江ノ島の小さな人形師

sohko3

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江ノ島の夏休み

山二つ

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 挨拶回りを終えた帰り道。

 夏休みの江ノ島はそうそうすぐに日は暮れないので、午後四時くらいになっていたが未だ空は紺碧だ。

 陽射しもきついが、ハツに言われてふたりとも麦わら帽子を被っているので顔だけは陽射しから守られていた。

 かつては都会暮らしで外遊びもしてこなかった羽香奈の肌は真っ白だったが、今は腕だけはこんがり日焼けしていた。

 なんだかそれがどこか誇らしく思える。

「あ……」

 そんな喜びも、葉織がかすかな呟きと共に足を止めたので吹き飛んでしまう。

 最近は下道を通っていたし、海岸に遊びに行くのも人の少ない朝方で、観光客の多い場所に近寄る機会が減っていた。

 ちょっと事情でお店巡りをして、観光客の通る道を選んで歩いたというだけで、さっそく葉織がその目に厄介な色を見てしまう。

 羽香奈は葉織の特別な力を尊いと思うものの、その力のために彼が傷つくのは本当に心から辛かった。

 ふたりが今立っているのは、山二つの展望台に続く階段の最上段。

 件の人は中学生くらいに見える少女で、展望台の柵に手を着いてぼんやりとした眼差しで景色を眺めている。


「あそこの人……
黒いもやもやが頭を取り囲んでる」

「頭?」

「この前の人は心臓だった」

 要するに。その人の悩みの原因になっている場所に、その靄は現れるのだろう。

「頭についてるなんて、こっそり取るの難しくない?」

「どうしようかな……」

 羽香奈も大概の心配性だが、葉織もこういう場面で「難しくなんかないよ」と虚勢を張るような性格でもない。

 ごくごく素直に、難しいということを否定しないので、羽香奈はこっそり溜息をついてしまう。


「だったらわたしがあの人に話しかけてみるから、葉織くんは後ろからこっそり取ってあげてよ」

「羽香奈が? なんで?」

「見ず知らずの人に突然話しかけられるにしても、年下の女の子が相手だったら、男の子より警戒心が薄れそうだから」

 葉織が善意でそうしているのはわかるが、観光地に来ている時に見知らぬ人に突然声をかけられたら警戒心を抱くのは無理もない。

 少しでも相手の気分を害さない配慮だって必要だと思う。

 それは羽香奈にとって半分本音で、半分建前だ。

 言っていることは事実だけど、それ以上に、葉織ひとりに無理をさせるなら自分も協力したいという気持ちの方が大きいから。

「ごめん……
なんだか変なことに付き合わせて」

「謝らないでよ。
葉織くんが悪いんじゃないもん」

 あれ? なんだか全く同じこと、前にも言った気がする。

 そう思って羽香奈はちょっと笑ってしまった。

 こんな時になぜ笑うのかわからなくて葉織は不思議そうだ。
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