魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十章

『ユーリ姫の領内巡検』

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 エリーを含めた見届け人たちは帰還して行った。
アンドラ領由来の老臣たちも一度帰還して王家の元を辞してからこちらに来るそうだ。ユーリ姫の子供が生まれたら直系の子孫に仕える事になるだろう。また王族の血が入った事を示す紋章が(王家の紋章の一部)、姫の直系には許されるらしい。

そして本来ならば屋敷などを案内する二日目以降の行事は、特に説明する場所もないので領内巡検になる。

「モフモフ!? マーちゃん! 触っても良い? 触っても良い!?」
「構わないぞ。ただし驚かさないようにゆっくりとな」
 ゴルベリアスをさっさと済ませて、マーゴットの親族が暮らすオアシスへ。
姫が来るまで子供を積極的に作らない方針だったこともあり、マーゴットも一時はこちらに居ることが多かった。このオアシスはマーゴットにプレゼントした扱いになっており、スロープ状に掘り下げた場所では、馬や羊たちが涼んだり水を飲んだりしている。

なお、一種の治外法権なのであまり良くないこともある。
水が豊富になったことで雑草が生えることもあるのだが、羊たちがやって来るたびに食べるから全滅する。フンも肥料にするから拾って燃料にするなという約束なのだが、このエリアだけは守られてはいない。遊牧民から言えば『何言ってるんだ? 家畜が食べる物も燃料も必要だろうが!』という気分だろうが、こちらにはこちらの計画もあるので聞いて欲しい所である。

「この子たち、いつもこんなに居るの!?」
「この辺りには草がないから何時もは居ないな。牧草でもあれば良いんだけど」
「善処はするが難しいぞ。何しろ生える端から羊が食う。牧草地を増やすとして、そのために食料である豆畑を潰すのかと言う話になる。もちろん一時的に牧草地にして、豆畑に戻すのを繰り返す手もあるんだが……そのためには近くの豆畑を喰わないとか、羊のフンを片付けるなとか聞いてもらわにゃならん」
 こう言っては何だが、根本的な所で矛盾が生じるのだ。
領主である俺としては緑化するための場所で根こそぎ食われても困る。遊牧民からすると当たり前の事をやってるのに文句を言われても困る。もちろん農民も豆や綿花を喰われたら困る。そうなったら領主としては領民である農民を優先するし、お客さんでしかない遊牧民には遠慮してもらう事になるだろう。それが当然になるし、治外法権エリアを認めるだけで精一杯だ。

その前提がある上で牧草地を増やすとしたらどうだろうか?
豆畑や綿花畑の連作障害対策で牧草地を許可するというのが理由になる。遊牧民が大人しく従ってフンを肥料にして、牧草以外は食わないと約束すると仮定しよう。そこまでやってようやく話し合いの土台に乗れるのだし、有効の為に渋々認めるのだから新たに要求しないとか、オルバの一族がゴルビー地方を攻めないという事が大前提になるだろう。

「そっかー。残念。ねえねえ、この子は次に何時来るの?」
「……ああそうだな。その子は予定があるが、弟か妹は来年来るかもな」
(今から肉になるなんて言えねえよな。余程気に入れば飼う事になるだろうけど……情操教育は難しいというか……何処かでこっそり、それとなく説明しないと駄目だな)
 ユーリ姫は兄妹と疎遠なのでマーゴットに懐いている。
マーゴットの方は重婚が当たり前の文化圏だし、子供は一族みんなで育てるからユーリ姫に優しい。だが、この地に連れて来られた羊が基本的には食肉になったり、良くて牧場に売られる事を前提している事を説明するのは躊躇われるのだろう。これが一族の者ならば普通に自然の摂理として教えるのだろうが、今までそんな事には無縁だったユーリ姫には説明し難いのだろう。

その辺りの事は俺がそれとなく手を回すべきだろうな。
出来ればアンドラ領ゆかりの老親たちがこちらに来たら、雇用する彼ら経由で説明する事になるだろうか。

「そうだ、ミハイル。本格的な水遊びに行くのはどうだ?」
「水なら一杯ここにあるじゃない。おうちにの周りにもあるよね?」
「海って言ってな。もっとたくさんの水があって、塩っ辛いんだ。今ごろセシリアが準備しているだろうから、飯を喰ったらその計画を建てるのも面白いと思うぜ。空中庭園から二泊三日くらいでゆっくり移動するとして、途中で何を喰うかとか、野外の場合は誰が何処で寝るかとか、話し合うところから計画するんだ」
 気まずくなりそうだったので、急遽、話を変更する。
マーゴットから降られたネタに俺が飛びつき、そのままでは不自然なのでキャンプ的なイベントとして愉しむ事にした。一日三食x三日の九回の食事の内、朝一番と最後の夕食は省いて、合計七回の食事を計画する。ここで出来るだけ同じメニューにはしないとか、逆に定番メニューはそのまま固定するとかでバリエ―ションが組めるのだ。いつも保存食の干し肉とか面白味も何ともないからな。

