魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十章

『招かざる来訪者』

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 別荘地への滞在だが、予定よりも少し延長していた。
別にユーリ姫が泳げるようになって、空飛ぶ絨毯に乗りたいと粘ったわけではなく、『新領地を海水浴の観光地にする』というアイデアを形にする為だ。決してユーリ姫の我儘を叶える為ではない。

冒険者たちが戻って来るころまで時間が掛かったので、結果として叶えることになってしまっただけである。

「中継拠点に道が通る頃だから、向こうは観光地として解放しようと思う。海水浴場を臨んだコテージにするとして、何が必要だと思う? 浅いプールと深いプールは用意するつもりだ」
「安全に泳げる場所は欲しいよね。海はまだ怖いもん」
「この村は私達だけのものなんですね。安心しました」
 情報の受け取り方一つ取っても人によって違う。
ユーリ姫はエポックメイキングな町造りに興味があるようだが、セシリアは別荘地に他人が基本的に入って来ないことに安堵している。この時代の人間としては保守的なセシリアの方が正しいと言える。一般人は自分が居る村を動くことは殆どなく、一部の人間が都会に必要な物を買いに行って供給するか、行商人が訪れるというシステムである。

なので今回作る観光地も一般人向けと言うよりは、オロシャ国内の貴族が使う避暑地として開放することで、海の独占を避ける狙いがある。

「後はおうちみたいに涼しいと良いよね~」
「それと使用人が泊まれる場所や、食料庫ですかね?」
「その辺りはもちろん用意するつもりだぞ。貴族連中だけ来ても何もできないからな。騎士志望の子弟が自分達だけで合宿するなら話は別だが、その時もヘルパーを用意しておく必要はありそうだな」
 ユーリはプールの浅い場所に背中を預け、セシリアはお盆を持って来た。
それぞれに着眼点が違うという意味で、自分だけで考えずに尋ねてみた甲斐があると言うものだ。どのみち余力があるわけではないし、また怒られないようにレオニード伯を介して連絡をしておく必要があるだろう。

砂の上に伯爵以上が泊まるコテージを王国関係者の寮を一つずつ、男爵と上級騎士が泊まる場所が幾つか、その周囲に使用人たち専用の待機部屋としての平屋を……と描いて行った時のことだ。

「ミハイル。船が戻って来たぞ。特に何も合図は寄こして居ない」
「ということは無事に遺跡発掘が終わったみたいだな」
「わーい! 間に合った! これでお空を飛べるんだよね!?」
「そう高くない場所までだけどな」
 運動がてらに馬を走らせていたマーゴットが戻って来た。
どうやら南へ行けるだけ走らせていたらしい。このことでもっとも喜んだのは頑張って泳ぎを練習していたユーリ姫だろう。冒険者たちに預けていた三胴船に乗る事が出来るし、同じように預けていた空飛ぶ絨毯が戻って来るからだ。仮に攻略失敗で再攻略に出かけるにせよ、直ぐに出ることはあるまい。

暫くは二つを使ってユーリ姫と遊ぶかな……そう思っていたところで水が差された。

「……ところで、何故あなたがそこに居るのかな? ラファエロ・ゴメス卿」
「いやあ、何処かで聞いた言い回しですね。ゴルビー伯には教養がある」
 三胴船が見えた所で迎えに出たのだが、見たくない顔がそこにあった。
慇懃無礼な嫌味マンであるが、それ以上に他国の人間にゴーレム動力である三胴船を見られたことが問題だ。いや、見られるだけならともかく、どうして搭乗なんかしているのが判らない。

