猫は異世界転生する (仮タイトル)

筒香時一

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猫は異世界にいる

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ここは私の新しい、ここは御主人様が元いた世界。

ちょっと外を覗けば、一往に森、林、草原とい上のどかな風景が広がり、日光がさんさんと降り注いでいる。
そして狩り帰りの獲物を担いだ亜人達や畑帰りの亜人達が、何気ない顔をして歩いていた。
とりあえず、ここが『異世界』というのは間違い無さそうだ。

あれから早いもので、およそ12年が経過している。
今の私は人間に例えれば、4歳~5歳の幼児あたりが適当だろう。
ほぼ、あの女が言ったとおりになったみたいだ。

でもおかげで、驚きの連続になると覚悟していた割には、そう大したこともなかった。
なにしろ前もって、雲の上で亜人や魔族がいると教えてくれたのが神か天使だという、とても普通じゃない体験をしている。
あんなのに比べたら、この程度じゃ気にもならなかった。
だいたい、そういうのが実在していられるってことは文化度が低いってこと。
もし高度であったなら、とっくの昔に科学文明や機械文明によって滅ぼされていたに違いないだろう。
だから、ある程度は予想はできていた。
せいぜい、御主人様が好きだったファンタジー映画みたいな世界なのだろうと。
大まかだけど、生活してみた感じでは間違いなかったみたいだ。
ただ、少し違っていたこともある。

私が転生したのは『猫の亜人』、いわゆる獣人。
もっと毛むくじゃらで2本足で立つような獣人って感じのを想像していたけど、かなり違っていた。
これは進化なのか退化なのか⁉︎
想像していた亜人っぽいところは猫の耳と尻尾が生えた程度。
殆んど人間と変わらない。
これ自体は悪くなかった、むしろ好都合かもしれない。
せっかく御主人様を助けに来たのに、姿形で警戒されてしまったら洒落にもならない。
だから、これは幸運と考えてはおこう。
けど代償なのか、猫最大の能力、柔軟性に乏しく、おまけに命の次に大事な髭が無い。
それでも身体能力自体は人間を遥かに超えてはいるらしいけど……。
でも、ここは異世界だ!
ポジティブに考えて、なにか対策を考えておけば良いだけの話だ。

しかし、やっぱり問題は残っている。
そして疑問の渦の真っ最中にもいた。

理由はわからないけど、私は皆から大切に育てられている。
生まれてすぐから『奇跡の子供』とかと喜ばれて、なぜか今も左目を布で覆われてしまっていた。

「不自由にはなるけど、我慢しようね。」

そう母親らしい亜人から言われて、まだ片目だけの状態にいる。
なにか、特別な意味でもあるのかなと思って従ってはいた。
まぁ以前とは逆になっただけだから、特に不便は感じていないからいいんだけど。
大きな問題は身体に関わることではなく、精神的なものだった。
価値観と言った方が良いのかもしれない。
ここでの私の名前『チャーム・ペルグリア』と、この母親の亜人のことだった。
ちなみに、この『ペルグリア』というのは短毛種の猫の亜人を指し、長毛種は『ペルグリナ』となるらしい。
この部分はどうでもいい、残りの『チャーム』の方が問題だった。
はっきりと言えば、すごく嫌だ!

マオ、これが御主人様から頂いた私の唯一の名前。
そう呼んで貰いたいけど、まさか『私の名前はマオ、よろしくね!』なんて言えるはずはない。
まして『異世界から転生してきました』なんてのも、頭がおかしいって思われてしまうだろう。
だから、仕方なく『チャーム』と呼ばせていた。

どうせ成長したら、御主人様を助けに行く予定だ。それまでの我慢。
……と思っていたけど、そうはいかなかった。

母親の存在。
この女、どうやら私が初子みたいで、やたらベタベタ構ってくる。
最近は少しマシになったけど、なにかにつけて世話を焼いてきた。
ご飯を食べているとき、服を着るとき、お風呂に入るとき、トイレで用を足すとき、その他にも色々とあった。
今は子供だと思いつつも、はっきり言って鬱陶しい。
でも、これだけなら我慢はできた。
私は大人だ、『ある程度は寛容にいこう!』とは思ってはいる。
けど、この母親は不器用で残念な女、どれもこれも雑な上に下手だから話しにもならなかった。
それに、どこかこと言葉と行動がぎこちない亜人だった。

