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自由研究
途中下車
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「君は?」
「オレ、地元の小学生。
お兄さん何を見てるの?」
「あ~……何を見てるってわけでもないんだけど。
なんとなくへこんでて、最寄駅じゃなくて鎌倉高校前駅で降りて、海見て気晴らし?
そんな感じ」
「そうなんだ。元気出た?」
「どうだろね……そんなすぐには、ね」
葉織はまだ、握手の際に剥がした黒い靄を人形に変えていないので、男性の心は沈んだままだ。
「俺、中学高校は水泳部でさ。
嫌なことあったら目いっぱい泳ぐとけっこう簡単に忘れられたんだよ。
でも、大人になったら全然運動しなくなってさぁ。
どうやって忘れたらいいのかわかんなくなっちゃったなぁ」
だから、サーファーを見て考えていた。
あんな風に体を動かしたら、あの頃みたいに忘れられるのかなぁと。
流木拾いをするために出向いた七里ヶ浜だったが、ああやって会話した後で当人の側をうろつくのも気まずくて、葉織はそれじゃ、と挨拶ひとつ残して元来た道を引き返す。
一方的に話しかけてすぐにいなくなる子供に、なんだったんだ、あいつ? とは思う男性だったが。
葉織の経験からして、その程度の感想で許してくれるだけ、あの男性は根が優しいなと思う。
話しかけただけで激高して手を上げてくるような人だって稀にいるから。
そもそもがストレスがかかっている状態の人に接触を持とうというのだから仕方のないことだとも思っている。
羽香奈や波雪にとっては、その「仕方ない」という葉織の物わかりの良すぎるところが心配の種なのだった。
黒い靄を持ったままずっと歩くのは疲れるので、葉織は小動の切通しを通り過ぎてしばらく歩き、小動神社の境内に足を踏み入れる。
僅かな時間とはいえ場所を借りるので、鳥居の前で一礼だけする。
鳥居はくぐらずその足元で、黒い靄を人形に変えた。地面を散らかさないように、バケツの中に木屑が落ちるよう配慮する。
手のひらに小さな玉をこんもりとのっけて、うつろな目でそれをじっと見つめる男性の人形になった。
『わがくらし らくにならざり ぢつと手を見る』
人形に変える直前、黒い靄は葉織にそう語りかけていた。
「そりゃあ、働いて働いて、ってことならそうだろうけど……
パチンコで負けすぎてお金なくなっちゃったんでしょ?」
藤沢駅周辺のパチンコ店で大負けして江ノ電で帰る途中、衝動的に途中下車した。
人の悩みは千差万別。
苦労して黒い靄を回収して人形に変えたところで、こんな悩みだったということも少なくない。
なんだかなぁ。心配して損した。
「オレ、地元の小学生。
お兄さん何を見てるの?」
「あ~……何を見てるってわけでもないんだけど。
なんとなくへこんでて、最寄駅じゃなくて鎌倉高校前駅で降りて、海見て気晴らし?
そんな感じ」
「そうなんだ。元気出た?」
「どうだろね……そんなすぐには、ね」
葉織はまだ、握手の際に剥がした黒い靄を人形に変えていないので、男性の心は沈んだままだ。
「俺、中学高校は水泳部でさ。
嫌なことあったら目いっぱい泳ぐとけっこう簡単に忘れられたんだよ。
でも、大人になったら全然運動しなくなってさぁ。
どうやって忘れたらいいのかわかんなくなっちゃったなぁ」
だから、サーファーを見て考えていた。
あんな風に体を動かしたら、あの頃みたいに忘れられるのかなぁと。
流木拾いをするために出向いた七里ヶ浜だったが、ああやって会話した後で当人の側をうろつくのも気まずくて、葉織はそれじゃ、と挨拶ひとつ残して元来た道を引き返す。
一方的に話しかけてすぐにいなくなる子供に、なんだったんだ、あいつ? とは思う男性だったが。
葉織の経験からして、その程度の感想で許してくれるだけ、あの男性は根が優しいなと思う。
話しかけただけで激高して手を上げてくるような人だって稀にいるから。
そもそもがストレスがかかっている状態の人に接触を持とうというのだから仕方のないことだとも思っている。
羽香奈や波雪にとっては、その「仕方ない」という葉織の物わかりの良すぎるところが心配の種なのだった。
黒い靄を持ったままずっと歩くのは疲れるので、葉織は小動の切通しを通り過ぎてしばらく歩き、小動神社の境内に足を踏み入れる。
僅かな時間とはいえ場所を借りるので、鳥居の前で一礼だけする。
鳥居はくぐらずその足元で、黒い靄を人形に変えた。地面を散らかさないように、バケツの中に木屑が落ちるよう配慮する。
手のひらに小さな玉をこんもりとのっけて、うつろな目でそれをじっと見つめる男性の人形になった。
『わがくらし らくにならざり ぢつと手を見る』
人形に変える直前、黒い靄は葉織にそう語りかけていた。
「そりゃあ、働いて働いて、ってことならそうだろうけど……
パチンコで負けすぎてお金なくなっちゃったんでしょ?」
藤沢駅周辺のパチンコ店で大負けして江ノ電で帰る途中、衝動的に途中下車した。
人の悩みは千差万別。
苦労して黒い靄を回収して人形に変えたところで、こんな悩みだったということも少なくない。
なんだかなぁ。心配して損した。
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