占い師シロスズ

豆狐

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悪夢を喰らう者(1/3)

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子供のころから怖い夢を見ることが多かった。
泣きながら目を覚ますと隣に寝ていた母親がいつも慰めてくれた。
そして、『この夢を獏にあげます』と唱えれば同じ悪夢を二度と見なくてすむと教えてくれた。
私はその言葉を信じて悪夢を見た時には必ずこのおまじないを口にした。
効果があったかどうはわからない。
でも、確かに同じ悪夢を見ることはなかったような気がする。
しかし、それは同じ悪夢を見ないというだけで、別の違う悪夢を見ていたら意味がないのではないか? 
そんな疑問が頭に浮かんだのは中学生になってからだった。
その頃にはもう怖い夢を見たからと言って、泣きながら目を覚ますことなんてなかった。
でも、おまじないだけは何となく続けていた。

その日は鬱々とした夜だった。
いつの間にか眠っていた私は、何かの気配で目が覚めた。
真っ暗な部屋の隅に蹲っていた私が顔をあげると、開け放たれた窓のカーテンの脇に見たことのない生き物がいる。
それは2本足で立っていて、薄ぼんやりと発光しているようだった。
そのせいか猫のような顔をしているのが見てとれたが、どこか違うような気もした。
そいつは太い尻尾をゆらゆらさせながら、クスクスと笑っていた。
ふと気づくと、その生き物がやったのか、部屋の中は本や衣服が散らかっていて足の踏み場もないほどだった。
私は少しむっとしてその生き物を睨みつけた。
それに呼応してか、そいつの目がギラリと光った。
まるで夜行性の動物の目だと思った。
それどころか、こちらの心の中まで覗いているかのような、そんな目をしている。
――ああ……これはきっと悪い夢なんだろうなあ……
そう思いながらも不思議と恐怖心はなかった。
何故なら目の前にいる生き物からは悪意のようなものは感じないからだ。
むしろどこか親しみやすさすら感じていた。
――でもやっぱり食べられたくはないかな?……食べられる!?……
そう思った瞬間、私の意識は現実へと引き戻された。

目が覚めた時、隣では夫が寝息をたてており私はホッとした。
時計を見るとまだ午前5時過ぎで、起きるにはまだ早い時間だった。
――それにしても随分とリアルな夢だったわね……
夫が起きていないか確認すると私は再び目を閉じた。
しかしどうにもあの夢のことが気になって仕方がなかった。
そこで私はもう一度眠ることにした。
今度はさっきと同じ夢を見てみたいと思いながら……。
そして再び眠りについた私は先程と同じように実家の自室いた。
私が目を向ける先には、やはりあの猫のような生き物が立っていた。
太い尻尾をしたそいつは、部屋の隅で蹲る私の姿を見つめていた。
だがやはり不思議と怖くはない。
だってこいつは私を食べようとしているのではなく、ただ食べ物が欲しいだけなのだと思った。
――可哀想だけど私には何もあげられる物が無いのよ。
そんなことを思っていると何故か違和感を感じた。
何だろうと首を傾げていると、また私の意識は現実世界に引き戻されていった。
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