ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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第二期ダンジョン経営計画

順調な戦力強化

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 アイデアに浮かされて案が右往左往するのは良くない。
結局のところ、ホムンクルスの騎馬はやはり中途半端な性能になりそうだった。あえて言うならば、金があれば馬よりも短いスパンで投入できるという程度でしかなかった。

どちらかと言えば使い物にする為の副産物である、攻城兵器の運用が思ったよりも使えそうだというくらいだろうか?

「ダンジョンディフェンスには過剰火力だな」
「きょっ、拠点防衛には悪くないっすよ! 少なくとも自分はこの子が居れば安心できるっす!」
 フィリッパの暴走により思ったよりも早く四つ足君は完成した。
残念ながらサイズの問題もあり、これ以上大きくして強くするという手法が使えない。高価な素材をたっぷり使えば強くなるだろうが、コスト的にはまったくペイしないだろう。期日までに優秀な馬を揃えたいという貴族でも居れば……色彩の指定込みであり得るかもというくらいだ。

能力的には騎馬と荷馬の中間、皮が厚い分だけお得。
まさしく防衛用以外には役立たない悲しき存在である。しかし一頭だけで小さな攻城兵器なら輸送できる体力を持っているので、荷車がそのまま防衛戦力になるとか、防衛戦力を誤魔化したい時には役に立つ……のかもしれない。

「まあその辺はいいさ。こっちの方が思わぬ収穫だったしな」
「拠点防衛用なら転送する必要もないっすしね。そのまま撃てるのは良い事っす」
 小型攻城兵器を人型の強化ホムンクルスで連射する。
このコンセプトは場所を選べばすこぶる優秀な火力を叩き出せることが判明した。まあヘビー・クロスボウを連射できることで判っていた事だが、今回の改良はボルトの代わりに撃ち出す石球や鉄球である。大物を一発ずつぶっ放したり、小さい玉をまとめて撃ち出したりと、割りと汎用性が高かったのだ。

場所によってアーバレストとカタパルトを使い分ける必要があるが、ダンジョン内の拠点防衛ならばまったく問題ない。敵がやって来るルートは最初から想定できているし、天井に気を付けるかそれとも隠れられる場所に気を付けるかで使い分ければ良いのである。

「ひとまずこれで次回の拠点防衛は十分ってとこか?」
「そうっすねえ。ゴブリンの集団やオーガくらいなら簡単だと思うっすよ。バラバラで来られたら何人か居ないと困るっすけど」
 小さな石や鉄をまとめて飛ばすという、攻城兵器ならではの発想。
この事により命中精度と集団に対する対処力がかなり上がった。エレオノーラが管理するダンジョンの中で待ち構え、やって来たゴブリンに対する迎撃がアッサリ終わる。これまでもクロスボウで撃ちまくれば簡単だったが、ボルトの矢が曲がる事も多いので、仮に鉄の球を使うとしても相当に安上がりなのだ。

少なくとも、このダンジョンが攻略されることは無くなったと言っても良い。
天然のダンジョンを攻略しに行く際にも、これらを置いておくだけで簡単に対処できるだろう。流石に矢に対する防御呪文でも使われたら問題だが、そんなハイレベルな奴がいきなり全力で行動して居ない限りは問題なく対処できるのだ。それだって最初の段階から監視してれば、白兵戦を挑むホムンクルスをぶつけられるしな。

「では留守の間と拠点防衛に関してクリア。第一の質向上だな」
「攻勢に関しても使えるところでは使うとして、乱戦には難しいだろうな」
「そういう訳でフィリッパは引き続き、強化型ホムンクルスの製造を頼む」
「旧型のホムンクルスを数体交換に出して魔剣や魔弓を作ってもらうとして、それ込みで少しは普通の戦闘面でも向上したと信じたいところだ」
 方針に許可が出たので交換でマジックアイテムを手に入れて来る。
魔法使いの中には爺さんも居るし、そういう所で若い弟子が居なければ物資の輸送は面倒なことになる。ホムンクルスの良い所はゴーレムを修理する魔法でも、傷を回復する治療魔法でも行けるので管理がし易いのがありがたいはずだ。ちょっとした武器なら戦闘テストも出来るしな。

そういう訳でこないだから、その条件で相手を探して居た。
代価はそこそこの魔剣で、魔弓なりその辺を追加することで、こっちが出すホムンクルスの数を追加して良いという条件にしていた感じだ。性能の方を条件にしていないのは、お互いにその方が楽だからである。良い物が出来たら、自分の所で使いたいのが人情だしな。

「と言う訳で連れて行くわけだが、あれから思いついたことはあるか?」
「剣技を使う子を考えたんすけど無理……って、これは前に言ったかな。言ってなかったとしても、無理だったという事で、残念っす」
 別に考えるのは良いが試すのは待て。そう言った気もするな。
俺達は互いに笑顔で微笑みあうが、その意味は随分と違う。俺の笑顔は怒りを隠した笑顔であり、フィリッパの笑顔は誤魔化しの笑顔である。とはいえこれ以上言っても仕方がないし、次の用事もあるのでここまでにしよう。

