魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十一章

『想定される問題への回答例』

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 研修はそろそろ終わりごろに来ている。
本当は何時までもアイテムを作って居たいのだが、現地に派遣して成果を得る為には、その前段階をやっておく必要があった。

ひとまず各人の魔術の腕前を見たので、必要な時があれば呼べば良いさと開き直る事にした。

「実地研修の前に過去の記録からディベートをやってもらおう」
「議論する内容は二つ。現地で必要とされる呪文と、生活の為の呪文だ」
「例えば攻撃呪文。あっても損はないが、別に武器で良いならば要らない」
「だが幽霊や精霊の様な相手であったり、大多数の敵が居るならば是非とも欲しい。もっとも、魔法の剣が用意できるならば魔法の剣の方が効率が良い。前線に術者や呪文を使えるアイテムを送ってもその場で使用できる余裕は一発か二発だが、剣ならば騎士次第で何度でも使えるからな。ゴーレムと違って狭い場所に入れるのも良い」
 俺がゴーレムを引き合いに出すと何人かが笑った。
ゴーレムは魔法生物なので幽霊を殴れるが、質量の無い幽霊を巨大なゴーレムが追い回すのは滑稽だ。全ての幽霊が建物を透過できる訳でもないのだが、幽霊を倒そうと小屋ごと破壊する様はさぞや喜劇であろう。だが、使い手が想像して備えておかないと、ゴーレムという暴力は用意にそんな事をしでかす。

また、魔法の剣の方が効率良いのに、魔術師が赴くのは、むしろそちらの方に理由が必要だろう。

「では最初の現地の問題を実例から尋ねて行こう。冒険者が未知の森の奥を探して居ると、毒草の生い茂る中に魔物が隠れていると判った。毒草は花弁や花粉に毒があり、根から葉の部分は少量ならば薬草に成る。この場合、彼らは何を欲していただろうか? 魔族の島へ渡る為の我々としては本部でどう考えるべきか考えてみてくれ」
「これは判り易いですね。毒消しの呪文ですよ」
 最初の質問は魔術士にも縁がある、毒草であり薬草である植物の話だ。
魔術を扱うならこの手の植物には縁があり、例え薬草師や錬金術師になる気がなくとも、高い確率でお世話になる。だから想像し易いし、何も考えずに脊髄反射すると今回の様な不足になる訳だな。

決して間違いではないが、この判例の時に望まれている答えには成って居ない。

「悪いが、その回答は百点満点中の三十点に留まるな。どうしてか判る者?」
「はい! 毒草の中から特定するなり、追い出す方法でも良いかと」
「それを言うなら毒に対する耐性を身に着ける呪文でも良いよな」
「ゴルビー伯じゃないが、別にゴーレムを送っても良い筈だよな」
 他者の回答を見れば判ると思うが、この状況では様々な呪文が有用である。
毒消しの呪文はかなり効率が良く、動物の毒でも植物の毒でも同じ呪文で悪影響を消し去る事が出来る。専門の薬草師だったり地方の腕前が低い魔術士だと、植物毒や鉱物毒専用のポーションや呪文を作っている者もいるが、いずれ魔術士から魔術師に成長しようとする最適解として毒消しの呪文を挙げる事自体は間違っていないのだ。

だが、今回は試験ではなくディベートである。

「無事にその毒草の群生地を抑えれば我々の利になる。だから攻撃呪文で薙ぎ払う事が唯一の問題になるな。先ほどの答えも悪くはないが、一長一短の両方がない最適解というところか。教本としてはそれで正しいんだが、思索の場としては三十点だ」
「次は『模範的な回答例としては』と追加しますよ」
「ははは。そりゃあいい」
 そもそも、今回は実地研修の前に行うディベートなのだ。
色んな状況に対する考えを討論しようというのに、『この答えはこれが最適です』というのではお話にならない。最適解を誰も出せないのでは問題があるだろうが、議論を封じかねないのは問題だ。

