ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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第二期ダンジョン経営計画

新たな目標と方針の確定

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 次の攻略作戦に向け、ダンジョン経営を行っていく。
その方向性で話をまとめて置き、各人にはそれぞれ自分が何を出来るのか、それに対する要望は何なのかを考えてもらった。あくまでこのメンバーを率いて次回も同じ様に挑んでいくが、陣容を整えると同時に連携を確立するという前提である。

こういった話をレポートにまとめてエレオノーラに提出。
あくまで俺は雇われたコンサルであり、彼女の決定が全てである。もちろん実現度の低い方策を建てているつもりはないので、余程問題が起きていないならば受け入れられるだろうと確信はしていた。

「お疲れ。どうだった?」
「判ってるくせに。散々叩かれたし何度も尋ねられたわよ。余所者に売り渡す気かと言われた時には鏡を見ろと言い返してやったわ」
 今のところ上がっていた要望と手段は一枚でまとめた。
所詮はその場で上がった案に過ぎないし、妥協を考えたらどこまでもリストが増えて行く。その上でこちらが用意できる物には限りがあるし、三角貿易みたいな事をすれば良いのであれば叶えられる望みもあるからだ。

後はこちらの利益が最大になる様に、あるいは確実に天然のダンジョンを攻略できるかの問題に掛かっているだろう。

「ともあれ中層を抑えられるなら文句は封殺できるわ。少なくともそれで行政は何も言えなくなるしね。あの連中は前例主義だから、こっちが利益を上げて被害を出さないで居られるならば口を挟まないもの」
「それは重畳。対応したくもない異変に出逢った甲斐があったよ」
 エレオノーラはまず行政に関して話を終わらせた。
天然のダンジョンは得られる利益が高く、発生した経緯からして貴重な物が多い。行政からすればダンジョンを管理できずに利益が上がらず、それどころかモンスターが周囲の街を荒らすようでは困るのだ。歴史が古いだけに周囲には色々と税が採れる物も多いしな。

その点に関して、上層から中層へ管理を押し返したこと。
そして中層で起た大変により、モンスターが溢れるところを、俺達がその場で処理したのはポイントが高かったはずだ。少なくとも数年後には危険になるどころか、元のように管理できる可能性も見えて来たのだから。

「一番強い奴を退治出来たのも大きいわね。行けるんでしょ?」
「制圧するだけなら簡単だな。だが重要なのは利益の上がるダンジョンに戻すことだ。ここで一工夫が必要になる。退治屋で良ければエレオノーラの一族だって苦労はしてない筈だからな」
 意味深なエレオノーラの目に俺は頷いて見せた。
まずは中層の制圧が簡単だと示し、上層の様子を伺う事は難しくないと説明しておく。そしてエレオノーラの本業であるダンジョンマスターとしての領域に話を戻す。ダンジョンマスターは得られる魔力や素材を利益とし、周辺を守る拠点として機能させて初めて意味があるのだ。

それゆえに中層のモンスターを殲滅することは論外だった。
傭兵を大量に雇って送りつけて良いならば、とっくの昔に再制圧が終了している。それをしていないのは迂闊に生態系をつついてモンスターから魔力を得られなくなったり、『育てている素材』が得られないと意味がないのだ。

「残りのエリアに顔を出して予想通りかを確認する」
「巣分けしただけならば、元の通りにゴブリンが居るだろうしな」
「もしダンジョンの魔力を得てさらに増えるようなら問題だし、逆に壊滅してるかもしれん。顔を出しつつ循環器を埋め込てリンクを広げるとして……場合によっては追い出してオールド・キメラが住んでたあたりに転居させたいな」
 喫緊の課題は『何が起きた』かの調査だろう。
ゴブリンの部族を見つけ、予想通りの数が居るならば問題ないと言える。こいつらの良い所は多産であり、魔力を作り出す原料と言えなくもない。だから中層に住みついているならば、無理に全滅させる必要はないのだ。むしろ適度に残った上で、別の勢力と殴り合いを定期的にしてくれる方がありがたいとすらいえた。

その辺りを調査すれば、行政の連中は安心するだろう。
今後にどのペースでゴブリンを狩ればダンジョンからモンスターが溢れないか、得られる魔力が安定するかが判るのだから。その上で不具合を起こすようなナニカは要らない。さっさと調べて片付けるか、問題がないと判っている場所に移動させる方が良いだろう。

