江ノ島の小さな人形師

sohko3

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江ノ島の夏休み

麦わら帽子

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 ていうか、毎日エボシ岩が見えているかいないかなんて、ちゃんと考えたことなかったや。

 羽香奈はよく見てるなぁと感心されてしまう。

 数日前の羽香奈だったら恐縮してしまったかもしれないが。

「ずぅっとここに住んでいた葉織くんがまだ気付いてなかったのに、わたしが先に見つけたってことだよね。
なんだか嬉しいな」

 素直に受け取って喜んでみたら、葉織もちょっと嬉しそうに笑ってくれた。


 羽香奈が二度目に富士山を拝めたのは、江ノ島に来てから七日目のことだった。

 はしゃぎながらそのことを葉織に報告すると、

「じゃあ、前に約束した熱帯植物園、今日行こっか」

「今日?」

「せっかく中に入るなら展望台に上るだろうし、だったら一番眺めのいい日にした方がいいんじゃないかと思って。
こういう天気を待ってたんだ」

「葉織くんって、けっこう色々考えてくれてるんだね……」

「考えてるっていうか、天気見て行動するのが癖になってるだけかも」

 それと、祖父母が土産店を経営していた時に、来店した客が江ノ島について質問してそれに答えたり観光のアドバイスをする姿を見て育ったせいかもしれない。

 確かに、いくら地元に住んでいるとはいえ、小学生が知っていなくても良さそうなことを訊ねても毎回きちんと答えてくれていたなぁと羽香奈も思い出す。


 熱帯植物園に行ったらいいと提案したのは元々祖母・ハツだったので、今日行くことにしたいとふたりで報告に行く。

 約束通りハツは入場料金プラスおこづかいを渡してくれたのだが。

「今日はいつもより雲が少なくて暑くなりそうだから、通り道の商店で麦わら帽子を買っておあげ。
羽香奈ちゃんに。
それと、葉織のもねぇ」

「え~、オレのはいいよぉ。
帽子かぶるの好きじゃない……」

 帽子をかぶってると逆に暑苦しい、なんでかぶらないといけないの? と、珍しく口を尖らせて反抗する。

「わがままを言うんじゃないの! 
日射病になったらどうするんだい」

「もう何年もかぶってないけど、そんなのなってないのに……」


 幼い頃は母や祖母の言うなりに夏場は帽子を被っていたが、成長して使っていた帽子がサイズアウトしたのをいいことに、数年はかぶらずに乗り切っていたという。

「まったくもう。
羽香奈ちゃん、葉織がちゃんと自分の帽子も買うように見張っといておくれよ」

「はっ……はい!」

 葉織が年齢相応にわがままを言うところが見られたのも、ハツに頼られたのも嬉しくて、羽香奈はごきげんで道を歩く。

 葉織はちょっと不服そうに羽香奈についていく。

 もう江ノ島の道もすっかり覚えていて、こうやって先んじて歩くことだって出来るようになった。


 麦わら帽子を買うように言いつけられた葉織が羽香奈を案内したのは、下道への入り口近くのいくつか商店が密集した場所だった。

 その内の一軒の土産ものと雑貨を置いた店を選ぶ。

 店先の隅っこに麦わら帽子が山積みになっている。

 子供向けのものだけでなくメンズのスワローハット型のものも一緒くたで。

「この中から気に入ったの選んでいいよ」

 葉織は未だに麦わら帽子に興味なく、羽香奈に先に選ばせる。

「麦わら帽子って、茶色っぽい色しかないと思ってたんだけど……」

 積まれた帽子の中で一枚だけ、白い色が覗いていて興味を引かれる。

 上に積んである十個くらいの帽子を葉織が持ち上げてくれて、羽香奈は白い麦わら帽子を手に取って、被ってみる。

「いいじゃん。
その色、羽香奈に似合ってる気がする」

「そ……そうかなぁ? 
じゃあ、これにしようかな」

 軽い調子だが、好きな男の子に身に着けたものを「似合う」と言ってもらえたら、照れずにはいられない。

 帽子を被っているので影になって、ほんのり染まった頬に気付かれませんようにと羽香奈は祈る。

「それで、葉織くんはどれにするの?」

「……忘れてなかったかぁ」

「こーんな数分で忘れるわけないよーだ」

 照れていても、ハツからのお願いはしっかり果たす。

 葉織は帽子の山の一番上にあったシンプルな麦わら帽子を被って、店内に入っていった。

 顔見知りなのか、被った状態でもお会計をしてもらえて羽香奈の元へ戻ってきた。
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