ダンジョンのコンサルタント

流水斎

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内なる災い編

証拠が無ければどうする?

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 相手の攻撃で傷つかぬ為、過剰な火力で盗賊を殲滅してしまった。
負けるよりは良いし、こちらが重傷を負うよりは良い。しかし背後関係を辿る手掛かりもさっぱり消えてしまった。急がなければ手下は降伏したような気もするが、何かを言う前に攻撃させ続けたからな。

まあ成功と言えば成功だろう。最悪の結果になるよりは良い。

「みんなお疲れ様。このまま小島を軽く漁ってみよう。フィリッパには悪いがそのままの位置で固定だな」
「指示書の類があれば良いのだけとネ。望み薄いのことヨ」
 俺が一応は褒めて作戦を締める。
その言葉にブーは肩をすくめて真っ先に魔法使いの死体を確保しに向かった。俺も隊長と呼ばれた兵士と、そいつを読んだ兵の二名に関しては確保しておく。もしかしたらエレオノーラが見たことのある兵士かも知れないからだ。

そして小島にある元修道院に駆け込んでみたのだが……。

「そりゃ夜だもんな。竈に放り込んでいくか」
 食事やら何やら作る為の竈に羊皮紙の欠片があった。
慌てて削り取ったらしき部分が特に燃えており、緊急性の高くない内容の物はそのままくべてある。どうやら印章を押した場所なり、誰が書いたのか推測できるような部分は削りとってから燃やしたのだろう。ひとまずの証拠として、燃えさしを回収はしておいた。

その時、ちょっと音がしたのだが……見ればブーの奴がスープをグルグルかき回して飲んだり、近くに放置してあった腸詰を意地汚く食い千切っている。

「良い物食べてるネ。実に羨ましいアルヨ。ちなみにこの辺りの味付けネ」
「流石に同じ地方の館から派遣されたんだろうしな。単純にこの辺で奪った食い物かもしれんが」
 遠くの貴族が派遣した兵士だったら、保存食の味に変化があったかもしれない。
しかしながら同じ地方なので保存食の作り方も同じだし、料理の味付けもだいたい同じだろう。全部の食い物を調べて同じだったら、遠くの貴族が黒幕ではないと判る程度だ。食い物で判別するのはオークらしい着眼点だが、俺も多少は真似させてもらうとしよう。

残された物の傾向から、ある程度の推測を行うのだ。

「……やっぱり襲撃の為の襲撃だな」
「換金し難いものがあるし、食い詰め者の発想じゃない」
「香辛料くらいは自分たちが使うためで良いんだが……」
「何処の世界に金より証拠の焼却を優先する馬鹿が居るんだよ。馬鹿は馬鹿だから盗賊やってるんで、証拠なんぞ気にはしねえよな」
 なんというか主要部分はこざっぱりとしている。
金を入れた袋や戦利品が住みに放置してあるし、それらを掴めるだけ掴んでいくような執着心が見られない。死体を詳しく確認すればマジックアイテムなり良い武装が見つかるのかもしれないが、おそらく懐一杯に金袋なんてオチはないだろう。

この時点で十分に怪しいと言えるだろう。
何処かに隠しているのかもしれないが、そこまで徹底して自分達を隠蔽する大盗賊団などこの辺りで聞いたことも無かった。仮にそこまで凄い連中だったら、重要な物は何処かに埋めておいて、今ごろはこの修道院を燃やしているだろう。

「後はエレオノーラに手紙を送った上で、もう片方のルートで盗賊を探している連中を呼んで、この怪しい状態を見せつけるくらいかな。他所の貴族の手下って路線でよろしく」
「味付けとか余計な事言わないネ。ワタシ、忘れたヨ」
 もはや裏切者の正体を探るのは難しいだろう。
なのでエレオノーラには個との顛末と推測を提出するが、方向性としては他所の貴族がダンジョンを狙うため、『エレオノーラの発言権低下を姑息にも狙ったのだろう』という感じの論調で攻めることにする。解決できないのであれば、親族衆の狙いを阻止する材料にするだけのことだ。

発言権低下を狙ったのは親族衆であるが、それを他所の貴族が狙ったことにして、ダンジョン経営を取り戻した成果はエレオノーラの物だと強調するという作戦である。その上で、親族衆に目を付けるのは彼女がやるだろう。

「方向性は判ったが、それで反抗心を持った者が従うのか?」
「表向きだけでも従ってくれるなら良いさ。少なくとも攻撃系だけなら高レベルの術を使える魔法使いと、割りと強かった兵士を死なせている。金で雇ったのか部下を送り込んだのかは知らねえが、少なくとも手痛い出費だろうさ」
 脇で話を聞いていたジャンが尋ねて来た。
一族を率いて戦う事になるかもしれないジャンとしては気になるのだろう。なので判り易く駆け引きの話をしておく。親族衆が単独でやったのならば物凄い出費の筈だし、部下ならば取り返しのつかない事になっているだろう。

その上で『私はお前のやった事を知っている。従うなら大事にはしない』とでも脅せば良い。個別に話をして、根回しをすれば十分に通じるだろう。

「例えばだがジャン、お前さんの所の親族はみな忠勇だとしよう。だが盟約を結んだはずの同朋は違うかもしれんよな。そこで貴重な戦力を失って居て、お前さんにはそれを補充する伝手があるんだ。そいつはどうする?」
「ああ。なるほど、エレオノーラ殿にはホムンクルスがあるか」
 仲間は全て信じられるとか言われも困るので言い方を工夫する。
親族は大丈夫だが同盟相手までは全員そうではないだろうと例えた上で、失った戦力の話を持ち出した。ジャンとしてもエレオノーラを通してフィリッパから色々と調達する計画自体は考えているだろう。それが実現できるかは別にして、アイデアとしては考えやすいのだ。

その上で一族の再建計画を用意してある。
ダンジョンを再管理し、その収益で徐々に戦力を整えるし、親族衆にも旨い汁を吸わせると明言しているのだ。彼女が用事で出かけている時に、代わりに再拝する者も必要だしな。それにあのダンジョンの管理権を失った時、何があったのかしらないが、戦力を大規模に失ったのは間違いがない。本来求める水準に達してないのは間違いないのだ。

「戦力を回す大義名分はあるし、実際にダンジョンを掌握しつつある」
「その上で貴重な戦力を失った奴が何かを言える余地はねえよ」
「脅しで済んでる間にウマウマと戦力を確保していつか来るであろう……」
「ああ、フィリッパに裏切らないように命令を組ませとかないとな。話は戻るが、その日を夢見て戦力と金を蓄え続けるしかないって寸法だ。親族衆の全員が裏切ることはまずないし、大部分が裏切らなければ問題ない。その状況ならば余計に裏切らねえよ」
 そういう訳で、証拠は無かったが政治力で何とかなるレベルだ。
俺達に大した傷が無かったこともあり、このままダンジョン攻略に向かう事ができるだろう。味方かどうかも分からない兵士たちにこっちの戦力を見せつけつつ、呼び寄せて色々と説明したらここでの用事は終りである。

これでようやくダンジョン攻略を再開できるだろう。
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