ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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森での演習編

出撃前の最終調整

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 リシャールに森の中を歩く方法などはブーに教育を任せた。
俺は他にも仕事があるし、レンジャースキルを使えなくはないが専門家に任せた方が確実だ。それになんというか付け焼刃で教えて活かせる事なんか暫くやらないからな。

「フィリッパ。無理に成功させる必要はない。一体・二体ずつで良いから、決して致命的でないような指示を出しておけ。例えば村への道を確実に守る為に動かず戦う奴を二体、壁として道を塞ぐ奴が二体とかな」
「それなら何とか出来そうっすけど、森の方は相当怪しいっすよ?」
 やるべきことを分化させて、強制的に底上げして置く。
こいつらは『これだけやらせる』『これだけはしない』というのを徹底させれば魔法生物への支持は割りと簡単だったりする。例えば今の例だと、道を封鎖するためにしか戦わない。ダンジョンディフェンスと同じやり方にしたわけだが、村人の方は予め『ここでは迂回しろ』とでも教えておけば良い訳だ。識別証とかは持ち主が落としたり忘れる可能性があるので最初から止めておく。

「素人を率いての戦いだぞ? 最初から戦果なんぞ期待してない。『ついて来い』『この矢を撃った相手を撃て』だけでも十分に援護には成るだろ? 護衛役の場合はお前やリシャールが居る周囲に近づけなければ良いしな」
「あー! それもそうっすね! 了解っす」
 こういうと誤解を受けそうだが、別にゴブリンを全滅させる必要はない。
追い回して『森の外延部が危険だ』と理解してくれれば良いのだ。むしろ狩るのは数体だけで、残りは逃げてくれた方が良いくらいである。一心不乱に逃げ出す奴は倒せなくても良いし、逃げずに留まったり向かって来る奴だけなら、リシャールが攻撃した奴を遅れて攻撃しても良いくらいである。

「それと『一度止まれ』『攻撃停止』をポーズで指示出来ればなんとかなる。だがまずは村への道を塞ぐ方が先だ。専念しておいてくれ」
「はいっす!」
 ここは指示を徹底して置く。今後にも響くのは道の封鎖の方だ。
開拓したばかりの村でまだまだ森の方面へと勢力を伸ばすような時じゃない。まだ村の近くにも林とかはあるしな。村が安全になれば一安心で、後はダンジョンを育てる作業に戻れるという事だ。外延部が危険だがダンジョンがある方向なら何の問題と成れば、ゴブリンや獣は暗示の結界もあるし、そちらをホームグラウンドにするだろう。

「最も重要なのは放置して居ても運営できる状態にする事」
「村に被害が及ぶこと無く、ダンジョンでモンスターを退治する」
「やがてダンジョンに魔力が累積し育れば、余剰魔力で色々出来るようになる」
「ソレを使ってさらに戦力を追加するなり、魔法施設を設置して万全の態勢を作り上げる。そうなれば俺達が動いても問題が無くなるからな。リシャールを育ててるのは、連れてく為じゃなくて、森の管理者を作り上げるためだしな」
 独り言めいて口に出しているのは、フィリッパに聞かせる為だ。
今後の予定にこの女も関わって来るし、もしエレオノーラの一族が持つ天然のダンジョンを制覇したら、このダンジョンを譲り渡す事になるだろう。その時の指針として、鼎の軽重は教えておかなければならない。

そのこと自体は認識しているのだろう。フリッパはふと気になる事を尋ねて来た。

「質問なんすけど、この場合に万全な態勢って何を重視するんすか?」
「理想を言えばテレポーターで敵戦力の分断とかだな。そこまでやったらお前さんも大好きな新型ホムンクルスに回せなくなるんで、実際には条件を整えないと突破できない壁とかだな。知的生命体じゃなきゃ『鍵』を取りにいけないし、レバーを上下しようと思わんだろ? それだけで獣の害を除去できる」
 鍵は鍵でも、状況を整えるタイプの鍵は応用性が高い。
通常形式の鍵はマジックロックを含めて、その場・その瞬間に解除できるという欠点がある。もしダンジョンマスタークラスの人間がやってきたら、簡単に解除されてしまうだろう。だが状況整合式は誰でも解除できる代わりに、その状況が揃わないと突破できないのだ。それこそ特定の鍵をもってこいだろうと、特定の形の置物を持って来いでも良い。罠の中に鍵を放り投げておけば、勝手に罠の中に掛かるって寸法だ。

そしてフィリッパに説明したように、状況整合型は獣を確実に遮断する。
英雄を討ち取る様な……それこそ神代の血を引く獣が居たとしよう。恐るべき神力で通常の鍵ならば叩き壊せるかもしれない。だが置物を用意すると大質量の城壁が開き、通れるようになるみたいな状況を用意することは不可能なのだ。もちろん、此処で出した例えはあくまで例えなので、大質量の城壁を蒸発させるようなドラゴンを想定するなら、もっと別の例えにするだけだけどな。

「なるほどっす! ちゃんと自分の望みも覚えててくれたんすね!」
「そりゃな。俺達が用意する戦力にもつながるんだ。こいつらの経験を活かした新型より強いんだろ? 期待はしてるんだぜ。それとお前さんが此処を受け継いだとしても、博打みたいな運営は止めとけよ。勝負は余裕の範疇で仕掛けるもんだ」
 フィリッパが用意しているのが研究所で作った最低ランクの奴だ。
体格をドワーフの様に大柄にすることで筋力増強と耐久力を確保している。だが素早くも無いし、決して賢くも無い。一々指示をしないと味方を誤射する可能性のある画一的な思考だった。それに対して新型は構造をそのままに、知性と素早さを若干向上させたいわば指揮官型になるという。そいつに指揮させれば今の状況もマシにはなるだろう。

そして成果をフィリッパは研究所にレポートを提出。
それらを踏まえて彼女が心底作りたいと思う、強力なホムンクルスを用意する事になるだろう。ソレを研究所の物として扱い、一研究員のままで居るか、それともエレオノーラのダンジョンを引き継ぐことを前提に、自分の研究室を此処に作るかを選択することになるはずだ。

「今指揮官型の他に悩んでるのがあるんすよ」
「全てを戦闘力に回したタイプでゴブリンスレイヤー級」
「軽装のコボルトマッシャー級に重装のオークバスター級のバリエーション」
「これに加えて専用の装備を用意し、得意な能力をガコンを上げるってコンセプトっす! どうすっか! 行けてないっすか! たった一体で一部族を抹殺っす!」
 話しているうちに研究モードになったのか妄想を垂れ流し始める。
一研究員では作成できなさそうなゴツイ部類のホムンクルスだと思われる。興味はがそそられるのは確かだが……クロスボウみたいな重量分けは止めろ。どうしても無制限にボルトを放つヘビークロスボウを装備したマッチョを思い浮かべるからな。

「目を輝かせるのは良いが、まずは作業に集中しろ。それとブーの前でオークバスターの話はするなよ」
「てへへっ。怒られちゃったっす」
 そんな事を言いながら俺たちは最初の最終調整に入った。
まずはデータ取りに森に向かうとしようじゃないか! ゴブリンを蹴散らして村の安全圏とダンジョンの運営を確立に行くとしよう!
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