なんというかエレオノーラは頑張ってる姿を見て口説きたいと思うが、フィリッパは駄目な姿を見るとそういう邪な気持ちが失せるな。あえて言うなら目が離せんというところだが、一生面倒見させられるのは勘弁してほしいので、そういう言葉は絶対に使わないでおこう。


 フィリッパの研究所を後にしたが、行くべき場所はあまり遠くない。
ダンジョンから少し離れた場所に、見張り台を兼ねた小屋がある。そこにもホムンクルスが居て、同時に何人かが車座になって話し合っていた。

そこへ俺が近づくと、小さな女の子がリシャールの後ろに隠れる。
この間に起こしたエルフの少女たちだが、いまだに小さい方は慣れないらしい。大きい方はもう少し打ち解けているが……まあ小さいの子の前で気を張ってるだけの可能性もあるか。

「よう。精が出るじゃないか。今日は何を話し合ってたんだ?」
「ブーさんに新しい薬草を集めてもらったんで、何処に植えるか話してたんですよ。下手な事をすると、元の草にも影響出ますしね」
 リシャールに話しかけると、足元の包みを見せてくれた。
完全に覆っている袋と、中身が見えている袋がある。おそらくは太陽の光に弱い草と、普通に日を浴びて育つ草の差だろう。その必要環境に加えて、現地に生えている草に混ぜたくないこともあり、植える場所に悩むのは確かに相談が必要だろう。迂闊な事をされてポーション用の薬草に影響が出ても困るしな。

ちなみにこちらはフィリッパと違って許可制じゃない。
森はエルフの領域ではあるし、俺達が口を出すべき問題ではない。継続購入する代わりに生活の支援をしている手前、今購入している薬草に関しては絶やしてくれるなと忠告する程度に過ぎない。

「それなら皆でゴブリンたちの居るエリアを捜索してみるか?」
「お前らが管理している場所と違って、他所だからある程度は安心できる」
「どうせ爆発的に増えるような草じゃないんだろう? 行ってみてから、同じ草があればその付近で。何も無い場所があればそこに植えるのも良い。それと魔弓の手配が出来たから、今度お前さんに貸し出すよ」
 構想自体は話したが、実際にするかは話が別だ。
少年であってもエルフの代表としてリシャールが居る以上は、その利益を話しつつ交渉する必要がある。弟子として色々教えているのだから黙って従えという部分と、こういう別組織としての在り方は異なるやり方をすべきだろう。実際、こいつが知らんと言い出したら、ポーションは安価に手に入らないし、ゴブリンや獣が増え過ぎたら困るしな。

その上で、特に賛成しなくても魔弓を貸し出すことは告げておく。
無償で渡すのではない。あくまでエレオノーラの味方であり続けるのであれば、ゴブリンや獣を狩る為に、有用なツールとして貸し出すだけである。

「ジャンさんへの魔剣はともかく、ボクにまで良いんですか?」
「こいつらホムンクルスと交換することに決めたんだが、二体居る方が向こうも都合が良いだろ? かと言って性能が良い魔剣を頼めそうにないからな。その点、お前さんが戦力になるし、使わない場合でもまあブーが何とかするだろうと話を決めてたんだよ」
 リシャールには貸し借りがあるし、相互に協力し合っている。
だから普段から力を借りても、特に代償を払う必要はない。始終連れまわせば別だろうが、森の管理の他、ダンジョン攻略について来てくれるだけでもありがたい。そうなるとただの斥候とか見張りよりも、戦力として換算できる方が良いのは確かだ。

つまり魔弓はこちらの打算であり、リシャールは気にすることはないのだと告げておいた。これで攻城兵器込みで、拠点防御は万全だろう。流石に狙撃まではさせられんが。

「そう言えば何の薬草を仕入れてもらったんだ?」
「神経の強化薬と言ってたわ。私達は興奮剤として祭りの時なんかに使ってたけど」
「ちょっとマリってば……。そういう訳で、昔は生えていたそうです。なので探してもらったんですよ」
 大きい方のエルフの少女が口を挟んで来た。
特に言わなくても良かったのに、あえて口に出したのは借りを作りたくなかったのだろう。まあ売り物として俺たちが買うのは間違いないしな。ここで黙って居るよりも、存在感を示す上では悪く無かったかもしれない。薬草の知識があるならば、小さい子と合わせて管理も期待できるだろうしな。

それはそれとして神経系の強化薬はありがたい。
そのままでも反射速度を上げたり、類似品で感覚を強化する物がある。筋力に反応させる薬と併用することで、走る速度を上げる薬も作れたはずだ。ジャンに渡す魔剣込みで、攻勢面でも強化が期待できるだろう。もしブーの弟も呼ぶのであれば、大幅な戦力UPに繋がるだろう。
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