あれは、乳児だった頃だ。
普通なら、愛おしく抱かれて授乳とかになるんだろうけど……。

「さぁ、早く大きくなりましょう」

小柄な体には不釣り合いな巨乳をぎゅっと押し付けられて、飲むより先に窒息して気絶した。

まだある。
あれは歩き始めた頃だ。
初めての二本足歩行への挑戦、以前は四本足歩行だった。
緊張の瞬間だったけど、なんとか立てた!
勇気を出しての第一歩は成功した、歩けたぞ!
よちよちと二歩三歩と歩いてみる。
これが二本足歩行というものか!
不効率で疲れるけど悪くはない! と感動していると、この女に見つかってしまった。

「もう歩けるの⁉︎ すごいわ!」

すごく喜んでくれた、これはまぁいい。
でも、すぐに事件が発生した。
この女、何を思ったのか……。

「よし今から外に行こう!
お散歩よ、チャームちゃん!」

「はぁっ……!?」

まだ、よちよち歩きしかできない私を連れて村の中を練り歩き、自慢して回り始めた。
当然だけど、まだ脆弱だった私にはキツすぎる。
次の日には、熱を出して寝込むはめになってしまった。

「自分の娘を殺す気かい⁉︎」

集落の年寄り連中に囲まれて、かなり怒られていた。
しかも、正座までさせられて……、っていうか異世界にも正座ってあるんだ。

まだまだある。
服を着るとき脱ぐときも、関節を外されそうになること、二十数回。 
お風呂に入った時も洗うことに夢中になって、私が溺れているのに気づいていなかったこと、十数回。
熱いスープを飲まされて口の中を火傷した、これは五回ほど。
などなど、数え上げればキリがない。

これじゃあ、御主人様を助けに行く前に殺される……。

でも……、こんな女だけど、私への愛情は感じていた。
とにもかくにも、一生懸命だ。
母親って、こういうものなのかな……。
以前が捨て猫だったから、前の母親の記憶がなかったからわからない。
気がつけば兄弟姉妹たちと捨てられて、最後は1人きりで鳴いていた。
母親が、そう望んだのかはわからないけど……。
覚えているのは、悲しくて寂しくて潰れた目が痛かったことだけ。

もしかしたら、心のどこかで前の母親を恨んでいるのかもしれない。だから今の母親の優しさが心に沁みた。
だから決心が鈍らさせられていく。
御主人様を助けるために転生して来たのに、このままでいいの?
あと38年くらい経てば、御主人様が転生してくるのに……。
でも、もう少しだけ……、甘えていたい。

そんな、ある日の朝。
不器用だと証明するような、黒焦げの目玉焼きとパンを食べている時だ。
あまり食欲が湧かず、目玉の部分を突いていると……。

「ねぇ、チャームちゃん」

これは行儀が悪かったか、注意されると思ったけど、むしろニコニコして聞かれた。

「なにか悩んでいるの?
お母さんに、なんでも話してくれると嬉しいな!」

なぜ、わかったの⁉︎ もしかして態度に出てた⁉︎

「今も上の空だし、寝ているときも魘|《うな》されてること多いから」

「どうして、そう思ったの?」

「思うじゃなくて、感じているっていうのかな。
だって、私はチャームちゃんの『母親』だから!」

口に出さなくても、感じとっていてくれたんだ……。
なら、いっそ正直に話してみようか……。
でも、信じてもらえるはずなんてない。
どう話せば良いというんだ……。

「今すぐ言いなさいとかじゃなくて、話したくなったらで良いからね!」

優しく笑いながら言ってくれた。
悩みの解決にはならないけど、少し気が楽になった気がする。
相談できる相手が近くにいる、そう思えるだけでありがたいから。

「さぁ食べ終わったら、西の森に行ってみようか。
チャームちゃんも、そろそろ他の子たちとも遊ばないと!」

「うん……」

それから、その西の森に初めて行った。
少し村から出た森の奥。
いわゆる、『公園デビュー』というのをするみたいだ。
着いてみると、もう数組みの私たちと似た年齢の母子が遊んだり話しをしたりしていた。
男の子は駆け回り、女の子はママゴトと何が面白いのか、とにかく楽しそうだ。
母親達は他愛のない雑談、『ママ友の会』が楽しげに開催されている。
世界が変わろうと、こういうのは同じみたいだ。

