママのごはん たべたくないきもちを ほんに してみました。 ちょっと、おもしろエピソード よんでみてください。  これをよんだら おやこで   ハッピーに なれるかも? 約3600文字あります。 ゆっくり読んで大体20分以内で 読み終えると思います。 寝かしつけの読み聞かせにぜひどうぞ。 表紙作画:ぽん太郎 様  2023.3.7更新

なんでないてるん?

いもり〜ぬ(いもいもぶーにゃん)
絵本
「あっ!」  そらにくろくも あまぐもちゃん  いそいそいそぐ はっぱうら ぽつっ ぽつり  ぽつっ ぽつり ぽつん ぽっつん ぱちん ぽちん ぱちん ざぁーーーっ… なみだがぼとぼと あまぐもちゃん その様子を見て心配なイモムシちゃん

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

処理中です...