そう思いつつ、冒険者たちを見ると実に申し訳なさそうな顔をしていた。

「申し訳ありません。自分が独断で登場を許可いたしました」
「いや、悪いのはオレだ。故郷で見た顔だからって声掛けちまって……」
「その辺りはもう良いさ。二人の立場で断れる筈がないからな。咎めるとしたら他国の機密事項に迂闊に……いや、平然と搭乗するそこの男の感性を指摘すべきだろう」
 転生前の国……日本あたりで少し考えてみて欲しい。
未知の動力で動く潜水艦なり空母があったとして、外交官の職員が外交官ナンバーで接近し、『あれあれ日本さんは原子力空母なんか作ったんですか? アメリカさんに言いつけちゃいますよ。原子力じゃないというなら、私に確認させてくださいよ。原子力じゃないと判れば安心しますから』なんて言われる訳だ。筋から言えば断れるとしても、現場の人間に『大使館通して政府の許可貰って出直して来い』とはその場で返せるはずがない。

問題なのはアメリカが抱く日本への反感ではなく、オロシャ王室がゴルビー新伯爵に叛意を疑うという、讒言がカードに成る事である。

「いやいや、伯爵の新領地を見に行きましたね。最初はどれだけイル・カナンに近いかを確認に向かったんですよ。そしたらですねえ、凄いモノを発見しちゃいまして。これは是非とも拝見しないといけないなあと思ったわけです。はい」
(胡散臭いな。確かこいつはイル・カナンに反感がある筈だ。……なら?)
 見えている言動は嘘で、イル・カナンに反感を抱かせようとしている。
そう考えればワザとらしい物言いも、歯に衣を着せていても滲み出る慇懃無礼さは理解できる。こちらも読み合う必要が無くて楽だし、俄貴族だから助かりはするのだ。だが、それでは今回のスパイ行為はあけすけ過ぎる。

これでは即座に『出ていけ!』と言われても仕方が無いだろう。それで重要な情報をイル・カナンに伝えて、オロシャ王家経由でイル・カナンにも三胴船を建造させたとしても、彼の目的には合致しないと思われた。

(待てよ……目的。そもそも、こいつの目的はなんだ?)
(イル・カナンの人間にイラ・カナンの名門が使役させられている)
(そこに反感を覚えるのは当然だが、国が滅びた以上は仕方が無い)
(まっとうに考えると、イラ・カナンの復興を目論んでいるから、イル・カナンではなく自分たちの方に力が欲しいってところか? ……だが、それでは今回の行動は過激すぎる。では、どうして、そこまでして態度を露骨に見せたんだ? 何か伏線でもあったか? 現時点では強力な力が欲しいとしか思えねえ。力……何の為の?)
 亡命者出身の不真面目なスパイが、利敵行為ではない程度に怠ける。
慇懃無礼な男の行動は、その範疇で留まっていたと言える。それが露骨に動いたのだから、まず思いつくのは亡国の復興だろう。好き勝手しているイル・カナンの貴族ではなく、後進国だと思っているオロシャを利用してやろうというのは判らないでもない。オロシャからしても、兄弟国がまとまるよりは、バラバラの方が良いからだ。

亡国の復興も目的であるにせよ、力はもっと重要と言う事ではないかと思われる。では、力を何に使うのか?

「そんなに魔物を退治に行きたいんですか? 離れ小島にある領地なのか、それとも魔族の島を奪いたいのか知りませんが」
「エストベンド・エサクタ! 素晴らしい。ええ、ええ。その通りですとも」
 強力な力を今使うとしたら、やはり魔物退治しかない。
国家間の戦いでは少々の力に意味などない。特に、三胴船は海上移動力の問題になる。ならばどうして、ソレが必要になるのか? それは彼の故郷であり地盤となるべき旧領地が小島であったり半島であるのか、あるいは魔族の島を先に叩かないとイラ・カナンを取り戻す意味がないと思っているかのどちらかだ。他に理由があるのかもしれないが、俺には思いつかなかった。

ともあれ、当たらずとも遠からずと言う所だったようだ。少ないヒントでよく思いつきました……とでも言いたそうな顔をしていた。

こうして楽しい海水浴は終りを告げたのである。
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