江ノ島の小さな人形師

sohko3

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2008年の江ノ島

ふたりきりの幸せ

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 そういえば、今となっては経済的に買う事は可能だが、ふたりは未だにカメラを買っていない。

 子供の頃の羽香奈は、大事な家族の記憶を目に見える形で残せるのなら、カメラくらい買ってもいいのでは? 

 そう思ったのだけれど、今となっては波雪達の気持ちもわかる気がした。

 羽香奈にとって宝物となった、葉織の表情も、「これからその表情を撮らせてよ」とお願いしたところで撮れるものではない。

 撮ると宣言した時点で、それはそのために用意されたまがい物。

 だったら思い出だけでじゅうぶんではないか。

 ふたりの成人式のお祝いに、祖父母も含めて四人で、写真屋で撮ってもらった。

 波雪の代に買った絞り初めの晴れ着をその妹、羽香奈と受け継がれた。あの母も着たんだなぁとふと頭をよぎったが、もはやすっかり過去の人となっているので何も気にしない。

 それよりも、問題なのは。

 もしかしたらこのままの暮らしを続けたら、次に晴れ着を託せる子供はいないかもしれないということだろうか。

 それをハツが気にするかどうか、確認を怠ったままにハツは亡くなってしまった。

「確認なんて、いっそしない方が平穏でいいんじゃない」

「そうかなぁ」

「そうだよ。
いくら望んだってそういう子ができるわけじゃないし。
もしちゃんと確認して、継げる子供を残して欲しいってばあちゃんに言われてたら羽香奈はどうしてた?」

「んーと……ごめんなさい、って」

「そう言うしかないじゃん?」

「……そうだね」

 羽香奈と葉織は、子供の頃から今まで、そしてこれから。

 変わらず、家族としてふたりで暮らし続ける道を選んだ。

 戸籍上、きょうだいとされているふたりが子供を作ることも、そのための行為だってしない。

 あの時、きょうだいにならないで「いとこ」のままだったら、結婚だって出来たし、子供だって……。

 そんな風にぼやいたことがあって、その時は珍しく、羽香奈は葉織に真剣に叱られた。

「俺達がもし、血縁じゃない普通の男と女だったとして、羽香奈は子供産みたいって思ったかなぁ」

「……実は、その。あんまりね」

 羽香奈には、親に愛された記憶がないから、本音を言うと「子供を愛する」という感覚がよくわからない。

 それよりも……ただただ葉織とふたりで、いつまでも一緒にいたい。

 祖父母を亡くして以来、もう長らく「ふたりっきりの安らぎ」に浸り過ぎていたので……

子供とはいえ、葉織を独占出来なくなることに不安を覚えてしまう気がした。

「ほらね。
羽香奈のそういうところ、俺だって一応わかってるんだよ」

「あぅ……
私のそういうきたない心、知られてるなんて恥ずかしいよ……」

「いいんだって。
俺はそういう羽香奈と一緒に生きるって、自分で決めたんだから」

 そもそも、別に汚くなんかないし。

 幼い頃から馴染みのソファーに並んで話していたから、葉織は不意に羽香奈の肩を抱き寄せた。

 きょうだいだけど、あくまで戸籍上のことだし、これくらいのスキンシップはいいよね。

 というわけで、体温を感じるくらいの行為はお互いに同意していた。


 ふたりの将来についての考えは、すでに認知機能の低下していたハツには話せずじまいだったが、半蔵にはきちんと話してあった。

 「世間の普通なんて気にしないで、ふたりが生涯、幸せに生きられる道を選びなさい」と言ってくれた。
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