猫は異世界転生する (仮タイトル)

筒香時一

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猫は勇気を振り絞る

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前の世界の出来事。
変な虫が勝手に部屋に侵入してきたのに、生意気な態度までとったから退治してやったことがあった。
あからさまに喧嘩を売ってきたのだ。
即、パン・パン・パーンと得意の猫パンチで殴ってやると、呆気なく死んでしまった。 よし、成敗完了!

褒めてもらおうと御主人様の前まで咥えていき、可愛らしさ満点で『ニャー』と一言鳴いてみせる。
この可愛らしさという、猫のポテンシャルを最大限に活かすことが重要、よし完璧だ!
でも、なぜか絶叫された上に怒られた。
今となっては、とても懐かしい想い出だ。

しかし……、こいつには絶対無理そう……。

えぇぇぇぇーーー、ウソーーー⁉︎
むっちゃデカイ、デカすぎる!

目の前に、軽トラックほどの大きさがあるカマキリが現れた。
鎌のような両腕を突き出し、ありありと『今から食べます!』っていう雰囲気を放ちながら襲いかかろうとしている。
そんな殺気を、今は無いはずの髭がビシビシと感知していた。
ただし、私に対してではない。
こいつが獲物としているのは、私が蹴り飛ばして助けた女の子。
蹴り飛ばされたことと、目の前にカマキリが現れたことで、泣き喚いているからだ。
これは、本能による習性。
私と女の子、2人のうちで、どちらを効率良く狩れるのか?
答えは簡単、混乱している方だ。
冷静さを欠き慌てふためけば、死はたやすく決定されてしまう。
こういう場合は、無闇矢鱈むやみやたらに動かずに、どっしりと構える方が良い。
獲物側には余裕があると思わさせられたなら、そう簡単には仕掛けてこれない。
そもそも狩猟とは、反撃される可能性がある危険な行為だからだ。
自然界で怪我をするということは、それだけ死に近付く。
私の持つ猫の本能が、そう教えていた。
だいたい、前の世界のあいつと同じなら動かないものには反応しないはず。
そんな習性の生き物だ、こいつは。

「動いちゃダメ!」

必死に女の子を諭してみたけど、泣き止まない。
余計にガタガタと震えて、泣き声が大きくなった。
ダメだ、このままじゃあ……。
カマキリが、値踏みを終えたのを感じた。
私という登場で、一瞬だけ選択の混乱を引き起こしただけで、標的変更はなかったみたいだ。

でも……。
この子が襲われている間に、私には逃亡の可能性が大きくなる。
助けてはみたけど、どう考えても勝てる相手じゃない。
それに恨まれる筋合いはない、一回は助けたんだ。
なによりも私は御主人様を助けるために、この世界に来た。
こんなところで、絶対に死ねない!

カマキリの動きを見ながら、逃げる機会を探っているときだった。

「お……、お母さん……」

恐怖のあまりに出てしまった言葉なのだろうか。
自分の最期と、子供心に観念したのかもしれない。

でも、その声を聞いた途端に、あの光景が頭によぎってきた。
前の世界での最期の瞬間、あの子猫の最期の言葉。

『お……、お姉ちゃん……』

私は、やっぱり弱い猫だ……。
あの時、私は小さな命を守ることさえできなかった。
今も、できないの?
じゃあ、なんのために転生してきたの?
それは、御主人様を助けるため。
……弱いままじゃあ、できはしないのに⁉︎ 

……嫌だ、もう嫌だ!
あんな想いをするのは、絶対に嫌だ!
もう、身体が勝手に動かずにはいられなかった。

「こっちだ、カマキリ!」

派手に飛び跳ね騒ぎ、叫んでやった。
やはり、本能と習性がさせるのだろう。
途端に標的を変更し、カマキリが猛然と私に襲いかかってきた。

「10数えたら、走って逃げて!」

女の子が、泣き顔のままコクリと頷いた。
よし、逃亡開始だ。
もちろん、子供たちが逃げた大人たちがいる逆方向へ。
同じ方向だと、まだ逃げ切れていない子供もいるかもしれないから。
なにより大人たちが、逃げた子供たちから事態を把握するはず。
ある程度の時間さえ稼げれば、助けに来てくれるはずだ。
でも……、この身体でやれるの⁉︎ 
どのくらい逃げられるの⁉︎ 

