江ノ島の小さな人形師

sohko3

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誰からも認められない人形師

稚児が淵

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「葉織くん……もしかして、いつもこんなことをしているの? 
見ず知らずの人のもやもやを解消して」

 羽香奈の心の靄を人形に変えて、心を楽にしてくれたように。

 時にはこんな風に、トラブルに巻き込まれてきたのだろうか。

「江ノ島って観光地で外から人がたくさん来るし。
神社で願い事をする人の中には、さっきの人みたいな深刻な悩みの人もよくいるから……」

「今日みたいに危ないことだってよくあるの? 
いくら人が助かるんだとしても、葉織くんが傷ついてまでしなくちゃいけないの?」

 いつまでも階段に座っているのも迷惑だろうという判断か、葉織は立ち上がった。

 歩きながら話してもいい? と言うので頷く。

 目の前の階段を上がりきると、そこは「上の宮」(中津宮)。

 豊かな樹木を背景に、朱色の塗りが鮮やかなお宮だ。

 葉織が一礼するだけで通り過ぎるので、お参りはいいのかと訊ねると、

「次のお宮の方がオレ達の家に近いし、じいちゃんもあっちが本宮さんだって言ってたから、そっちでお参りすればいいかと思って」

 大事な話の途中だというのに、葉織がさりげなく「オレ達の家」と言ってくれたのが、羽香奈は少し嬉しかった。

 もう、あっちの家はわたしの家じゃない。

 二度と帰らなくていいんだって、実感を得られたから。


「江ノ島の一番奥まで歩いていくと、稚児が淵っていう岩場がある。
小さい頃、近所のお兄ちゃんと一緒によく遊びに行ったんだ」


 四年前。

 葉織は小学二年生で、お兄ちゃんは今の葉織と同じ、六年生だった。

 稚児が淵には江ノ島の最奥、「岩屋」がある。

 江ノ島神社発祥の地と伝えられ、自然の洞窟とはいえ江ノ島神社の本宮である。

 この当時は落石の危険性のため数十年に渡って閉鎖されていた。

 しかし、岩屋に繋がる橋の通路は歩くことが出来た。

 お兄ちゃんは釣りが趣味で、夏休みともなると毎日のように、稚児が淵で釣りをする。

 葉織はそれについていって、周囲をうろついて魚を探したり岩と岩の間にたまった海水の水たまりを観察したりして楽しんでいた。

 葉織は岩屋へ繋がる通路に、毎日同じ少年が佇んで海を眺めているのに気が付いた。

 少年には黒く禍々しいもやもやがつきまとっていた。

 そういう靄を発している人は、心に何らかの負担を抱えている。

 幼い葉織は現在ほどその法則性を把握していなかったが、それだけはなんとなくわかっていた。

 そうだとしても見知らぬ人に接触するのは怖くて、嫌な予感を覚えながらも数日間、そのまま様子をうかがっていた。
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