魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第九章

『セシリア、導師になる?』

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 留守中の事を色々指示してから王都へと出発した。
ホーセンスが戻って来た時はガブリールと一緒に飛行呪文をマジックアイテム化。もし俺の戻りが遅く成れば、空飛ぶ絨毯みたいな乗り物を作っておいてくれとも書き残している。

とはいえ移動速度は格段に早くなっているし、王都で引き止められない限りは問題ないだろう。

「本当に残って居なくて良かったんですか? 冷却のアイテムは絶対に売れますから幾つあっても良いと思いますけど」
「良いんだよ。それに少々の利益よりは、後の禍根を残さない方が重要さ」
 自分の呪文が役立つことが嬉しいのだろう。セシリアが尋ねて来る。
彼女を残して置けば確かに余った時間で冷却システムを増やすことが出来るが、幾つかの懸念が生じてしまう。例えば魔法学院へ進学したがっているホーセンスと意気投合してしまうとかな。それだけでNTRされるとは思わないが、懸念というものは無い方が良い。貴族の結婚では子供を産んだら愛人を許容するのが一般的だが、俺はそこまで人間が出来てないというのもあるだろうか。

まあ、一番困るのは別荘地での行動を許可出来てしまう事なのだが。一応はセシリアの持ち物にする予定なので、第二塩田とかの立ち入り許可を出せるからな。向学心が極まって、御願いされたら許可しかねない所がある(どうせゴルビーに仕えると過信して)。

「それに飛行呪文は飛行呪文で幾つあっても良いさ。山や海を越えて移動する必要はあまりないが、イザと言う時に偵察とか非常物資を運べるのは大きいからな」
「それはまあ……そうですけど」
「すねるなよ。気になるなら面白い呪文を覚えりゃいい」
「はい……」
 飛行呪文の価値を持ち上げれば、冷却呪文の価値が下がる訳ではない。
だが、ようやく見習いを脱出しつつあるセシリアとしては気になるのだろう。その辺りを宥めながら向学心を煽って行く。というかセシリアのやりたい事も大分定まって来たので、単純に留学したいという気持ちよりも、『足りないアレを覚えるために』と自分がすべきことを見定めてから赴いてもらう方が良いだろう。何かを克服したいと思う時に人は成長するが、漠然と勉強しても身につかないことが多いからな。

そういえば呪文を覚える話で思い出した。

「導師になる為の呪文に付いて決めたのか?」
「はい。『霧の壁』の呪文を覚えて、その後は『氷の壁』にしてみようかと思います。ゴルビーは暑いですし、イザと言う時に皆を守れますからね。時間があったら霧を噴き出す呪文も面白そうですけど」
「お、いいな、ソレ」
 霧の壁は対射撃用や対攻撃呪文の防御壁である。
防御力の強度はあまり高くないが、天候操作系の下位現象であり長時間成立するという点で割りと便利枠の呪文である。冒険者が覚えるには微妙なのだが、為政者側としてはかなり有用である。また、氷の壁や霧を噴霧する呪文もだが……俺の要望を取り入れているのもあるかもしれない。

まあ、以前から決まってたユーリ姫との婚礼が本格化したからな。自分の立ち位置に不安を覚えているのもあるだろう。

「その呪文に固執する事は無いが、オロシャの気候も合わせて動機と結果もレポートにまとめておくと良い。もし学院に行ったらその流れは最後まで参考に出来るし、同じような気候で生まれた連中は必ず関心を持ってくれる。氷の壁も悪くはないが、『付与』を教えてもらったら霧吹きの呪文を先に作ると良い。そしたら冷却システムそのものの論文にお前さんの名前を使っても良いぞ」
「本当ですか!? ありがとうございます、師匠!」
 釣った魚には餌を与えておくべきだろう。
せっかく俺の関心を引こうとしているのだから、セシリアが今一番欲しい物を提示しておくことにする。この場合の論文とは、一つの命題として『酷暑の地方で生活を改善するマジックアイテム一式』として、冷却システムを本当の意味で完成させるということだ。どういう意図をもって呪文とマジックアイテムを用意した、何が重要か一目で判る物だ。この論文を見て一揃い揃えれば、酷暑のある地方で確実に役立つと判るわけだな。

そして、ただのレポートと違って『完成した論文』は魔術師の評価を上げるのだ。何しろその論文を書き上げた知見があるということは、同様の研究で参考意見を聞くことが出来るという事。例えば、『極寒の地で快適に暮らすための呪文は何が必要か?』という質問をして、共に考えることが出来るという訳だな。

「そこまでやり通せばお前さんはもう一人前だよ。ゴルビー領主付きの魔術師を兼ねても良いし、魔法学院へ学びに行っても良い。本音を言えばずっと傍で一緒に研究してくれる方が助かるんだけどな」
「もう……褒めても何も出ませんってば。魔法学院かあ……」
「まあ次に覚える系統考えてからだけどな。師の言いなりはここまでだ」
「はい……ちゃんと考えてみます」
 付与の呪文をガブリールから習えば立派な導師になる。
そうなればセシリアも一人前の魔術師であり、無理に弟子として俺の周囲で奉仕を行う義務がなくなるのだ。もちろん食っていくためには何らかの職に就かねばならず、妾として輿入れしている事もあり、ゴルビー領主付きの魔術師になるのが一番早いだろう。そうなってしまえば冷却システムを作って売った時の販売益も一部はセシリアの物だ。

独自資金を手に入れ、その資金で何のマジックアイテムを作るか、そのためにはどんな呪文を覚えるべきかを考える事が出来るようになることがまさしく一人前の証なのである。

「重要な事だが、一人前になったという事は通過点に過ぎない。冷却システムが高額で売れるのも、この地方に合わせて用意とプレゼンをした俺の伝手だし、自分で思いつけるようになり別のアイテムを売れるようになれば足元を見られずに済む。『大成した魔術師』と呼ばれるには努力が常に必要な事を忘れないように」
「はい! まずは一歩ずつですね!」
 当たり前だがクーラーが馬鹿みたいな値段で売れるのは最初だけだ。
これまでオロシャには存在せず、作るとしても複数人の魔術師が必要。それも王宮魔術師に領主が関わっているとあって、間接的な人件費は膨大なものになる。実際には『そんな小銭なら幾らでも払ってやる。たくさん作れ』と言わせない為なので、魔術師が増えてきたら量産出来てしまうのだ。そうなれば価格競争になってしまうし、希少価値が減ればますますその傾向が早まるだろう。

そもそも協力しているガブリ-ルとて弟子を取るはずだ。
その事を考えれば、水系統以外の呪文を覚えて、生活に便利なマジックアイテムを本人の希望通りに作れるようにするしかないと言えるだろう。そこまでやって、セシリアという女魔術師が『大成した魔術師の一人』と呼ばれることになるのだ。

王都にある木工職人の工房に辿り着くまで、道々そんな話をしながら赴いたのであった。
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