そんな話を地面に九マスの図形を描き、何を食べるかを話していくとそれだけで面白いものだ。

「何を作れるかは材料見て説明するから、ユーリが決めて良いぞ」
「何それ、面白そう! マーちゃんも来るよね!?」
「勿論だとも。これまでは此処にずっと居たが、これからはミハイルたちと一緒だぞ」
 こんな会話をしているとユーリ姫が娘に思えて来るのが不思議である。
マーゴットも小さな弟妹と分かれて寂しい所もあるだろうし、ユーリ姫本人も王宮を抜け出して作った友人たちと離れて寂しいに違いない。あまり大切にし過ぎて甘やかされた正確になっても困るが、そうでなければ構うまい。どちらかといえば、お転婆に育ち過ぎて出て行った切にならないかが心配である。

ともあれその日はオアシスに泊まってから、ゴルベリアスで調達可能な範囲で食材を購入して別荘地へと移動した。

「空中庭園にもあったエレベーターがある場所まで急げば二日、そこから漁村を大回りして一日くらいの行程だ。だからエレベーターを使うなら二日で行ける距離と言えなくもないな」
「今回はゆっくりだから、大回りで行くんだよね? 了解しました領主様っ」
 最初の食事時間に五本の指の図形と、九マスの図形を並べて説明する。
最初に矢印を入れる場所は小指の付け根、埋めるべきマス目は六つ目だ。おおよそそのくらいの時間で空中提案のある親指の付け根から、小指の付け根まで移動できる。そこから大回りするのに一日なのは、単純にデコボコした高原を進む方が時間が掛かるからである。山道を下ってしまえば、大回りであろうとも時間なんか掛からないのだ。

なお初回の食事は弁当であり、その日の晩は自分で火を熾しての焼肉である。

「よろしい。では良い子にしていたら出来る、次回に行く時の訓練を説明しよう。エレベーターで降りれば直ぐの位置にセシリアの別荘地があります。では、ここで実験できる事は何でしょうか?」
「え? 何? 前提を教えてくれないと判んないよ~」
「そうか? 私はもう判ったぞ。ユーリ、披露宴の前に何を見た?」
「え? え? あ……空を飛べば、直ぐだ―! 私もお空を飛びたいな♪」
 その上で、今回はぜったにやらせない、次回以降のオプションを告げることにした。
ユーリ姫はまだ子供だが、性格的な物であって、大人になる年齢になる。ここで我儘を抑えてちゃんと勉強するなら、目的意識を持ってもらった方が良いだろう。何か我儘を行ったときに抑えるために言うよりも、先に説明して置いて厳格な線引きをして、従えないならやらせないと言う方が本人の為になるだろう。何しろその場合はどんなに無茶を行っても許されないが、我慢して勉強すれば許されるのだから勉強するだろう。

それにこれから泳ぐことも考えれば、その方向性は先に説明しておいた方が良いのは間違いがなかった。

「そうだ。そこから飛べな直ぐに降りられる。まだそれは誰も実験していない。だが、空を飛ぶための訓練や、そのためにすべき事、してはならない事を覚えていない者にはやらせることはできない。ちゃんとみんなの言う事を聞ければ、空を飛ぶ訓練を受けても良い。それが終われば、次に別荘に行く時は実験をお前さんにやらせてやろう」
「ほんと!? 本当だね!? 嘘吐いたら駄目だからね!」
「本当だ。ユーリが良い子ならやらせると約束するよ」
 当たり前だが、そのまま別荘地に直撃されても困る。
あるいは海の方へ飛んで行って、戻ってくる前に墜落されても困る。あり得ない可能性だが、万が一にでも空飛ぶモンスターが出た時に、地上に降りることを前提にしないような奴には飛ばせられないのだ。

勿論そういう理由を付けて勉強させようとか、我儘を我慢させるとかいう目的もあるけどな。

「それでそれで、どんな訓練とかするの!?」
「空飛ぶゴーレムには時間制限があるっていったろ? 時間を間違えずに、誤魔化さずに数える事とか、家の二階まで降りてれば落ちても大怪我しない訓練とかだな。その辺を覚えないと、夢中で飛んでいたら落下しちまうぞ。約束を守れない人間にはやらせられない、訓練してないと飛ばせないというのは、ちゃんと意味がある事なんだ」
 実際には、時間が来たら最優先で降りるように命令してある。
だが訓練と言う意味でも、躾と言う意味でも、最低限の内容は身に着けてないと駄目だ。二階から落ちて大丈夫な訓練とかする意味はあまりないのだが、別荘地には下にプールとか遊水池を用意してるからな。訓練した上でそこに飛び込めば何とかなるだろう。転生前よりも鍛えた人間の耐久力は、こっちの方が高いので、そういう意味でも基礎訓練は重要であった。

こうして別荘地までゆっくりと二泊三日のキャンプを愉しみながら移動したのであった。
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