江ノ島の小さな人形師

sohko3

文字の大きさ
11 / 98
誰からも認められない人形師

中津宮の階段下

しおりを挟む
「なっ……
なんてことをするんですか、あなたっ。
こんな、子供に手を上げるなんて」

 自分の身に受けるなら堪えられたのだろうが、女は見ず知らずの子供を巻き込み、傷付けたことにショックを受けたらしい。

 言葉ではそう言いながらも葉織への気遣いもままならず、顔を手で覆って涙をこぼす。

「う……うるさいっ。
その子供が勝手に入ってきたんじゃないかっ」

 羽香奈は葉織に駆け寄って膝を着き、頬の状態を確認する。

 薄ら赤く腫れているが、傷はなさそうだ。

 咎めるつもりで男を睨みあげ、口を開こうとしたところで。

「……いい、オレが勝手に、したことだから」

 左の手のひらを男に向かって見せつけて動きを制しながら、立ち上がる。

 葉織の右腕は何かを抱えるような、不自然な空白を感じる体勢になっている。

 羽香奈はもしかして、と思う。

「行こう、羽香奈。騒ぎになる前に」

「でも……」

 すでに、現場を目撃したらしい人が社務所に向かっているのを葉織は見ていた。

 放り捨てたバケツのことはすっかり忘れていたが、遠巻きにしていた内のひとりが散らばった流木をそこにおさめてくれていたところだった。

 遠慮がちに近づいてきたその人からバケツを受け取り、軽く頭を下げてから、葉織は羽香奈の手を引いて走り出した。


 弁財天(奉安殿)も八坂神社も参拝せず通り抜け、階段を駆け下りていく。

 そんなに遠くまで逃げて身を隠さずとも、追われたりはしないだろう。

 そう判断した葉織はとりあえず、そう離れていない中津宮の階段下に腰を下ろす。

 葉織はさほどでもないが、羽香奈はすっかり息が上がっていた。

「はっ……織、くんっ。
だいじょ、ぶ、なの?」



 葉織はとりあえず、持っていたバケツを傍らに置いて、ポケットに右手を突っ込む。

 しばらくは、左手の空白をじっと見つめていた。

 そこへぽいっと木片をいくつか投げ込む。

 先ほど、羽香奈の人形を作った時と同じように……男の人形が形作られた。

 男は跪いて、祈るような姿勢で、胸を押さえている。

 そんな人形が出来上がった。

「あの人……心臓が悪いんだって。
あと何か月かで死んじゃうってお医者さんに言われてて。
奥さんに当たっても仕方ないってわかっていても、辛くて、酷いこと言っちゃうんだって……」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...