44 / 98
墓の中へ
お焚き上げ
しおりを挟む
その後、羽香奈は葉織に頼まれて、半蔵に「今年のお焚き上げは自分達ふたりだけでしたい」と伝えに行った。
まだ泣きはらした顔で祖父母の前に出られないというので、羽香奈ひとりで。
「これからは、葉織くんとわたしだけでどんなことも出来るって、おじいちゃん達に見せて安心させてあげたいって……
そう、葉織くんが」
葉織に頼まれた言葉をそのまま伝えると、半蔵は重苦しくひと息ついた。
ハツは何の話かわかっていないようで、にこにこと、あさっての方を見ている。
半蔵はいつにもまして険しい表情だし、毎年一緒にしてきたことから外されるのが嫌なのかなと羽香奈は不安だったが、それは見当違いだったとすぐに知る。
おもむろに床に膝を着いた半蔵は、老人にしては背も高いので、羽香奈と同じ目線の高さになる。
がっしりと痛い程に強く、彼女の肩を掴む。
その指先は小さく震えていた。
「羽香奈……
わしらの家に来てくれて、ありがとう。
これからも、葉織のことを……頼んだよ」
「……は、い」
葉織にとっては母を、祖父母にとっては娘を、それぞれ手放した日だった。
悲しみの中にいるのは彼らも同じだった。
そして、羽香奈は感じていた。
先ほど葉織が言ってくれたのは正しかったと。
おじいちゃん、おばあちゃんとお別れする時は、わたしもきっと泣いちゃうだろうから……。
葉織の気持ちが落ち着くのを待って、ふたりは自宅の庭へ出た。
羽香奈は木屑の入った木箱を、葉織は波雪の木屑が入った小皿をそれぞれ手に持って。
太陽がちょうど西の海上に浮かぶ山並みの影へ沈みゆくところだった。
空と海の境目は灼熱のように強い金色を放ち、闇をはらんだ空色は徐々に紫を深めていって、その炎を鎮めていく。
一年間に渡って、亡くなったかもしれない方々の人形の残骸を受け止めた寝床なのだからと、毎年木箱ごと燃やしているという。
延焼しないよう一斗缶の中に納める。
準備が整って、波雪の木屑をどうするつもりなのか、最終確認する。
「最後にオレと羽香奈を会わせてくれて、それがたぶん、お母さんのこの世で最後の仕事だったんだ。
だからもう、ゆっくり休ませてあげなきゃ……」
寂しそうだけれど、確かに自分の意思で、葉織は木箱の中へ波雪の名残を納めた。
一度は激しく燃え上がり、徐々に燃え尽きていく木材は、先ほどの夕暮れの空に似ていた。
まだ泣きはらした顔で祖父母の前に出られないというので、羽香奈ひとりで。
「これからは、葉織くんとわたしだけでどんなことも出来るって、おじいちゃん達に見せて安心させてあげたいって……
そう、葉織くんが」
葉織に頼まれた言葉をそのまま伝えると、半蔵は重苦しくひと息ついた。
ハツは何の話かわかっていないようで、にこにこと、あさっての方を見ている。
半蔵はいつにもまして険しい表情だし、毎年一緒にしてきたことから外されるのが嫌なのかなと羽香奈は不安だったが、それは見当違いだったとすぐに知る。
おもむろに床に膝を着いた半蔵は、老人にしては背も高いので、羽香奈と同じ目線の高さになる。
がっしりと痛い程に強く、彼女の肩を掴む。
その指先は小さく震えていた。
「羽香奈……
わしらの家に来てくれて、ありがとう。
これからも、葉織のことを……頼んだよ」
「……は、い」
葉織にとっては母を、祖父母にとっては娘を、それぞれ手放した日だった。
悲しみの中にいるのは彼らも同じだった。
そして、羽香奈は感じていた。
先ほど葉織が言ってくれたのは正しかったと。
おじいちゃん、おばあちゃんとお別れする時は、わたしもきっと泣いちゃうだろうから……。
葉織の気持ちが落ち着くのを待って、ふたりは自宅の庭へ出た。
羽香奈は木屑の入った木箱を、葉織は波雪の木屑が入った小皿をそれぞれ手に持って。
太陽がちょうど西の海上に浮かぶ山並みの影へ沈みゆくところだった。
空と海の境目は灼熱のように強い金色を放ち、闇をはらんだ空色は徐々に紫を深めていって、その炎を鎮めていく。
一年間に渡って、亡くなったかもしれない方々の人形の残骸を受け止めた寝床なのだからと、毎年木箱ごと燃やしているという。
延焼しないよう一斗缶の中に納める。
準備が整って、波雪の木屑をどうするつもりなのか、最終確認する。
「最後にオレと羽香奈を会わせてくれて、それがたぶん、お母さんのこの世で最後の仕事だったんだ。
だからもう、ゆっくり休ませてあげなきゃ……」
寂しそうだけれど、確かに自分の意思で、葉織は木箱の中へ波雪の名残を納めた。
一度は激しく燃え上がり、徐々に燃え尽きていく木材は、先ほどの夕暮れの空に似ていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる