魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十章

『ユーリ姫の海水浴』

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 五本の指に例えられるゴルビー地方、その小指側。
その山は海からの潮風を遮断することで、塩を防いでくれるが、同時に水分もシャットアウトしてしまう。手首側から曲がれる増水があった時代には問題なかったのだろうが、今では荒野になった原因の一つだろう。

何が言いたいかと言うと、尾根に辿り着けば海が見えるという事だ。

「わぁ~水がいーっぱい! それになんだかしょっぱい感じがする!」
「それが海ってもんだ。しょっぱいのも塩が混じっているからだな」
 ユーリ姫に輝くような笑顔が浮かんだ。
オロシャの人間は海など見たことない者が大半だし、ずっと王都に居た彼女なら猶更だろう。こういうのを見ると今では見慣れた景色も良いものだと思える。

この光景を見せたくて少し急いだが、日程的には此処で一泊だ。
エレベーターの所に行き、ゆっくり行くから明日に到着すると伝言を送って置いたので、その内にセシリアも来るかもしれない(邪魔しない様に来ない気もするが)。

「海って塩が入ってるの?」
「塩の半分はそもそも海の水を煮込んで作るんだ。ゴルビー産の塩もそうだな」
 ユーリ姫に最初に会った時に、店の親父に渡した塩の塊を例に出す。
海の塩を煮出して固めた物であり、アレを砕いてスープに混ぜ合わせたのと、ちょうど逆だと簡単に説明した。ついでに氷と蒸気の説明をして、水の三様を解説する所までがセットだ。海水を煮込んで蒸気と塩に分離させ、蒸気が水になって雨やら雫に成り、その水を凍らせれば氷が出来るという風に。この基本形に魔術を応用したものが、ゴルビーの補助産業を作っているとも言えるだろう。

ただ、氷や塩水は利用できるが、流石に蒸気の利用はまだまだ先の話である。

「今日はこのまま此処に泊まって行くから好きなだけ眺めてると良い。もうちょっとで夕陽に変わるぞ」
「ホント!? うん! ずっと見てるね!」
 二日目の夕食はお肉たっぷりシチューである。
途中でトラブルもなく順調にここまで辿り着いたことで、いつでも食料を手に入れられるというのは大きい。何しろ必要に成ったらエレベーターで食料を持って越させれば良いからだ。

二人っきりの思い出作りなどは次の機会でも良いので、今回は食事を用意する側に回った。

「明日の朝は下に降りた場所にある村で塩田見学とか、干物やら練り物やら作る過程を見学するから、早めに食って寝ろよ」
「えー! まだまだ起きてたいよー。マーちゃんもそうでしょ!?」
「いや……。私は練り物見学とやらをしたい。あの、カマボコだよな?」
「そうだ。もし蟹が採れてたら、赤く色を付けたカニカマも作れるぞ」
 表向きの塩田であり漁村なので色々と可能だ。
こちらがゴーレムが桶を持って行くだけの塩田であり、呪文で熱を加える窯もあるが、別にそれだけしか作れない訳ではない。塩田で塩を作る過程を見た後は、魚の白身を蒸してすり潰す工程も見る予定だ。カマボコやカニカマは魚を材料にした練り物であり、塩やら香辛料他を混ぜて盛って行く事で作成できる。

それらは干物と合わせてゴルビーの新しい産物であり、適切に保存しながら町でも販売していた。

「仕方ないなあっ。じゃあ我慢したげる」
「眼だけ瞑ってずっと起きてるの駄目だぞ。確実に眠くなる」
「はーい。どころで、明日の朝ご飯は麺だったよね? 何?」
「塩やきそばだな。香辛料もたっぷりいれて食欲が出るぜ」
 なんてことを言いながら一日がまた過ぎていく。
朝に目覚めて案の定、ユーリ姫は寝ぼけ眼で塩田を眺めていた。むしろマーゴットの方が興味津々で、北の遊牧民の地でも出来るのかと聞いて来たので、『人手と鍋と燃料があれば』と伝えたら難しい顔をしていた。壁はともかく、定住しない遊牧民にとって、人手と薪を常に集め続けるのは難しいどころの話では無いからだ。

