江ノ島の小さな人形師

sohko3

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2008年の江ノ島

外国のお客さん

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 予想していた通り、今日は江ノ島内の客足もまばらだったので、羽香奈は店の外に立ってめぼしい通行人に声掛けをすることにした。

「こんにちは。
江ノ島は初めてですか?」

 小柄な羽香奈よりも頭ひとつ分は背の高い、外国人旅行者のカップルに呼びかけた。

 彼らは限られた日本語と英語しかわからないらしい。

 英語で「こちらは何のお店なの」と質問してきた。

 羽香奈は流暢に英語で応答する。

 実のところ、羽香奈は勉強は得意で、学生時代も成績は良く、英語能力も高い。

 皮肉なことに、幼い頃に何ひとつ与えられなかった羽香奈にとって唯一無条件に得られたのは「学校に関わる教材」だけだったため、勉強は苦になるどころか唯一の友のようなものだった。

 彼らの暮らす家は元は祖父母の経営する土産店だったので、店舗だったスペースを再活用して店をやることにした。

 今回は土産店ではない。

 葉織の力を活かして、一体千円で「ご本人の木彫りフィギュアをその場で作り、その日の内に持ち帰れる」ことを売りにした人形屋だった。

 近年、江ノ島にも外国人観光客が増えつつあり、めったに日本に来られない彼らは旅の思い出として気安く入店してくれる。

 だから羽香奈も積極的に声掛けをしているのだ。

 お客様に商品として出す以上、拾いものの流木で作るわけにもいかず、商売用に関してはきちんと木材を購入している。

 今回のカップルも入店してくれて、店内で待機していた葉織の元へ案内する。

 小さな丸いテーブルを用意し、お客様から葉織の手元が見えないよう隠すための箱がそこに置いてある。

 正式に作り出す前に、羽香奈はサンプルの人形を彼らに見せた。

『どうしてこの女の子の人形は泣いているの?』

『彼の作る人形は、その人の現在の心境をそのまま形にするんです』

 サンプルの人形は、葉織と初めて会った時に作った泣いた羽香奈の人形。

 その翌日の、晴れやかな笑顔の人形。

 そして……。

『三つ目の人形はなんだか、他の作品より拙くないかい?』

『これは、彼が子供の頃に、初めて彫ったものなんです』




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