木に向かって走り、駆け登ろうとした。
ここで、不安が的中することになってしまう。
爪が無いから引っ掻けられない、仕方ないからよじ登らざるへない事態になった。
やっぱりダメだ、この身体は!
こんなんじゃ、いずれ捕まる……。

ただ幸いにも、こいつも思った以上に遅かった。
速いことは速いけど、あいつに比べれば遅く感じた。
あいつには瞬発力があったけど、こいつにはないみたいだ。
身体の大きさと重さが関係しているのだろうか。
一度、おもいっきり踏ん張ってから動いていた。

けど、こっちの身体も思う感じの動きができていないから、危険なのは変わらない。
前の身体なら、ギリギリで躱《かわ》すなんてのは朝飯前だったのに……。
この身体じゃ、反応速度が意思に追いつかない。
あれをやろうとすれば、確実に捕まってしまう。

そうこう考えていると、カマキリが鎌で攻撃してきた。
但し、この鎌は鎌でも斬るためのものじゃない。
獲物を、ガッチリと掴み逃がさないためのものだ。
ゴキブリを捕まえて、食べているのを見たことがあるから間違いはない。
ギリギリまで身体を寄せて、私を捕まえにきた。

とっさにつるを掴んで違う枝へと飛び渡ったけど、カマキリも羽を広げて飛んできた。
そうだ、こいつ飛べるんだった……。

必死に飛び渡って逃げるけど、ギリギリどころかほぼ寸前。
鎌が、僅かに服に触れているのを感じた。
ヤバイ、ヤバイ、このままじゃあ……。
あっ! 蔓が無い⁉︎

焦って蔓を離してしまい、大きく跳ね上がったところを狙われた。
カマキリが両手の鎌を広げるのが見えた、ついでに口も怪しく開いているのも見える。

捕まった、食べられる、もう終わりだ! と思ったときだ。
不思議なことが起こった。
布で隠して見えないはずの目に、なにかが見え始めた。

『Loading』と映り、次に『∥』こんな記号みたいなのが見えた。
すると、なぜかカマキリの動きが一瞬止まった。
時間にすると3秒もないくらい、同時に目に激痛が走った。

でも、そのおかげで捕まらずに済んだ。
けど地面に向かって落ち、結果として身を捻り着地なんて高度な芸当はできずに背中から激突というはめになった。
目の激痛から、息もできないくらいの背中の激痛に移っていく。
それでも我慢して、急いで木の裏に隠れた。
カマキリにも、なにが起こったのかわからない様子だ。
私を探して、キョロキョロしている。

このまま、どこかに行って!
けど、あれは何だったの⁉︎

ある程度だけ痛みが和らぎ、目を摩|《さす》りながら思った。
どこかで見た覚えはあるけど……、どこだろ⁉︎
いや、今は考えている場合じゃない。
それになに⁉︎
ものすごく疲れを感じる。
こんなんじゃ、いずれ捕まる……。

もう、動かないようにするしかない。
動かなければ、襲ってこないはず。
でも、呼吸を止められない……

ぜいぜいとする息を、必死に止めようとしていた時だ。
カマキリが、私を発見した。
無理矢理、呼吸を止めて動かないようにする。
ジーッと、私を眺めて確認しているみたいだ。
早く、どこかに行って!
でないと……。

しばらくして、待ちに待った時がきた。
カマキリが視線を変え反対方向へ移動を始めてくれた、助かった……、でも。

「ブハァー、はぁぁ、はぁ、はぁ……」

耐え切れずに深呼吸をしてしまった。
途端に、私に向かって襲いかかってくる。
でも、また不思議なことが起こった。

鎌が私を掴み上げたようとした瞬間、もうダメだ、喰われる! 逃げなきゃ!思ったときだ。
目に激痛が走り、また変な記号みたいなのが見えた。
『⏩』、こんな感じの変なのが。

次の瞬間、
まるで、時間が止まったみたいに……⁉︎
いやスローモーション、いやコマ送り⁉︎
とにかく、ゆっくりと鎌が動いている。
これだったら、余裕で逃げられる!