まあ、これでだいたいの方向性としては判ってもらえたと思う。

「では少しハードルを上げていくぞ。同じく冒険者の話だが、亜人種を中心とした魔族の拠点を見つけた。ほとんどはゴブリンであったが、頭目であるダークエルフは姿隠しの呪文で様子を伺ってしまった。彼らが欲しがっていたであろう対処法と、支援する我々本部として考えてみてくれ」
「ええと……間違いなのはディスペルで、正解は探知系ですよね」
「熱源探知に振動探知ってところか? 確か音も拾えたよな?」
「代わり処としては知覚力の強化系だな。才能がある奴が必要だけど」
 流石に考え方を学べば間違いを犯す者は居ない。
ディスペル・マジックで呪文を失効させる方法は、対象を指定できないので使えない。それ以外は殆ど問題なく、燃やして問題のない場所なら拠点ごと攻撃呪文で壊しても良いくらいだ。ただし、その方法は人質とか相手の資料とかが失われてしまうので、出来れば避けたい方法ではある。

そう思ってたところで、先ほど独系の呪文と答えた魔術師が尋ね返して来た。

「確認しますけど伯爵ならどう答えます? やはりゴーレムですか?」
「その場合は方向を指で示させるな。ゴーレムは魔法的な知覚を持っているから姿隠しに意味はないが、同時に姿が見えない事が何故問題なのかを理解できない。だから正しい命令が必要になる。ちなみにだが、君たちの答えを総合することで、小麦なりワインを敵が隠れたと思わしき場所に投げつけるのもアリだな。投げつけた物が消えたりはしないので、探知呪文や知覚呪文の代用には成る」
 俺は感覚共有の呪文があるので、実はゴーレムに示させる必要は無い。
だが、その事をワザワザ教えなくても良いだろう。使い魔との感覚共有は前提として使い魔契約の呪文が必要だし、滅多にお目にかかる事はないので説明することもない。だいたい使い魔を連れてたら、使い魔の高い知覚も利用できるから、この場で説明しているだろうしな。

ともあれ、こんな感じでディベートは進んでいった。

「だいたいこんなものかな? 後は実地でオロシャのあちこちを歩いてもらおう。とはいえ途中までは列車を使って良いので、二等乗車券を各自に何枚か渡しておこう。誰かに売って後は歩きというのもアリではあるが、指定した日時までに辿り着けよ。里帰りとかもそれrまでに済ませておくこと」
「「はい」」
 解散した後は質疑応答をしたり、気の早い者はチーム分けに口を出した。
それぞれを王宮であったり故郷に寄って行く許可を出した後、支度金や乗車券に、何より重要なチェックポイントの指定をしておく。後は良い大人なのだから自由行動に任せ、適正として『ちゃんと期日までに辿り着くか』とか『途中で何を見たか』などを確認することになる。

それらを匂わせることは途中で何度も口にしているので、『ボーっとして待って居てました』なんて馬鹿な事を言う奴は居ないだろう。

「ゴルビー伯爵。実はイル・カナンで問題が起きたと……」
「おいおい。まだ軍は派遣されてないだろう? 交渉が早まったのか?」
「いえ……我々に提供するための物資を難民たちが奪って分けてしまったとの事です。その……現地だけでなく王宮でも様々な噂が飛び交っており、向こうの貴族が考えた言い訳であるとか、魔族の陰謀であるとか定まっては居ないとの事」
 魔術師たちを送り出した後、こんな話が俺の耳に飛び込んで来た。
どうやら状況は俺に何もしない事は許さないようで、スパイを編成して派遣して居なかったことで、こんな馬鹿馬鹿しい騒動に巻き込まれてしまった。

というかさ、まだオロシャは軍の出発どころか合意すらしてないんだが。

「仕方ないな。農業圏から宅会えている物資を買い取っておくことにしよう。本来は飢饉に備えたり、価格下落対策なんだがな」
 仕方ないのでその場で指示を出し、イル・カナンで補給できないという馬鹿馬鹿しい状況にし備えるのであった。
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