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プロローグ

『魔王倒れて勇者軍は解散す』

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「お忙しいところ失礼します。ミハイルです」
 神様に頼まれて魔王を倒しに異世界へやって来た。
だが特にチートな加護はもらえなかったし、良い待遇もされなかったので、仕方なく十年掛かけて倒した。それも自分で倒したわけではなく、勇者や聖女の加護を持つ者たちを中心に、現地の人々に呼び掛けて勇者軍を立ち上げてようやく倒したのだ。

強力な勇者や聖女の加護があるならばお前らやれよ……と思わなくもないが、それでも無理なので自分の様な発想を持ちコネクションを重視する者が呼ばれたのだろう。

「レオニード伯爵閣下。魔王軍を勇者が倒してより、残敵掃討に移行しておりましたが……これに成功しました。復活する可能性は捨てきれませんが、倒したと考えて問題ないかと思われます」
 俺は所属する国家の天幕へと入り、司令官へと報告する。
勇者軍と名前はついているが、中核になっているだけで、本質的には協力する各国の兵士や騎士なしには運営できない。武器や食料その他の手配を含めて、上層部の皆さまには頭が上がらない思いだ。その多大な貢献に比べたら、自国の利益の為だとか、国家の威信の為に協力したなどと言う生臭い話は許容範囲でしかないだろう。

なお、勇者軍を構成しているのは周辺国と滅びた国・都市国家の残存兵力。当たり前ながら人類の総戦力ではないのがミソだ。

「そうか。長かったな……いやこれまでの歴史を思えば短いのであろうが。数年もの間、戦い続けることが出来たのはお前の功績でもある。よくやってくれた、本国の陛下もお喜びになろう」
 確かに年単位は長いし、俺目線では十年、我ながらよくやったと思う。
単独で突出したがる勇者や剣聖を抑え、ともすればパーティからメンバーを追放してでも精鋭のみで突き進もうとする連中を宥めて『二つ』に割った。勇者たちを切り札として温存し、雑魚を食い止め情報を集める二軍構成に編成したのだ。確かに勇者たちだけの方が足手まといも居なくて強いのだが、敵の多くは雑魚たちであり、それらを操る参謀格が敵にも存在するのだ。魔族は強さ万歳なので魔将たちだって油断はならない強さを持っているのだから、勇者・聖女・剣聖・賢者の四人と+@の精鋭たちのみで突き進むのは無謀に過ぎるだろう。

ともあれ、そういう連中の性格に合わせてコントロールしていたのは俺である。強烈な性格の連中でもあるので緩衝材を必要としており、各国上層部との折衝や書類作成なども俺の役目であった。

「ありがとうございます。しかし、軍を解散して無事に本国を元の良き国に戻すまでが我々の仕事でありましょう。各国も魔王相手に協力を約束してくれましたが、決して一枚岩ではあったわけではありませんので」
 俺は恭しく頭を下げた後、あえて苦言を呈した。
所属する国家の中では参謀職として参加しているし、他にも幾つか理由がある。まずは『魔王を倒しましたが国も滅びました』と言う状況から脱却し、無事に本国を立て直す事への着手までが遠征であろう。そもそも対魔王シフトで手を組んだ他国も決して仲が良い相手ばかりではないのだから。

「そういう堅い所は変わらんな。お前に言われるまでもないが……いや、お前にも重要な理由があったか」
「はっ。多過ぎる戦力は内外に不和を招きます」
 苦笑する伯爵の柔らかい笑みが僅かに硬くなる。
魔王との戦闘に備えて拡充した戦力は、容易に他国の警戒心を招くだろうし、場合によっては信じて送り出してくれた国王陛下も讒言を信じかねなかった。各国上層部が少数ずつ派遣したつもりの戦力でも、義勇軍やら傭兵たちを吸収して大きくなっているし、勇者たち自身の戦闘力が懸念を抱かせる。俺は二軍落ちするくらいに強い方ではないのだが、選んだ魔法と経営手段も合わせれば決して甘くは見られていないだろう。

その懸念は早い段階で霧散させ、方向性をコントロールすべきであった。

「三大ゴーレムは一騎のみを残し解体。他のゴーレムも移動中の街の整備をした後は、順次解体してしまうべきです。少数が残って居れば防衛には十分ですので」
「惜しくはあるがな。だが、懸念材料ではあるか」
 神様はチートな加護はくれなかったが、元の世界での経験を変換してくれた。
俺が活きて来て蓄えた知識や技能を元に、こちらの世界での魔法や剣技などを取得させてくれると行ったのだ。だが、秀才でも天才でもなかった俺が覚えられる能力などたかが知れている。また、当初は十年も掛けるつもりはなかったので、ゴーレム製造用の魔法を覚えて、盾代わりや従者として使うつもりだったのだ。ロボットアニメなども好きだったし、攻撃魔法に一点突破しても魔王どころか魔将も倒せないレベルと言われて、取得する魔法をゴーレム製造など生産系で揃えたのである。

さて、ここまで来れば判ると思うが……。
俺はゴーレム魔法などの生産系魔法を活かし、これから第二の人生を送るつもりである。そのためには『英雄の一人』という肩書はあっても良いが、『恐るべき戦力で国家転覆を図るかもしれない』などという懸念は不要なのだ。だからこそ、さっさとその懸念を払拭してしまいたかった。
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