結局、交易で手に入れるか岩塩を手に入れるしかないと伝えた頃に、ユーリ姫が『岩塩って何?!』と尋ねるまでがお約束であろう。


「セシリア! 来たよー!」
「ようこそユーリ。ゆっくりしていってね」
「留守番お疲れ様。それじゃあプールに行って、水に慣れるところから練習するか」
 別荘地に辿り着いたところで先行していたセシリアが出迎えた。
ゴーレム水車を使った第二塩田を隠して居たりするこの村は、彼女の血統に与えたことになっている、ゴルビーの秘密基地的存在だ。南に出来た新領地の方へ人々の目が行くこともあって、こちらは益々隠れた場所として機能するだろう。もちろん秘密なのもあるが、他にも面倒なので第二塩田の見学はしない。

漁村の塩田よりも遥かに効率的なのと、締め切った小屋の中で延々と水滴が落ちていくだけの光景を眺めるのはシュールだからである。見ていてもつまらないし、万が一夢中に成ったら熱中症間違いない。

「水に慣れる? お風呂はあんまり好きじゃないかも」
「猫かよ。とりあえず水に慣れないと泳ぐ練習できないし、少しくらい泳げないと海で泳げんぞ。そして泳ぐことが出来ないと、海の上で船に乗るのは許可できんぞ。舟遊びをする気がないなら構わないけどな」
 首をすくめる姿はやはり猫を思わせる。
シャーっと警戒する前に、今回の規定を先に発表して居よう。いちおうは以前の段階から仕込みは入れているのだが、俺の口からは特に発表しない。あくまで、『今回の舟遊び』という目に見えた部分だけだ。

ゴルビーに来たばかりで無茶をする必要は無いし、将来を考えたら、まあ後からでも良いまである。

「ミハイル。空を飛ぶ場合は失敗に備えて泳げないと困るんじゃないか?」
「そうだな。途中で落下した時に備えて水の上に落ちる訓練は必要ではある」
「あーもう! じゃあ最初から慣れるしかないじゃん! うう……」
 マーゴットが忠告したところで俺がソレを肯定する。
以前に説明しているし、空を飛びたいのでなければ泳げる必要は無い。そのために泳ぐ練習をするなら今から覚えた方が良いし、どうせなら舟遊びも一緒にやったら面白いだろうとユーリにも判るのだ。

そんな風に意欲を刺激して、やりたい事の為に、自分から努力をさせることにした。

「ははは。むくれるなよ。舟遊びが終わっても、ゴーレムで飛ぶまでは遠いぞ。だが、ちゃんとやったら、探検隊が戻って来た後になるが、連中に貸してる空飛ぶ絨毯で少しだけ体験させてやるから」
「ホント? ホントだよね。嘘じゃないよね? 嘘だったら許さないから!」
「少しずつ慣れて行きましょうね。最初は顔を水に付けるところからですよ」
 なんてことをやりながらちょっとずつ水泳の練習をしていく。
若いし運動神経も良さそうだから、水に慣れればあっという間に泳げるはずだ。まずはプールで水に慣れ、ちょっとずつ泳ぐ練習。そして遠浅のゴルビーの砂浜へ繰り出すことにする。

なんというか、愉しんでいるユーリ姫を見ていると、海水浴を観光業として新領地に作るのも良いかと思えてくるくらいだった。

「わわ……なんだろ。水が向こうに行ったり、戻って来たりしてる!? なんだか歩き難いよ~。本当にここで泳ぐの?」
「それは波って言うんだ。無理に泳がなくていいから、愉しんでれば良いぞ」
「はーい」
 あまり詰め込み過ぎるのもオーバーワークだし、このくらいにしておこう。
泳ぐのも空を飛ぶのも、将来の目標にしておけば良いさ。移動出来る筏はあるが三胴船も戻って来てはいないしな。

ちなみに三胴船は新領地である中継地点や本格的な港の問題があるので、二隻目の材料を発注中だ。

「ふー。ボク、お腹空いて来ちゃった。今夜のご飯はなあに?」
「魚や貝のバーベキューと鍋だな。ここでは易いからどっちも食べ放題だ」
「わーい!」
 こうしてユーリ姫の領内巡検は無事に終了する。
また来ることになるだろうし、その時は三胴船に乗せて少しくらい遠出しても良いだろう。
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