「転居までさせる必要があるの? 別に今のままでも下層に行けるでしょ?」
「そうなんだが少し考えてみてくれ。あのダンジョンで徘徊してるゴブリンって、おそらくは同根だろ? つまりあの中層を基盤に増え続けたって事だ。ゴブリンに取って増え易い環境だとしたら、少し考えものだと思ってな。それと、ゴブリン以外にとっても良い環境なのかもしれん」
 エレオノーラの一族たちは、上層である盆地に居る奴らを倒すだけで収益が出た。
つまり、俺達の予想よりもゴブリンにとって良い環境だという事だ。延々と増え続けるゴブリンを狩って魔力を獲得するというのも手ではあるが、それほどの環境ならば他の存在を増やすことに使っても良い。

また、話は戻るがゴブリンはただでさえ増え易い種族なのだ。
もしダンジョン経営の能力が中途半端に良い影響を与えており、今後に爆発的に増えてまた危険な目に合わないとも限らないのである。やはり不具合を起こすようなナニカは不要であろう。

「ひとまず予想としては、あの辺りで素材用の獣が兎のように増えてるとか、キノコの類が爆発的に増えてる可能性はあるな。その状態でお前、放っておきたいか?」
「……確かにその状態ならゴブリンに食わせておくのは惜しいわね」
 鎧に使う皮や食肉用の獣だとか、薬草であったり食用のキノコが怪しい。
ゴブリンではなくその辺りが増え易い環境であるならば、別にゴブリンに与える必要は全くないのだ。もし獣であれば食肉はともかく皮として売り払えるし、キノコであれば薬草の代わりにポーションが作れるだろう。それこそどちらも食えるのだから、保存食として加工して、ブー辺りに安く売りつけても良い訳だ。

また、環境が住み易いだけならばやはりゴブリンだけに限らない。
それこそ他の生き物で良いだろう。素材重視なり食料重視なりで適当に選ぶことは出来るのだから。逆にゴブリンに特化した繁殖施設であるならば、何処かで大問題が出ない内に何とかするべきだろう。

「そう言った事の対処を含めて一度覗かにゃならん。仮に放置するにしても問題ないと判ってからだな。その上で、次はもっと上手くやる」
「そこには同意するわ。もう命の危険はまっぴらよ」
 次なる目標を決め、そのために努力する。
そう提案すれば否応はない。エレオンーラも命の危機は困るが、怪我する可能性自体には目を瞑るようだ。まあ自分が怪我しないで済むなら万々歳だが、それほど余裕がない事も判ってるだろうしな。

その上で、今から何をやるかが問題に成って来る。

「最悪、下層から意図的に支配者の手がやってくることを想定する」
「偶然にゴブリンが溢れるんじゃなく、再制圧を避けるために部下を派遣かな?」
「そのくらいは想定しておくべきだし、来ないならば余裕を持って中層を制圧する」
「拠点に待機させておくホムンクルスの数も増やして、次は中間地点と往復させるのも良いな。ただもっと強い個体でも良いし、ジャンの奴に魔剣を持たせるのもアリだ。そうすればエレオノーラの魔法と合わせてオーガの集団くらいなら瞬殺できる」
 今のところザックリした計画でしかないが、危険性を想定して前回以上の脅威が来ると判断しておく。前回は偶然でしかなかったが、同じことを意図的にやられたらもっとピンチになるだろう。あの時はこちらの後衛を積極的には狙って来なかったし、魔法でジャンやホムンクルスを妨害したりもしなかったからだ。

ひとまずそこまでの覚悟を決めて対処する。
そして戦力を増やすとして、それは質も数も増やして行くつもりだった。問題なのは原資がエレオノーラが今管理しているダンジョンしかない事だ。もし天然のダンジョンの経営権を一部なりとも手に入れたならば、今ごろ小躍りしている筈だろう。

「……特筆性のない魔剣を渡して、大人に成った時にオーダーメイドとか?」
「それも選択肢だな。あるいはフィリッパみたいに試作品を貸してくれる奴を探すのもいい」
 特に効果の無い魔剣は手に入り易いが戦力はあまり変わらない。
かといって試作品というのは安定しないか、あるいは奇妙な能力があるから試作品と言うのである。もし現時点で有用だと一言で言える魔剣を手に入れるには、他を諦める必要があるだろう。少なくともフィリッパには面白みのないホムンクルスを作って販売させるしかない。その場合は彼女の期限が真っ逆さまになるだろう。

その点ブーは食料重視なので助かる。
機嫌を繋ぎ留めるだけならば、さっきの話をして食肉なりキノコを提供する可能性を伝えれば良いだろう。実際にそんな物がないとしても、次に攻略するまでの繋ぎには成るはずだ。報酬として別の物を用意するのはまた今度でも良いのだから。

「とりあえず戻って森の調査を演習がてらに計画しとくか。起きたエルフの娘たちも不安にしてるだろうしな」
「そうね。何かお土産でも買って帰ってあげましょうか」
 こうして俺たちは方針を確定させた。
後は帰還して各人の案を尋ね、あるいはこちらから提案してチームの強化に務めるとしよう。
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