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一章:出会い

6.競馬は貴族のもの

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「私の話は、これくらいにして……競馬や競走馬についてはわかってもらえただろうか?」
「はい!……なんとなくだけど」

 元気よく答えたものの、ちょっと自信がなくなって小さく付け加える。

「最初は、そんなものだろう。見たらわかりやすいかもしれないが……」

 僕の言葉に頷いたシルヴァン様が腕を組み、難しそうな顔をする。

「競馬は貴族のものだからな。普通の平民では、遠目から見る事すら許されていないし……私のような調教師の元で働いている雑用でも待機所から遠目に一瞬だけ見るのがやっとでな」
「……そうなの?」
「ああ」

 もし、見る事ができるのなら、見てみたいと思っていたのに、平民では見る事ができないと聞いて落ち込む。

 シルヴァン様の元で働けば、一瞬だけでも見れるというが、十の僕ではそれすらも難しかった。

「貴族は、競馬が自分達の特権だと思っている。馬主……競走馬の所有者は、爵位持ちの当主や嫡男でなければ競走馬の維持費もかかるから貴族の特権という意味では間違いない。だが、騎手や調教師、調教助手に厩務員まで貴族生まれでなければその職に付くことは許されないんだ」

 どこか諦めたようにシルヴァン様が首を横に降る。

 競馬というのは、僕が思っている以上に貴族の為のものらしい。

 新たに調教助手や厩務員という言葉もシルヴァン様の口から出てきたけど、どういう仕事なのだろうか?

「シルヴァン様。調教助手や厩務員って?」
「ん?ああ……調教助手は、君がさっきしていたように調教師の指示を聞いて馬の調教を手伝う者だ。厩務員は、引馬をする者だな。移動や雑用が世話をしている間に手綱を持つのが仕事だ」
「へー……僕らみたいに、全部一人でやるんじゃないんだね」

 世話事に担当する人が違うというのは、一人でするより楽?なのかも知れないけど、馬の事が分かりにくくならないかな?と思う。一人で見てあげた方がよくわかるのに。

「人手だけはあるからな。私の生まれる前からそうだったらしいから正確な事はわからないが、分業した方が専門的に突き詰められると考えられたんだろう」

 僕の言葉に笑ったシルヴァン様が自信なさげに笑う。

 シルヴァン様でもわからない事があるのだなと思いながら、僕は思った事をシルヴァン様に尋ねた。

「厩務員まで貴族生まれの人がしているなら、平民はなんの仕事をしてるの?」
「平民は雑用だけだな。馬の世話……馬房の掃除だったり、餌やり、体を洗ったり、ブラッシングするのも雑用の仕事だ」

 シルヴァン様の言葉を聞いて僕は、ふむふむと頷く。

 話を聞くと、僕が小さい頃にやっていた世話と変わらない気がする。馬に乗るのは小さい頃からやっていたけど、それは調教のされた大人の馬ばかりで、調教をつけるようになったのは、ここ一年くらいだからだ。

 でも、調教ができないのなら、シルヴァン様の元では馬に乗るのは難しいのかな……?

「あの、シルヴァン様。雑用は、馬に乗れないんですか?」
「……基本的にはそうなる」

 頷いたシルヴァン様の言葉に僕は肩を落とす。

「……馬に乗れないのは嫌か?」
「……うん」

 馬に乗るのは楽しい。世話をするのも好きだけど、世話をしているのに乗れないのはちょっと寂しかった。

「まあ……今の生活があっているのなら無理な勧誘はしない」

 シルヴァン様が少し残念そうな表情を浮かべる。

「だが、もし気が向いたら……私と共に来てほしい。もちろん君が独り立ちできる十二になってからではあるがな」

 だけどシルヴァン様はそう言って僕の肩を軽く叩き、柔らかく微笑んだのだった。
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