でも、これも3秒ほどだった。
カマキリも、何が起こったのかわからないみたいだ。 混乱して呆然としている。
捕まえたはずだ! そんな感じなのだろう。

一体、どうなっているんだ⁉︎

でも、危機な状況は変わらない。
気を取り直したのか、再度襲いかかってきた。

もうダメだ……。
なにが起こったのかわからないけど、今度は絶対にダメだ。
眠い、疲れを感じる。
意識が途切れようとしていたとき、柔らかい何かが私を抱え上げた。
あの雲の上に連れて行ってくれた時の御主人様と似ている、温かい感覚が包んでくれているように感じる。
あぁ、また御主人様が来てくれたのかなぁ、だったら……、と思ったとき声が耳に入ってきた。

「チャームちゃん、チャームちゃん、しっかりして!」

ここでの私の母親だ、おもわず呼んでしまった。

「お母さん……」

「そうよ、お母さんよ!
もう大丈夫、よく頑張ったわ!」

そうか、子供たちは助かったんだ。
私も助かったみたいだ……。
他のお母さんたちも駆けつけてきたのが、薄っすらと視界に入ってくる。
この女も確認したのか、その内の1人に話しかけた。
そして……。

「チャームちゃんをお願い……、ちょっと生まれてきたことを後悔させてくる」

あれ⁉︎
ギューっと拳を握り、ブルブルと震えだしてから雰囲気が変わっていった。
残念な感じが完全に消えて、むしろ自然な感じがする。
私を預けて、カマキリの方を振り返ると叫び始めた。

「ただが虫の分際《ぶんざい》で、私の娘を食おうとしやがって……」

ぎこちなさがあった話し方も消えた。
それに、こっちの方がなんとなくだけど、しっくりとくる喋り方だ。
おまけに、ものすごい殺気も含んでいた。

「お前、絶対に死んだぞ!
ぶっ殺してやる!」

叫び終わったかと思うと、猛然とした勢いでカマキリの真正面へ突っ込んでいった。
さすがに危ないと思い、止めようと手を伸ばしたけど、私を抱く女に笑いながら諭された。

「大丈夫、あんなの敵にもならないから安心しなさい。
それに貴女も『チュール・ペルグリア』の娘なら、猫人族第四位『疾風迅雷』と恐れられる戦士の戦いを、よく見ておきなさい!」

猫人族第四位!? 疾風迅雷!?、なにそれ⁉︎
それに、チュールって名前だったんだ。
今まで知らなかった……。
でも、じゃあ安心しても良いのかな。

しかし……、あっさりとカマキリの鎌がチュールの左腕を掴んだとき、私にも聞こえるほどの『ボキっ』という大きな音が響いてきた。
もう腕が折られちゃった、どこが狂乱なんだよ……。

ところが、チュールは平気そうだ。
より一層に、怒りに怒った顔になった。

「チャームちゃんに与えてくれた痛みが、これか。
こんな激痛を私の可愛い娘に……絶対に許さない。
この痛みは、私の罪、娘を守れなかった私への罰だ!」

もしかして、わざと掴まれて折られたの⁉︎
私と痛みを共有するために⁉︎
まさか、自分の責任を感じて……。

「これからが、お前に対する贖罪への始まりだ!
やってならないことをしまった罪、その代償を嫌というほど味わせてやる!
なぶって、なぶって、なぶり回して、激痛と苦しみ、そして絶望を散々味わせてから殺してやる!」

私の母親、チュール・ペルグリアとカマキリの戦いが始まった。
それは、圧倒的な力の差と自然の摂理である弱肉強食の論理の体現だった。


※良いタイトルが思い浮かびません……。
考え中…。
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