占い師シロスズ

豆狐

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人魚のうろこ(1/3)

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ペットを飼うならやはり犬がいいだろうか。
確かに、犬派か猫派かと問われればどちらかと言えば犬派だけれど、猫も嫌いではない。
そもそも動物全般が好きなので、猫でも犬でも好きなのだ。
しかし、犬を飼うとなると毎日の散歩や躾けが必要だし、マンションの室内でも飼えるような小型のものになるだろう。
そうなると、猫の方が手軽かもしれない。
猫は気まぐれだけど、散歩はいらないし、世話もそれほど必要ないように思う。
犬と違って吠えないし、部屋の中で自由にさせているだけでいいんゃないだろうか。
ただ、壁や床は爪で傷がつかないようにそれなりに対策が必要だろう。
そもそもペットを飼いたいと思う理由は様々だろう。
例えば、家族の一員として一緒に暮らしていきたいだとか、癒しを求めたりだとか、あるいはただ単純に可愛いからとか。
いずれにせよ、その動機が愛情に起因するものであることは間違いないだろう。
僕はそんな事を考えながら、ザクザクと音をたてて砂利浜を歩いていた。
既に陽は大きく西に傾いていたが日没までにはまだ1時間以上はある。
その時、波打ち際に打ち上げられた足元の漂着物の中から何か光るものを見つけた。
その場に座り込んで拾い上げて見るとそれは、白色に輝く貝殻だった。
まるで真珠のような光沢のある美しい貝殻である。
僕はそれを持っていたトートバッグにしまい込んだ。
この辺りにはときどき珍しい貝殻や綺麗な石ころがどこか遠くから流れ着くことがある。
僕は海岸を歩きまわっては、そんな物を拾い集めて持ち帰るのだ。
ビーチコーミングと言うのだそうだが、海沿いの街ではわりあいポピュラーな趣味かもしれない。
まあ、僕にとっては散歩がてらのちょっとした宝探しなのだが。
今日の収穫は綺麗な小石が三つばかりと今拾った貝殻だけだった。
時間も遅くなってきたので、そろそろ帰ろうと思い立ち上がった。
――やっぱり犬かなぁ
どうにも考えがまとまらず、ぼんやりとした思考のまま僕は帰路についた。

僕の住むマンションは、海岸沿いの道からはずれた住宅地の中にある。
一人暮らし向けのワンルームマンションだが、駅から少し離れた高台にあり、周りにある建物よりもひときわ背が高い。
そのためバルコニーからは遠くの海がよく見えた。
海からの帰り道、スーパーに寄って弁当や缶ビールなどを買ってマンションに続く坂道を歩いていった。
その頃にはもうすっかり日が暮れて、空を見上げると星がいくつか瞬いていた。
マンションに着くと僕はエレベーターに乗り込んだ。
最上階である6階のボタンを押す。
6階に着き扉が開くと目の前には長い廊下が続いている。
その突き当たりの角部屋に自分の部屋があるのだが、ちょうど僕の部屋の前辺りに何か白い物がある。
近づいてみるとそれは真っ白な猫だった。
――どこかの部屋の飼い猫だろうか?
そう思ったのだが首輪をしていないし、今までこのマンションでこんな猫は見かけたことが無い。
それにしても猫にしてはずいぶんと大きいなと思った。
不思議に思いながらも部屋のドアの前まで来ると鍵を取り出した。
猫はドアの前に陣取ってこちらを向いてじっと見つめていた。
毛並みはとても白くて美しく艶があり、まるで雪のように輝いている。
目は澄んだ青色で宝石のようでとても綺麗だ。
「そこにいると邪魔なんだけどなぁ」
僕は猫に向かって声をかけたが、猫はその言葉を理解していないのか、あるいは無視しているのか、動こうとはしなかった。
仕方なくほんの少しだけドアを開けた。
そうすれば猫はドアを避けてそこを退いてくれるだろうと思ったのだ。
ところが困ったことに、猫はスルリとドアの隙間を抜けるようして部屋の中に入ってしまったのだ。
一瞬の出来事だったので止める暇もなかった。
慌てて後を追い部屋に入ると玄関の照明スイッチを入れた。
ところがどうした訳か明かりがつかない。
故障でもしてしまったのか、何度も試したがやはり駄目だった。
仕方がないので暗いまま、玄関で靴を脱いで一つしかない洋室に向かった。
するとソファーの上に先ほどの大きな白い猫が座っていた。
暗くてよく見えなかったが、先程よりもなんだか大きくなったような気がする。
僕は部屋の照明をつけるために壁に手を伸ばした。
しかし、いくらスイッチを入れても明かりはつかなかった。
ブレーカーが落ちているのかと思い確かめようとしたとき、不意に声をかけられた。
「明かりはつけないでください」
それは少し低い女性の声で、僕の背後から聞こえてきた。
驚いて振り返るとそこには二本足で立ち上がった猫がいた。
いや、正確に言うなら猫のような人と言った方がいいだろうか。
月明かりが差込む部屋の中、ソファーの上に全身獣毛で覆われたシルエットが浮かび上がっている。
どうもその全身がかすかに発光しているような気がした。
頭にはピンと立った三角耳、腰の下あたりからはふさふさとした尻尾が伸びていて、ゆっくりと揺れている。
「あぁ……?」
僕は驚きと戸惑いが入り混じったような妙な声を出してしまった。
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