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死せる黒猫(1/3)
しおりを挟むクロミはおばあちゃん猫だ。
私が赤ちゃんの頃からずっといっしょに暮らしてきた、とても賢い黒猫である。
おそらく20年くらい生きていると思うのだが、正確な年齢はわからない。
なぜなら、クロミは迷い猫でいつの間にかうちにいたからだ。
だから誕生日も知らない。
うちに居ついたときには、既に成猫だったそうだから、今いくつなのか不明なのだ。
クロミはいつも朝ごはんを食べた後、庭で日向ぼっこをしている。
陽射しを浴びて気持ちよさそうにしている様子は、まるで大きな黒猫の形をした座布団みたいだった。
そんなとき、私は決まってその背中を撫でるのだ。
するとクロミはゴロゴロと喉を鳴らしながら目を細める。
つやつやの黒い毛皮はとても触り心地がよくて、いつまでも撫でていたくなる。
けれど、あまりしつこくすると怒られてしまう。
クロミの機嫌が悪くなる前に手を離してあげないといけなかった。
時々クロミはおもむろに立ち上がって歩き出す。
そしてチリチリと首輪の鈴を鳴らしながらどこかへ行ってしまうのだ。
どこに行っているのかはよくわからなかった。
夕方になっても戻ってこない日もある。
でもだいたい夜までには帰ってくるのだ。
どこに行って何をしているのか気にはなったけど、猫の行動について詮索するのは良くないことだと思っていた。
だけどある日突然帰ってこなくなってしまった。
家族みんなで近所を探したけれど見つからない。
きっとどこかの物陰に隠れているんだと思って探したけどやっぱりどこにもいない。
心配になって保健所にも連絡したが、それらしい猫は保護されていなかった。
それから数日の間、私は暇を見つけては近所を探し回った。
それでもやっぱりクロミの姿を見つけることはできなかった。
それでも私はクロミがいつ帰ってきてもいいように、ご飯皿にキャットフードを用意し続けた。
しかしいくら待ってもクロミは帰ってこなかった。
私は途方に暮れてしまった。
ある日の夜遅く、ベッドに寝転びながらスマホを見ていた時のことだった。
どこかでチリチリと聞き覚えのある鈴の音が聞こえた気がした。
あれ? と思って起き上がるとまた同じ音が鳴った。
今度はもっとはっきりと聞こえる。
耳を澄ませるとどうやら窓の方から聞こえてくるようだった。
カーテンを開け、二階の窓ガラス越しに外を見る。
月明かりが照らす夜の庭の向こう側、道の電信柱の下に誰かが立っているような影があった。
シルエットだけで誰なのか判別することはできない。
ただ、背丈が小さいように見えた。
子供だろうか? こんな時間にまさか……と思っていると、その影と目が合った。
ゾクリと寒気が走り、心臓が激しく脈打っていた。
それは明らかに人の目ではなかった。
ギラリと光る目は、夜目のきく動物の眼差しだ。
次の瞬間、その影はピョンと塀の上を飛び越えて、家の庭に入ってきた。
私は慌ててカーテンを閉めて後退った。
次の瞬間、バンッと窓ガラスに何かがぶつかったかと思うと、それと同時に部屋の照明が消えた。
私は小さな悲鳴をあげたが、何が起きたのか理解できず混乱していた。
閉めたカーテンで見えなかったが、窓ガラスに今庭に入ってきた何者かがへばりついている気がした。
すると今度はカチャリと窓の鍵が開けられる音がした。
どうやって!?
私は怖くて動けず、ただじっとしていることしかできなかった。
やがて窓がカラカラと音をたてて開き始め、それと呼応するようにカーテンがゆっくりと開かれていく。
そこにいたのは全身真っ白な猫だった。
いや、よく見ると猫ではないような気もする。
真白な毛並みと金色に光る瞳が神秘的で美しいが、それがかえって禍々しく感じる。
なにより、猫にしては大きすぎるし、窓の桟に二本足で立っている姿は人のようで、普通の動物ではありえないことだ。
しかも肩から小さな巾着袋を提げている。
私は恐怖で声が出せずにいた。
白い生き物はジロリとこちらを見据えると、口を開いた。
「こんばんは」
少し低めの女性の声でそう言った。
「あ……あの……」
私はやっとのことでそれだけ口にした。
「驚かせてごめんなさいね。でも大丈夫よ。けっして怪しい者じゃないわ。」
そう言うと白い生き物はフワリとジャンプして音も無く床に降り立った。
太い尻尾がゆらりとゆれる。
口元から白い牙を覗かせながら、にやりと笑ったような気がした。
月明かりに照らし出された顔は綺麗な白猫のようだが、どこか不気味さを感じさせる。
私は怖くなって後退りながら壁に張り付いた。
「ああ、そんなに怯えないでちょうだい。何も取って食おうってわけじゃ無いのよ」
そう言って謎の生き物は少しだけ悲しそうに目を細めた。
「私は占い師のシロスズというものです」
そう名乗ると占い師のシロスズはペコリとお辞儀をした。
その動きに合わせて太い尻尾がゆらりと揺れる。
「ただ、あなたと少しお話をしたいと思って」
そう言いながらシロスズはずいっと顔を近づけてきた。
鼻先が触れそうな距離まで近づくと、ふわりと甘い匂いがした。
香水だろうか、どこか懐かしいような優しい香りだった。
まったくケモノのにおいがしないのは意外だった。
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