「さぁチャームちゃん、元気よく遊んできなさい!」

背中を押されて、仕方なく子供達と遊んでみる。
中身が大人の私、しかも元家猫で御主人様にべったりな生活をしていた私はコミチューだ。とても難しい時間になりそうだ。
だいたい子供なんてものは、どんな生物であれ突拍子もない行動をするようにできている。

案の定、男の子が女の子を突いて泣かせている。
すぐに調子に乗って、私にもちょっかいをかけてきた。
けど少し腕を掴んでねじりあげてやると、途端に母親らしき女にしがみ付いてギャン泣きしていた。

「虐めは絶対にダメ!」

なんか怒られた……、これじゃあ私が悪者みたいだ……。

そうこうしていると、何人かの子供達が森の中へ走って行くのが見えた。
危ないなぁ、なんて思って観ていると……。

「この辺は安全だから、一緒に行って来なさい」

べつに興味もないけど、言われた以上は拒否もできずに行くことにした。
しばらく獣道《けものみち》みたいなところを進んで行くと開けた場所があり、もう子供たちが遊んでいる。
木に登ったり、枝から枝へと垂れ下がる蔓《つる》を渡ったり、花畑で遊んだりと楽しそうだ。
私はというと、木陰に座って観察してみることにした。
この子供達の動きと、前の私の身体との違いについて比較するためだ。
観察していると、色々とわかってくる。
確かに人間よりは身軽みたいだ。
けど猿に近い感じ、猫みたいに全身の筋肉を使うような感じはなく、やっぱり柔軟性にも欠けている。
その証拠に、蔓から落ちた男の子が背中から地面に激突して泣いていた。
私の前の身体なら、空中で身体を捻って脚で着地なんてのは朝飯前だ。
でも今の私は、この子供と大して変わらないだろう。

一気に、不安になってきた。
やっぱり、前の身体に近い動きができないとダメだ。
こんなので、とても御主人様を助けられる気がしない。

そう落ち込んでいた時だ。
急に全身に、ぞわっとするような悪寒が走ってきた。
なんだ⁉︎  でも、この感覚は知っている。
髭が敵を感知したときの感覚、前の身体が備えていた猫の習性だ。

なにか危険なものが近くにいる。
子供達は全く気づいていない、遊びに夢中だ。
それでも1人警戒し身構え感覚を研ぎ澄まして、敵を探した。

どこだ? 絶対にいる。
こんなにゾワゾワする感覚なら、かなり危ないのが近くにいるはずだ。
どこだ……、あっ!
あの方向、1人の女の子が遊ぶ花畑の木々の先だ!
あそこに、なにかがいる。

「そこの子、今すぐに逃げて!」

叫んでみたけど、遊びに夢中で気づいてくれなかった。
そうこうしていると、どんどん身震いが大きくなってくる。
ダメだ、もう狙いを定めて襲いかかる寸前だ。
くそ、間に合うのか⁉︎

「お母さん達のところへ、早く逃げて!」

その子に向かって走りながら、他の子供達にも無我夢中で叫んだ。
当然、皆はポカーンとした顔だったけど、すぐに事態を飲み込む結果になった。

なにかデカイものが飛び出して、すごい速さで女の子に飛びかかった。
咄嗟とっさに女の子に飛び蹴りを放って、間一髪で攻撃が逸れて助けることはできたけど、その正体を間近で見るはめに陥ってしまった。

デカイ蟷螂《かまきり》だった。

やっぱり、ここが異世界っていうのは間違い無さそうだ……。
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