江ノ島の小さな人形師

sohko3

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江ノ島の夏休み

お兄ちゃん

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「なんだよー、
俺のこともう紹介してくれてんのー?」

「は、はい。
葉織くんがもっと小さい頃にお世話になったって」

「羽香奈ちゃんだっけ? 
よろしくね」

「よっ、よろしくお願いしますっ」

 ソファーの上にきちんと正座し直して、頭まで下げる羽香奈に「そんなかしこまんなくたっていいってー」と苦笑する。

「この雨でどうせ暇してんだろうと思って、溜まってたマンガ持ってきてやったぜー」

「四冊もあるじゃん。ありがとー」

 お兄ちゃんが学校の行き帰りに買っている、週刊のマンガ雑誌。

 読み飽きたら捨てるしかないそれを、お兄ちゃんは葉織に持ってきてくれるという。

 分別して捨てる手間を葉織が肩代わりするという条件で。

 たかだか捨てる手間くらいで、そして最新話をすぐに見られるわけではないという点を差し引いても、お金を出してもいないのにマンガが読めるというのはありがたいことだ。

 葉織自身はマンガが大好きというわけではないにしろ、貴重な退屈しのぎの要素だからありがたく受け取っている。

「オレは先に今日の宿題片付けたいから、羽香奈、先に読んでいいよ」

「ありがとう。
有名な雑誌だけど、わたし、読むの初めてだから楽しみ」

「バリッバリに男向けの雑誌だけどいいのかねー。
あ、羽香奈ちゃん? 
ちょっと玄関先まで付き合ってくんないかな」

「え? はい」

 元は店舗だっただけあって、玄関先には雨避けがついている。

 玄関を閉めてお兄ちゃんと羽香奈が並び立っても濡れずに済む。

 そして、強い雨の音によって、屋内にいる葉織のところまで会話は届かないだろう。

「波雪おばちゃんが急に死んじゃって、俺もけっこうショックでさ。

なかなか葉織の顔、見に来れなかったんだよね。

じいちゃんもばあちゃんもいつかは先に死んじゃうだろうし、そうしたら葉織はひとりぼっちだなって心配だったんだ。

羽香奈ちゃんみたいな親戚がいるなんて知らなかったから安心したよ」

「そうだったんですか……」

 波雪はまだ三十代の女性で、持病もなく、急に亡くなってしまうなんて意識して暮らしてはいなかっただろう。

 彼女の周囲の人々も、波雪自身も。

 生命保険だけはもしもの時の葉織の立場を思いやってきちんと加入していたため、すぐに経済的に困窮はしないだろう。

 けれど、羽香奈がいなければいずれ天涯孤独の身になりかねなかった。

「葉織のこと、末永く宜しくね。
……俺も、高校卒業したら島を出るだろうから、今みたいに頻繁に顔見に来れなくなるだろうし」

「……はいっ! 任せてください!」

「ははは……
羽香奈ちゃんって一見大人しそうだけど、
頼りになりそうな気がするー」

 お兄ちゃんは傘をさして、笑顔で羽香奈に手を振って去っていった。
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